こちらが代表作か。「チェルノブイリの祈り」のアレクシェービッチ。さすがの力量で、一気に読みきった。すごい本だった。
第二次世界大戦の対独戦に参戦した100万のソ連女性たちに、戦後40年たってインタビューしたもの。500人近い人の声が集められている。どの一つも強烈な印象を残す。女たちは医師・看護師、衛生兵だけでなく、狙撃手、飛行士、歩兵、戦車隊、機関銃隊、様々な実戦を体験し、生還し、さらにつらい戦後を生き延びてきた。たしかに戦争は女の仕事ではない。でも女たちはこの戦争だけは戦いたかった。戦わざるをえなかった。そして戦場でも、彼女たちは輝ける若い女性たちだった。40年の歳月のフィルターを通しておばあちゃんが語る、だから暗くはない。むしろ突き抜けた明るさがあって、読み進められる。
独ソ戦の死者は二千万人である。信じがたい数字。ここには戦争のあらゆる細部が描かれている。
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「七十句/八十八句」丸谷才一(講談社文芸文庫)2017/11/9
丸谷才一の墓石には「ばさばさと股間に使う扇かな」という句が刻まれているはず。一度訪れてみたいもの。丸谷は小説家だが俳句も作る。丸谷が70歳(古希)になり88歳(米寿)になった折に編んだ句集二冊と、歌人の岡野弘彦、俳人の長谷川櫂と巻いた歌仙も収録されている。さらにその歌仙に岡野と長谷川が詳しい解説を。これが面白く、ああ歌仙ってこんな風に詠む(読む)んだと納得。
丸谷の俳句は例えば:
アジアでは星も恋する天の川
白魚にあはせて燗をぬるうせよ
暗闇に呪文つぶやく蜆かな
軽妙洒脱です。「八十八句」からは:
露の世や前世のごとく思ひだす
これって辞世の句か。ああ、自分もこのように死にたいものだと思ふ。
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「ノーベル賞の舞台裏」共同通信ロンドン支局取材班(ちくま新書)2017/11/10
ノーベルの遺言により、賞の選考過程の詳細は50年伏せられることになっている。ようやく1960年代の選考の様子が明らかになってきた。文学賞を初めて受賞した日本人は川端康成だが、60年代には、谷崎潤一郎、三島由紀夫、西脇順三郎も正式に候補に挙がっていたとか。村上春樹がそもそもノミネートされているかどうか、50年後に明らかになる。
ノーベル賞で一番問題なのが、平和賞。佐藤栄作が受賞したことは黒歴史のようなもので、日本政府がずいぶんこれに関わった事実も明らかにされている。オバマが受賞した時は、逆にノーベル賞委員会からのプッシュが強かった。当惑したオバマの演説は、記憶に新しい。ノーベル賞のトリビア的情報があふれていて読んでいて楽しい。毎年大騒ぎする日本のメディアだが、良くも悪くもこれが国民性。
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「私たちはどこへ行こうとしているのか」小熊英二(毎日新聞出版)2016/6/30
小熊英二の「生きて帰ってきた男」は素晴らしい本だった。図書館を逍遥していた時にたまたま見つけた小熊の時評集、「私たちはどこへ行こうとしているのか」を借りてみる。2011年から2015年までの時評集で、雑誌新聞などの短い論文やインタビューを集めたもの。少し古くなったかな。安保法制のこと、国会前デモのこと、憲法のこと、ポピュリズムのこと、地方再生のこと。ここ数年のことを振り返りながら、「こうすべきだ」「こうなってほしい」と思う方向とは逆に世の中が動いていると感じてしまう。東京朝鮮学校の話、今一番古き良き時代の学校の姿を残しているのが朝鮮学校なんだなあ。
本は…今一つかな。
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「詞華美術館」塚本邦雄(講談社文芸文庫)2017/11/9
手の届かぬ人という印象の塚本邦雄だった。耽美的で写実とは正反対のところで歌を作ってきた方。「詞華美術館」は、古今東西の文芸から塚本お気に入りの作品の一部を集めて、それを27の主題の下、小部屋の中に閉じ込めたという風。「無明の花」の章では、J・G・バラードと牧水と世阿弥とウィリアムブレイクと虚子とトマスマンの言葉が選ばれて、さらに塚本がその言葉をつなぎ合わせてまた別の世界を作り上げている。しかし、ペダントリー溢れるこの本をちゃんと味わえるほどの読み手にいつかなれるかというと、まったく自信なし。
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「こんにちは、ユダヤ人です」ロジャー・パルバース/四方田犬彦(河出ブックス)2014/10/30
博学の四方田さん、面白いものを書くので時々読みたくなる。ロジャーさんは迂闊にも初めて耳にするお名前だった。トランプのエルサレム首都問題が持ち上がっている折、ユダヤ人とイスラエルのことを知るのにちょうどいい機会でもある。世界中にユダヤ人は点在しており、特にヨーロッパとアメリカの文化と科学技術に関して、ユダヤ系の人たちの影響力ははかりしれない。
ただイスラエルという国となるとちょっと違う。ロジャーさんもイスラエルに行きたいなんて思わない。その成り立ちからして針の上のような危うい国家。アウシュビッツの記憶を国家のアイデンティティにしようという動き、アーレントのアイヒマン裁判批判にもあったっけ。恥ずべきことでもなく、正当なことかもしれないが、それは違うと思うユダヤ人がどれだけいるか。
それはさておき、我々日本人は、ボブ・ディランもポール・サイモンもウディ・アレンも普通のアメリカ人だと思い、そのアメリカンカルチャーを楽しんでいるのだが、例えばポール・サイモンの歌には「ぼくの前世を思い出すと、仕立屋だったんだ。ぼくはいつも自分を偽っている」という一節がある。
パルバースは「それは典型的なユダヤ人ですよ」と指摘する。それがどうしたと日本人は思うのだが…なかなか難しいのでした。
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ところで、最近は小遣いもないに等しいので、本はほとんど図書館で借りている。幸い町の図書館は新設なったばかり、冊数は極めて少なく読みたい本がないことも多いが、明るくて広くて快適。150円のコーヒーをだしてくれるカフェも併設している。しーんとしていないのが田舎というか、でも結構そのルースなところが好き。
図書館新設いいですね。ぼくは各地の転勤で、図書館新設のタイミングに、函館と甲府でラッキーしました。最近の図書館はカフェあり、隠れ場所あり、工夫した仕掛けあり、素敵な椅子ありで本当に楽しいです。大きな図書館が遠いところに住んだときは最寄りの分館に行き、読みたい本をあらかじめネットで取り寄せ本を受け取りますが、小さな分館にだって一周りすれば読みたい本はいくらでもありますね。予期せぬジャンルとか、恥ずかしくてとても買えない書名の本とか。
アレクシェービッチの聞き込み取材はほんとに凄いですね。独ソ戦読んでみたいです。ソ連死者2000万人。日本の戦没者は民間人合わせて300万人、ナチスに殺されたユダヤ人は600万人ですが、桁違いですね。第二次大戦の米兵死者数42万人は、南北戦争に及ばないそうですね。
やはりエルサレム問題で、内田樹の「私家版・ユダヤ文化論」をちょうど読み返していました。
新しくて広くて明るい図書館なので、利用者もすごく多くなりました。休日は親子連れが、平日も夕方からは学生が一杯で、(鄙には稀な)成功した文化施設となり、めでたい。納税者としても嬉しい限りです。
「戦争は女の顔をしていない」は、女性の言葉だけで書かれた戦争の叙事詩です。当然男の視点はありません。歴史とか大義とかではなく、日常としての戦争が描かれています。一つ一つのエピソードが集まり、まるで大きな海のように。力のある作品でした。「チェルノブイリの祈り」は読むのがつらいところもありましたが、こちらは、不思議なことに、少し元気もでましたよ。
トランプは言いたいことをいっただけで、大使館を移すというのが現実的に任期内にできるはずもないのだけど…メキシコの壁とか、みんなそうですね。「感情」と「政治」のバランスがあまりにとれていなくて、内田さんも心配してるけど、madness的な何かありそうな気がする。それにしてもヘイリー大使の言葉も強烈でした。世界中で「なんだかなあ」と言われてそう。
わが町にも明るく広くて快適という図書館がありますが、いつ行っても、来館者はいても一人か二人・・勿体ないなあと思います。近所のばあちゃんたちがお茶をのみながらペチャクチャとはいかない場のせいか 秋田市内の図書館は、それなりに入っているのですが・・
「チェルノブイリの祈り」は読んでる途中で挫折してました。「戦争は女の・・」、今年読みたい本リストに入れたいと思います。
今年もよろしくお願いします。
kamadamさん、あけましておめでとうございます。
古川の図書館は昨年新設なったばかりで、なかなか快適です。単に本を貯蔵する、貸し出すというだけでなく、地方文化再生のベースにしようということで、新しい図書館はいろいろやっているところなんでしょうね。
アレクシェービッチは長いですからね。こちらもだいぶ古い本でもっと長いんですが、たぶん読みやすいと思います。彼女とボブディランと、文学以外が続いたので、今年はイシグロだったのでしょうかね。
子どもや孫たちや姉が帰って、今日からまたひっそりした暮らしに戻りました。秋田はなかなか晴れませんね…
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
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