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2015年03月05日 09:56書評全体に公開

<読書日記>永田和宏「現代秀歌」・ヴァイツゼッカー「荒れ野の40年」・水野直樹「在日朝鮮人 歴史と現在」

水野 直樹・文 京洙「「在日朝鮮人 歴史と現在」(岩波新書) 2015/1/20
良書である。「在日」というマーカーの本当の意味を知りたいと思うなら、まず第一に読むべき基礎的な本だと思う。日本における在日朝鮮人の100年の歴史が描かれている。筆者は公平で偏らない観点から事実を通時的に俯瞰的に書いていく。冷静な筆致で、極めて読みやすい。

古代の帰化人は別として、朝鮮人の日本への渡航は1910年の韓国併合の時期からが増えてきた。戦前戦中の徴用・強制連行もあり、その数は圧倒的に増えた。激しい差別と貧困の中で、彼らがどのように生きたか、何故帰らなかったのか。現在でも「在日」は個の中で強く内在化されているのか。

たとえば戦前戦後なら「関東大震災時の朝鮮人虐殺」、「強制連行」「炭鉱労働者」「創氏改名」などのキーワードで、その抑圧と差別の実相がわかるだろう。戦後は、「闇市」「朝連と民団」「参政権停止」「パチンコ産業」「北朝鮮への帰国運動」「在日二世」「国籍差別撤廃裁判」などを解読しながら、在日コミュニティの揺れ動いた歴史と「在日」であることのそれぞれの苦悩と矛盾が、日韓・日朝の戦後史も交え、丁寧にすっきりと描かれている。日本の戦後史の裏面でもある。

醜悪なる「ヘイトスピーチ」が生まれてくる日本人の心のありかを振り返る契機ともなるかもしれない。2時間程で一気読み。


ヴァイツゼッカー「荒れ野の40年」(岩波現代文庫「言葉の力 ヴァイツゼッカー演説集」より)2009/11/13
1985年(ベルリンの壁崩壊の5年前)にドイツ国会で行ったヴァイツゼッカー大統領の有名な演説。岩波ブックレットにあったものだが、現在は入手困難かな。これは2009年にヴァイツゼッカーの演説をまとめて出版されたもので、「荒れ野の40年」はその巻頭にある。わずか28ページ、一読されたし。
よく引用される部分はここ:

「問題は過去を克服することではありません。さようなことができるわけがありません。後になって過去を変えたり、起こらなかったことにするわけにはまいりません。しかし、過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります。非人間的な行為を心に刻もうとしないものは、またそうした危険に陥りやすいのです。」

この演説は、戦後40年たったドイツ国民に向かってなされたもので、日本の「首相談話」とは位相の異なるもの。ある意味国民に対する「教育」「激励」「共感」が基本にあり、その分、外部から見れば「ドイツに甘い」という批判もあるかもしれない。但し、見るべきは、その格調と深い思索、自国民への愛情にあふれた演説という点か。現在のドイツはネオナチによる移民排斥が大きな問題になっているが、ヴァイツゼッカーの敬虔で賢明な演説群(たくさん)は、戦後ドイツの精神的支柱として歴史に残るように思えた。このような演説ができる政治家がいつか日本に現れるだろうか。

永田和宏「現代秀歌」(岩波新書)2014/10/21
現代日本の代表的歌人の一人永田和宏が選んだ100人の現代歌人。どれも素敵な短歌。一ページに一首二首、永田の解説を読まなくても、短歌が好きならパラパラとあっという間に読める。わかりやすく歌人とその歌を解説する手際もなかなか。そもそも短歌読んでみたいけど、何読んだらいいのかと思うような人向きだし、短歌に関心がある人も、なるほどこういう選歌ですか、と楽しめる。
   夏の風キリンの首を降りてきて誰からも遠くいたき昼なり  梅内美華子
   海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手を広げていたり  寺山修司
   たとえば君 ガサッと落ち葉すくふやうに私をさらって行ってはくれぬか   河野裕子
   ガス弾の匂い残れる黒髪を洗い梳かして君に逢いゆく  道浦母都子

最終章、病床にありながら亡くなる前日まで歌を作った歌人の妻、河野裕子との思い出、歌を通しての会話はなかなかせつない。

ところで。好みもあるだろうが、私の好きな歌が結構漏れているのはちょっと残念。自分なら同じ作者でも次のような歌を選ぶと思う。
  こみあげる悲しみあれば屋上に幾度も海を確かめに行く  道浦母都子
   細き腕闇に沈んでゆっくりと「月光」の譜面を引き上げてくる  加藤治郎
   廃村を告げる活字に桃の皮ふれればにじみゆくばかり 来て  東直子
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コメント

RE: <読書日記>永田和宏「現代秀歌」・ヴァイツゼッカー「荒れ野の40年」・水野直樹「在日朝鮮人 歴史と現在」
文庫、新書三連発の評、ありがとうございます。やっぱり安くて小さいこのサイズに手が伸びてしまいますね。どれも読みたくなりました。
2015/3/5 18:55
RE: <読書日記>永田和宏「現代秀歌」・ヴァイツゼッカー「荒れ野の40年」・水野直樹「在日朝鮮人 歴史と現在」
岩波新書、文字が大きくなりましたね、助かります
「在日朝鮮人」は出たばかりなので、書評もありません。もしかして勘違いの読みになってたら申し訳ないですが、私にはとてもよいテキストでした。そう、良質のテキストという感じですね
「荒れ野の40年」は教養として、お勧めします。もう「教養」って古いですかねぇ
短歌と俳句については、自分で実作するかどうか、というのが一つのポイントで、読みの質とか関心の対象が変わります。鑑賞のみということであれば、こうしたアンソロジーが一番。(正直あとは面白くないかもしれない、有名歌人でも
2015/3/5 20:02
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