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深田久彌『日本百名山』後記
「御在所岳は麓に湯の山温泉を持ったのが不幸で、ロープウェイで運ばれた頂上附近の、遊園地化には、胸も凍るまでの衝撃を受けたが、まだまだ鈴鹿には原始の姿がいっぱいあるのではないかしら」
田中澄江『花の百名山』御池岳
のっけから辛辣であるが、これが鈴鹿山脈を代表し、同山域でもっとも人気とされる御在所岳に対する、著名な山岳書が下した評価である。先日、三重旅行に行き、鈴鹿の山(御在所岳と藤原岳)に登る機会に恵まれたのだが、これらの著作を目を通していたせい(?)で、御在所岳に対してはあまり期待していない部分があった。だが、実際に中道〜御在所岳〜裏道へと歩いてみると、変化に富んだ登山道で思いのほか楽しい山歩きができた。山頂公園に近づていくと、突然に軽装の観光客の姿が増えだすことに対して、なんだか拍子抜けしてしまうあの感覚は分からないでもないのだけれども。
御在所にロープウェイが開通したのが1959年のこと。『日本百名山』の刊行が1964年、『花の百名山』は1980年である。上記の書きっぷりからすると深田先生(1903〜1971)も田中先生 (1908〜2000)も、おそらくロープウェイ開通前の御在所のことは知らないようだけれども、明治生まれの二人にとってはロープウェイやリフトやケーブルカーなんてものは、すべて山の雰囲気を壊す邪道な道具に過ぎないのかもしれない。
ところが、その御在所にロープウェイを利用して登山を行っている有名な山岳書の著者がいる。『日本百低山』の著書である小林泰彦(1935〜)氏である。昭和戦前期生まれの氏が御在所を訪れたのは1980年の秋というから『花の百名山』が世に出たのとほぼ同時期である。
「御在所の山頂は遊園地のようになっていて、この山の中ではここだけが下界の行楽地のような賑わいだけれども山歩きのために通りがかった人たちは、これは無視して通り過ぎてゆく」
小林泰彦『日本百低山』御在所岳
……と、ここでもやっぱり遊園地扱いされているのだった。ただ同書を読むと、この当時は山上公園内にはブランコやすべり台といった遊具が設置されていたらしいので、あるいは現在の様子以上に「遊園地」的な雰囲気の漂う山頂だったのかもしれない。遊具が悪いわけではないけれどもハイカーが興ざめする気持ちも分からないでもない。
もっとも『花の百名山』も『日本百低山』も『日本百名山』あっての著作ではあるので、田中さんも小林さんも、深田さんの表現を本歌取り的に踏襲しているだけなのかもしれない。良きにつけ悪しきにつけ、山に対して「遊園地」という表現は印象的なものだと思う。
御在所岳には三重県唯一のスキー場もありました。真ん中の写真の場所でした。
深田久弥は「高さの無い山は魅力がない」的なことを書いていますが、麓から登れば1000メートルです。百名山でも一気にこれだけ登る山は稀です。小説にもなった藤内壁もあります。山上は遊園地ですが、登山に関しては魅力のある山です。
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