|
その時は１泊２日の行程で、御池ではなく七入でバスを降り、会津沼田街道から尾瀬に入りました。沢沿いの登山道には残雪もなく、日陰の斜面に雪が見えるだけで、快適な道のりで沼山峠を経て尾瀬沼に到着しました。そのまま長蔵小屋に宿泊。素泊まりでしたが個室利用で風呂にまで入れ、快適な夜を過ごしました。
翌日、早朝に小屋を出発。今回と同様に長英新道から燧ヶ岳の登頂を目指しました。高度を上げるにしたがい残雪が増えてきて、多少の登りにくさは感じましたが、それほど苦労することもなく燧ヶ岳の双耳峰の一方である俎�瑤砲泙播�達。あとは一度下って登り返せば、最高峰の柴安�瑤謀�着です。鞍部まではスムーズに移動し、雪の登りを前にチェーンスパイクを装着。さあ、もうひと頑張りだ！ というところで残雪が壁のように立ち塞がり、それ以上進むことができなくなりました。いや、無理やり前進すればよじ登ることはできたかもしれません。しかし、自分の装備はチェーンスパイクにトレッキングポールが２本のみ。12本爪アイゼンもピッケルも持っていません。強行すれば、登頂後に引き返せなくなるのではないか？ そんな疑念が頭をよぎったところで、自然と撤退を決意していました。
｢さあ、引き返そうか｣と足を動かしたその瞬間でした。足元がもつれ、自分の身体は雪面を滑り落ちていました。(滑落した！？)そう自覚した数秒後、自分の両足裏は露岩の上にジャストヒットし、数m滑り落ちただけで停止しました(画像の赤い矢印が指し示すあたりです)。冷や汗を流しましたが、幸いどこも怪我はしていないようでした。しかし、わずかな距離でも滑落の恐ろしさを自覚させられるのには充分過ぎる体験でした。一度滑り出したら、ピッケルでも持っていなければ自分の動きを止められないというのを、理屈ではなく身体で理解することができました。
その後、俎�瑤泙婆瓩蝓�御池登山口に向かって下山したのですが、こちらでも怖い思いをさせられました。通ったことのある方なら皆さんピンとくると、思うのですが、燧ヶ岳の山頂から御池方面に下山する途中、登山道が枯れ沢のような地形をトラバースするところがあります。そこには残雪が数センチの厚さでうっすらと積もっている状態でした。ツルツルの雪面よりは幾分マシですが、このくらいの雪だとずるっと横滑りすることがあります。ここで滑落しようものなら、やはり大変なことになります。チェーンスパイクとダブルストックに全神経を集中して、なんとか無事にこの難所を通過しました。そこから下の道では、雪を踏み抜いて腰まで埋まったり、雪解け水で濡れた木道で滑って尻餅をついたりしましたが、どれもこれも滑落の恐怖に比べれば屁でもないことでした。
この日の山行では誰ともすれ違うことがなかったことからも、この時期の燧ヶ岳登山は一般レベルのものではなかったことがわかります。当時の自分には明らかに手に余る計画だったのでしょう。一応、出発前には山小屋のスタッフに燧ヶ岳に登ることは話していたのですが、特に危険だと止められるようなこともありませんでした。まあ、山小屋の人に当時の自分の具体的な登山スキルなどわかるはずもないので、最終的に何事かあったとしても、それは全部登山することを決定した自分の責任になるのですが。事前の情報収集によるリスク管理の大切さを思いしらされた一件として、忘れえぬ体験となった出来事でした。
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する