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刃体は当初の頃に比べて幅が2センチ近く研ぎ減って細くなっていた。めったに見られない使い込み方だった。きつい現場ばかりを担当してくれていたんだと思う。実に男臭い、使い込んだ鉈の姿だ。できるだけ損なわずに補修したい。
滑り止めのテープを剥ぎ取って、目釘を反対から打ち抜き、柄を外したところで気が付いた。カツラが緩かっただけではなくて、目釘が一本折れていたのだ。たいした膂力だ、さすがは北海道生まれの野生児だと思った。
野生児の斬撃に耐えられるように、もともとの3ミリの目釘穴を、柄も茎もドリルで拡張して、4ミリの鉄線でがっちりカシメた。むこう50年は緩まないだろう。いくら野生児でもそのころは引退しているかな。
鞘の吊りバンドの調整も済ませて、さて研ぐかとなった時、確認のLINEを入れてみると、研ぎだけは自分でやるとの事。命の部分は男の矜持なのかもしれない、手出しは止めておく事にした。
出張先では、同じ宿に泊まり、遅くまでYちゃんの酒に付き合った。もともと鼻息の荒い彼は酒が入るとさらに荒く、機関車並みになる所をなだめながらの夜更かしだった。「Jimさんに鉈をもらいながら、自分でに手入れもせずに、切れなくなったらjimさんに研いでもらうなんて虫が良すぎる、ナメてやがる!」だそうな。気性は激しいが、若手の面倒見が良く、人望が厚い漢なのだ。自分の刃物は最低限、責任を持って研ぐ、例えるなら犬を飼うようなものだと言っていた。自分で育てていく責任があるんだそうだ。Yちゃんは犬には好かれ、おまけに女性にモテる。なるほど、ならば柄の修理などは獣医さんの仕事だ、私は医術のみの出番であったわけだ。
酒が進むとさらにヒートアップ。「会社に戻ったらあいつら駐車場に呼び出して片っ端から×××して××××。××××を×××にしてやるんすよ!聞いてんすかJimさん!」ああ、良いから良いからどうどう。いつもの付き合いもなんだか懐かしい。「聞いてくれYちゃん、俺が人の刃物を研ぐのは、山の中で×××として、刃物が人を守ってくれると×××ての事なんだ。」こちらの言い分を覚えてくれているだろうか。また飲めばリピート状態になるんだろう。
修理の完了写真をまたLINEで送ると、その返事は「お礼の酒は5升じゃ済まないっすね!」だった。もういいって。

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