大天井岳、常念岳


- GPS
- 21:48
- 距離
- 20.1km
- 登り
- 2,179m
- 下り
- 2,302m
コースタイム
- 山行
- 4:52
- 休憩
- 0:24
- 合計
- 5:16
- 山行
- 7:48
- 休憩
- 1:14
- 合計
- 9:02
天候 | 曇り時々雨 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2017年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 タクシー
大糸線穂高駅から中房温泉 7,600円 一ノ沢登山口からほりでーゆ 3,300円 ほりでーゆから大糸線穂高駅 2,900円 |
コース状況/ 危険箇所等 |
危険個所等なし |
その他周辺情報 | ほりでーゆ四季の郷 日帰り入浴530円 登山者用に荷物置き場用の部屋を開放するなど、いたれりつくせり。ゆっくり温泉に入ることができました。 |
予約できる山小屋 |
中房温泉登山口
|
写真
装備
個人装備 |
Tシャツ
タイツ
アームカバー
ズボン
靴下
グローブ
防寒着
雨具
日よけ帽子
着替え
靴
ザック
ザックカバー
昼ご飯
行動食
非常食
飲料
ハイドレーション
ライター
地図(地形図)
コンパス
笛
計画書
ヘッドランプ
予備電池
筆記用具
ファーストエイドキット
常備薬
日焼け止め
化粧品
ロールペーパー
保険証
携帯
時計
サングラス
タオル
ナイフ
|
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備考 | 長袖シャツを忘れてしまったが、実際は不要。アームカバーでじゅうぶん。夏だし小屋泊なのでザックの自重を入れても5kg以下に抑えたかったが、今回は600gオーバー。 |
感想
今年の夏の山行は当初は白馬岳を考えていたが、最終的に燕山荘から表銀座を縦走して常念岳に至るコースを選択した。理由はいくつかあるが、7月の白馬岳はまだ雪が多いだろうということ、一度は表銀座を歩きたかったこと、かつて燕岳の帰りにヘロヘロになったリベンジをしたかったこと、鈴木ともこさんの漫画に出てくるコースであること、などが挙げられる。一般には北アルプス入門コースであるが、体力のない筆者にとってはある程度の覚悟のいるコースである。メンバーは例によって、リーダー、助っ人氏、記録係の筆者の3人である。助っ人氏と筆者はちょっと遅れてリーダーと穂高駅で合流したのだが、松本から穂高までは「いろどり号」という臨時便の観光列車を使った。コンパートメント形式の車両もついた観光列車だが、我々の車両は内装ピンク一色のちょっと恥ずかしさを感じる列車で、とても居づらく、そわそわした。まあ、そんなこんなで穂高駅につくと、すでに到着していたリーダーが豪快に握り飯を頬張っていた。早速予約していたタクシーに乗り、いざ中房登山口へ。登山口に着いたのは11時前で、遅いスタートである。登山口では下山してきた人に上の天候を聞くと、富士山が見えたと情報をもらったが、同時にがクマが出たらしいという話も聞き、ちょっとビビりながら登山を開始した。
筆者にとっては2度目の道だが、前回は途中のベンチのあいだの距離が地図時間と合わなくて苦しい思いをした記憶がある。地図がおかしかったのか我々の歩きがおかしかったのか、検証せねばならない。それでも順調に第一ベンチ、第二ベンチと通過し、雷か何かで真っ二つに裂けた木や筆者には名前のよくわからない花などを眺めたりしてようやく富士見ベンチに到着。前回よりは各ベンチ間の時間がばらついていなかったので、やはり前回は相当ペースが乱れていたんだろうなと思った。道すがら登りでストックをうまく使う「マタイ受難曲走法」を編み出したことをパーティーの2人に紹介してみたが、何だそれはという顔をされた。うーん、これはまだ筆者の中で秘技として取っておくことにしよう。我々のゆっくりペースで三時間半かけて合戦小屋に到着。スイカの時間だ。頑張って登ってきたせいだろうか、特に甘く感じる。久々にスイカがうまいと思った。
合戦小屋から合戦沢の頭まで上がるとちょうど樹林帯を抜ける。ここでストックをしまい(うん、教科書通り)、さらに上を目指した。もう15時半にになろうとしており、我々を追い抜いていく人はほとんどいなくなっていた。そこから40分、ようやく燕山荘が見え始め、16時半ごろ到着。到着と同時に槍ヶ岳と裏銀座の峰々がどーんと飛び込んでくるのがこの山小屋のいいところで、感動ものである。残念なことに快晴とはいかず、燕岳にも若干雲がかかってたが、北アルプスの女王の名にふさわしい姿を拝むことができた。
燕山荘で受付を済ませると、別館の部屋に案内された。我々のほかにはまだ数名しか入っておらず、遅めの到着の人はこちらに回されるのだなと思ったが、トイレも付いてるし(しかもきれい)、晩御飯を食べに行く手間以外は何の問題もない。荷物の整理をして本館の喫茶コーナーに出かけた。筆者はもちろんビールである。もう飲むのかとリーダーから非難めいた意見が出たが、歳をとってくるとビールを飲むとゴハンが入らなくなるから飲むなら今なのだ。今でしょ! でもリーダーと助っ人氏の目が怖かったので小ジョッキにしておいた。後の2人はケーキセットである。周囲の人も思い思いにリラック スして山小屋のひとときを楽しんでいる。助っ人氏によれば、山小屋の楽しもの一つは全国各地のお国ことばを聞くことができることだそうで、確かに、いろいろなイントネーションの方言が聞こえてくる。日本全国から北アルプスを目指して皆さんやってきているのだなあと改めて思う。特に東北や九州の人は登山口に着くまでも一苦労であろう。それだけこの風景は誰をも魅了しているということだろう。
ビールのあとは写真をとったり、お土産を観たりして一旦別館に戻ったあと、19時半の食事に行った。非常に充実したおかずで、現状東京一人暮らしの筆者の日ごろの夕食よりはるかに栄養バランスがよく、健康的であった。食事の後に山小屋主人の赤沼さんからお話があったのだが、温暖化の影響で11月の雪が極端に減っている画像や、そのせいで冬の羽毛に生え変わったのに周囲の保護色になっていないライチョウの様子などが紹介され、改めて温暖化問題の大きさを認識した。
翌日は4時15分の朝食に並んで、5時半に出発することにした。我々の足では燕岳に寄っていると時間的にも体力的にもきついので、直接表銀座の縦走に出発である。天気は曇りであったが、真正面に槍ヶ岳と裏銀座の峰々がくっきり見え、感動しながら縦走を開始。これをやるために今年の夏はこのコースを選んだのである。見えてよかった。最初は稜線の西側を歩くことになるのだが、偏西風の吹きつける西側はほとんどハイマツしかなく、たまにある人の背丈ほどの木は風のために大きくなびいた形で立っており、自然の厳しさを感じさせるものであった。風が結構強くちょっと寒いぐらいであったのだが、しばらく行って稜線を越えて東側に回ると多彩な植物群が見られ、風は稜線にさえぎられて蒸し暑いのだ。稜線を越えただけでこんなに環境が変わるのかと驚いた。そして虫である。種類はわからないが多量の虫、アブとか蚊の類だと思うが顔のあたりにまつわりついてきた。これは想定外であった。ここでリーダーの持ってきた虫よけハッカスプレーが活躍することになるのだが、筆者にとっては時すでに遅し。筆者のこめかみは無数に刺されており、下山後には金魚のランチュウ状態になっており、かゆいし見てくれは悪いし、この山行の最大の失敗であった。あとで原因を解析したが、黒い帽子をかぶっていたのがいけなかったのだろうか?ハチは黒いものに寄ってくると言うし。すれ違う人や追い越していく人の中には蚊帳みたいに網で顔をすっぽり覆ってしまっている人もいた。これはいい考えだね、とリーダーに言うと、酸欠になりそうとの答え。筆者と助っ人氏は結構刺されたのだが、リーダーの被害は微少でちょっと不公平な感じであった。リーダーは貧血気味らしいのできっとその血は虫にとって美味しくないに違いない、と思って悔しさをごまかすことにした。しかし、これらの虫に血を吸われていたのだとすると、栄養たっぷりの人間の血を吸った虫は異常繁殖して生態系を乱したりしないのだろうか。筆者のコレステロールたっぷりの血が生態系を乱したとすれば罪深いことである。食生活に気を付けることにしよう。
大下りの頭を過ぎ、テレビとかでよく出てくるクサリとはしごが出てくる場所を通過してしばらく行って気が付いた。蛙岩も喜作レリーフも見逃しているではないか。なんとうかつなことであったか! ショックを隠しながら大天荘への最後の登りに取り掛かった。親切なことに「あと500m」とか表示が出ているのだが、この上りで100m縮めるのはなかなか大変である。あと200mのところでは「サニブラウン選手ならあと20秒」、100mのところでは「桐生選手ならあと10秒」などと言いながら、その何十倍もの時間をかけて登り、ようやく大天荘に到着した。
あいにく雨が降り出して、周囲もガスに包まれたが、大天井岳のピークハントはしておこうと、荷物をデポし雨具を着込んで出かけた。山頂までは15分程度だったが、折しも風が相当強くなってきており、急いで記念写真をとって大天荘に戻った。まだ大天荘は昼の営業時間前だったので持参した食物をとって先を急ぐことにした。でもリーダーはどうしても温かいものを食べると言ってカップヌールの「カレー」を買ってきて食べていた。どうだ食べたいだろうみたいなことを言うので、要らないと言ったのだが、カレーヌードルはしばらく食べていない。ちょっともらっておけばよかったかと若干の後悔が残った。
大天荘を出発すると雨は小雨ながら風はますます強まり、立ち止まって風をやり過ごさないと前に進めない状況がしばしば発生した。数時間前の穏やかな朝とは打って変わって厳しい天候である。山の天候が変わるのはあっという間だと思いつつ、ゆっくりと、しかし確実に進んでいく。東天井岳を左に見つつ旧二俣小屋跡と思しき場所で休憩し、そこからちょっと行ったところで東天井岳を回り込むようにカーブすると小さな雪渓があってそこを注意深く渡った。軽アイゼンも持参せず、ストックもしまっていたので、ほんの10mかそこいらなのに結構緊張した。
そのヘアピンカーブを回り込むと急に風が収まった。収まったのではなく稜線にさえぎられたのだと思うが、一息つけた感じである。ハイマツの間の斜面をゆっくり下り、ちょっとした広場のような場所に出て休憩。逆方向から来た人に聞くと、この広場の近辺だけ風がなく、この先また強風にさらされるようであった。その広場でお菓子の忘れ物を見つけた。ちょっと迷ったが、放置すると何らかの動物のえさになって生態系を乱すことになるかもしれないと思い、持って行くことにした(これはあとで常念小屋の方が引き取って(処分して)くれた)。
再び強風の中を歩き、途中、リーダーが岩ひばりだと主張する鳥を見つけたりしながら先に進むと常念岳を正面に臨む場所に出た。美しい山容である。そしてその向こうには涸沢カールと山頂が雲で覆われた穂高連峰が見えた。岩場を通って横道岳の巻道で団体をやり過ごし、さらに某有名野球選手に似たレスキューっぽい人たちに先に行ってもらい、ゆっくり常念乗越へと下った。常念小屋の屋根が見え、ああ何とか歩き切ったな、と思ったのが間違いでここからが結構長かった。途中、レスキューっぽい人たちは、足を痛めたと思しき人のサポートをしていたと思われたが、その先で出血した人の治療にも取り掛かっていた。さらに下ると森林帯に入り標高が下がったことを実感した。この森林帯で筆者は足を滑らせてしりもちをつきそうになり、さらに常念小屋の直前で足をくじきそうになってたたらを踏むなど、脚力のなさを露呈した。が、とにかく着いたのだ。ビールなのだ。と、その前に小雨の中を歩いてきたのでそのあたりの対応が必要だ。でも乾燥室を利用するほどではなかったので、簡単に荷物整理をして同室の方に挨拶し、食堂へと向かった。常念小屋はさすがに混雑していたが、何とか場所を確保し、ビールとつまみを購入し、お茶を飲むリーダーと助っ人氏を横目にごくごくごく。ぷはー。でもまだ半分以上あるぞ。なぜなら今回は中ジョッキだからです。ビールがジョッキに半分入っているとき、もう半分しかないと思うか、まだ半分あると思うか、その人の人生を象徴しているのかもしれない。という哲学的思考の向こうでリーダーが「えー、もう半分飲んじゃったのか!」という顔をしていた。
小屋についてしばらくすると雨が強くなってきた。何とか間に合ったね、などと会話しながら、ビールのあとのコーヒーを飲みながら夕食を待った。夕食はハンバーグ。美味しかった。
同室の人たちは、6人ぐらいのパーティだったが、どういう関係なのだろう?言葉遣い、男女比、年齢層などから憶測してみるが特定が難しかった。でも憶測が難しいという意味では我がパーティも負けてはいない。ちょっとやそっとでは分からないメンバー構成である。同室の人たちもきっと怪しい関係だと想像したのではないだろうか?でも実は全然怪しくないんです。単なるリーダーと記録係と助っ人なんです(ますます怪しい)。
翌朝天気が回復することを期待したが、残念ながら曇り。でも雨が上がっただけ良しとせねば。荷物をデポし、水だけ持って常念岳を目指した。常念岳への登山道はずっと石がゴロゴロした急登で浮石にも注意が必要だった。振り返ってみると常念乗越を雲が西から東へ超えていくと同時に消えていくのが見えた。同室の人の情報どおり、常念小屋から見えていた山頂らしきものはまだ途中でさらに向こうに山頂があった。予定時間より結構かかって山頂に到着。順番待ちして記念写真を撮ったが、残念ながら槍ヶ岳も穂高も見えず、また来いってことだね、などと言って山頂を後にしたのだが、山頂から蝶ヶ岳方面に行く道は切っ先の上を歩くような道で、高所恐怖症の筆者から見ると相当怖そうであった。それから注意深く岩場を下り、途中昨日のレスキューっぽい人とすれ違ったらしいが、筆者はそれと気づかず、リーダーと助っ人氏から注意力の散漫さを改めて指摘された。
さて、常念小屋に戻って一休み。小屋のトイレは使えなかったのでテント場のトイレを借りたが、なかなかワイルドであった。「トイレミシュラン」を名乗る助っ人氏の評価が高くなかったのはもちろんである。
ここからはストックも取り出して、いざ一の沢登山口へ下山を開始した。下りが苦手な筆者が先頭である。やはりペースが速くなっていたようでリーダーからたしなめられ、「ゆっくりゆっくり」と言い聞かせつつ下った。しばらく行くと最終水場という案内のある場所に着いた。ここで待ち構えていたのは丸太橋である。我々の行く手を阻む難関、丸太橋。家の近所の歩道橋でも怖い高所恐怖症の筆者としては相当の緊張を強いられる。それでも渡らないわけにはいかないので、意を決してバランスを取りながら注意深く渡る・・・渡ったー。難関クリアー。どんなもんだい。ぶいぶい。
さらに下っていくと胸突き八丁という場所に出たが、その周囲はニッコウキスゲが群生していた。ニッコウキスゲは大きいし華やかである。このあたりから沢沿いの道を行くのだが、標高が下がって熱くなってきたし、脚に結構キテいる感じで、数年前のヘロヘロ事件が頭をよぎったが、沢道というのは次第に緩やかになるのでそれが幸いであった。途中沢を渡ったり、またまた丸太橋を渡ったり、一瞬道に迷いそうになったり、またまたまた丸太橋を渡ったりしながらひたすら下り、王滝ベンチに到達した。王滝ベンチは地図では「王滝」だが現場の表記は「大滝」だった。その先は緩やかな下りである。助っ人氏がベイスターズの応援歌の紹介などしながら下ってくると登山口にほど近い辺りに小さな鳥居があり、地図で確認すると「山の神」とあった。ここまで無事降りて来れられたことに感謝しつつお参りし、さらに進んで、ほぼ予定時間通りに一の沢登山口についた。やったー。タクシーの予約はしておいたのだが、まだタクシーの姿はなく、ジャンボタクシーが一台待機していた。荷物整理をしながらタクシーまだかなーと思っているとジャンボタクシーの運転手さんがそろそろいいですか、と声を掛けてきた。タクシーは出動する前に乗せる客を決めている訳ではなく、本部と連絡を取り合いながら乗せる客を決める方式らしかった。
そこから「ほりでーゆ」という温泉施設へ。常念岳から帰ってきた人がたくさん来ているようで、今日どこかであったような人を何人か見かけた。登山者のザックは風呂のロッカーに入らないので、この施設では1階の部屋を一部屋、登山者のための荷物置き場として開放してくれていた。こういう配慮は大変ありがたい。施設の責任者らしき人から「山はどうでしたか?」などと聞かれ、二言三言会話したのだが、「さっきの方は、虫がすごかったと言ってましたよ」とのこと。そうなんです。虫はすごかったんです。コレステロールたっぷりの血が好きらしいんです。
さてゆっくり温泉につかり、3日間の汗を流し、筋肉をほぐして、さあ昼飯だ、と思ったが、残念、この施設の食堂はちょうど閉まったところだった。やむを得ずタクシーを呼んで穂高駅に行き、大糸線で松本まで出てから食事をすることにした。松本では蕎麦屋に入った。本来ならば板わさに日本酒といきたいところだが、時間もなかったのでビールにした。ごくごくごく。ああうまい!お蕎麦も美味しかったです。
いつもながら山から帰るのは名残惜しい気持ちになる。筆者と助っ人氏は東京方面なので「あずさ」に乗り、いろいろ話をしながら帰った。ここには書けないが、山小屋での爆笑ネタなどを思い出し、疲れているのにうたた寝をすることもなく話し続け、気が付くともう八王子であった。
以上
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