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Yamareco

記録ID: 24117
全員に公開
無雪期ピークハント/縦走
大雪山

大雪山 旭岳と中岳露天温泉

1990年08月06日(月) 〜 1990年08月07日(火)
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tanigawa その他3人
GPS
32:00
距離
11.7km
登り
902m
下り
894m
天候 霧、雨
アクセス
コース状況/
危険箇所等
 学生時代に登り残した北海道の山の一つが、道内最高峰の旭岳(2290メートル)だった。夏休みで北海道にいく計画の中心に、旭岳への登山を組みいれた。

 コースは、二男の峻二(4歳9カ月)が歩き通せるようにと、旭岳に登ったあと裏旭幕営場で1泊し、翌日は中岳温泉から裾合平(すそあいだいら)へ回遊するのんびりルート。山小屋泊まりは幾度もしてきたけれど、山上にテントをかつぎあげて泊まるのは、わが家では初挑戦になる。中岳温泉の野趣あふれる湯につかるのも楽しみの一つだった。

 勇駒別(ゆこまんべつ)には、6日午前9時に着く。ここの地名は、「旭岳温泉」という観光地用の名前に変えられたが、勇駒別で通してきた自分には、ピンとこない。北海道は、山の名前も地名も、アイヌ由来や、開拓時代以来のほんとうに響きのいい、個性的な名前が多いのだから、大事にしてほしい。

 身じたくをして、ロープウェーで標高1600メートルの姿見駅に上がる。旭岳は、途中の林道で車の中から見たときよりもぐんと近く、大きくなる。標高差690メートルの登りだが、岳彦(小学2年)と峻二にはかなりたいへんそうだ。

 それでも、気にしていた観光客は姿見の池あたりまでで引き返してくれる。ここから旭岳への一本調子の火山れきとザレ地の登りでは、登山者やバイク・ツーリングのついでに頂上をきわめようという若者だけになる。

 霧がじゃまをして、楽しみにしていたトムラウシ方面の展望はない。水平方向は見えず、裾野の残雪や池が視界にはいる。ときおり霧が晴れると、旭岳の裾がのびやかに広がったあたりに点在する無数の池(水田ガ原あたりか?)や、そのさらに南に化雲岳が見える。一方、登るルートの北側は、浸食がすすんだ地獄谷の爆裂火口が口をあけている。展望さえあれば気がまぎれるのに、それもときどきのこと。足元に花も、灌木もない、ひどく殺風景な登りがつづく。

 「お父さん、この山、最初に思ったよりずいぶん(登るのが)たいへんだね」。岳彦も少しこたえてきたようだ。峻二の方は、この急な尾根にとりついた最初から、ぐずぐず足をひっぱっている。でも、後ろから追いついた登山姿のおばさんに「あら、ぼうや、すごいわね」などと声をかけられると、人が変わったように黙々と登りはじめる。

 途中で昼食をとる。登り始めて3時間、大きな箱のような形をした金庫岩をすぎて、ガレ岩がごつごつした登りを終えると、だだっ広い山頂にでる。

 先着の登山者が7パーティーほど、思いおもいの場所を選んで休んでいる。私たちは、それにかまわず、広い山頂部の一番高そうなところにある三角点めざしてまっすぐ進み、ついに北海道最高所へ。一番の高みのすぐ先は、すぱっと切れ落ちたた爆裂火口が口を開けていた。

 峻二は、この日、自力で旭岳に登った子どものなかで最年少だった。途中、励ましてくれた年配の登山者が、メロンやエビ入りの春巻きを「ごほうび」にもってきてくれた。私たちのショイコの積荷を見て「今夜は泊まるんだろう。たいへんだね」と声もかかる。

 目の前の熊野岳(2210メートル)、大きな北鎮岳、そして遠くに黒岳がかすんで見える。山頂でも展望はいま一つだったけれど、あとは、ひと下りして、たのしみのキャンプである。

 「どこに泊まるの」と遥子。「あそこだよ。テントが見えるだろう。雪もあるんだよ。冷たい水もあるぞ」。「さあ、雪をめざして、すすめぃ」。子どもたちも、猛然と下り始める。

 泊まり場の裏旭幕営場は、標高2074メートル。雪田に近く、周囲を北海道でも指折りの高山に囲まれて、まずまずの場所だった。沢筋を、ときおり強い風が渡り、雪田の上のガスが渦をまいて飛ばされる。その雪田から流れ下る流水のそばに、思い思いの場所を選んで先着のテントが数張りたっている。

 さっそくテントを設営。岳彦と峻二は、ひとしきり雪の上で遊んだあと、テントの周囲に石を積んで、風よけの壁をつくる。「ちゃんと風よけをつくらないと、夜中にテントが飛ばされちゃうからな」。このひとことと、実際にまわりのテントがフライの張り綱を風ではずされたのを見たこともあって、岳彦は遠くからも石を集め、真剣になって作業をした。

 ぱらぱらと落ちていた雨が、いったん本降りになった。テントの布地をたたく雨音がすごい。息子たちが不安そうな顔をしてこっちを見る。「だいじょうぶよ。お父さんはね、もう何度も何度も山でテントで眠っているの。こんなのは序の口なんだから」と遥子。「冬はもちろん、秋や春でも、テントの内側がバリバリに凍るくらい寒いんだよ。風だってこんなものじゃない。ま、夏なんて、どんな天気になっても安心だよ」。これを聞いて2人の息子の表情は少し落ち着くが、雨があがるまで言葉はでなかった。

 ヒグマの話でもしてドキドキさせてやろうと思ったのに、その前に怖じ気づかれてしまってはどうしようもないな………。

 その雨もあがると、テントの外が急に明るくなった。夕陽が、熊野岳の岩の頂きを照らしている。夜になるまでの、心の休まるひとときだった。

 7日は午前4時20分に起床。ホットケーキを焼き、子どもたちを起こす。天気はなんとかもちそうだ。

 5時半すぎに幕営場を発つ。クレーターのふちのような熊野岳の火口丘を回り込み、どこが頂上かわからない間宮岳(2185メートル)に登る。


 間宮岳は、大雪山で最大の火口であるお鉢平の内輪山の一角にある。大雪山のなかで、旭岳やトムラウシが独立峰の風格をそなえているのにたいして、お鉢平を囲む山々は標高では引けをとらないのに、登っても、遠目に見ても、どうしてもひきたたない。「この頂上に、野球のグラウンドがいくつつくれるかな」なんて声も上がった。

 大雪山の山々は、開拓時代の「功労者」の名前をとったものが幾つもある。間宮岳は間宮林蔵、山容はいまひとつだけれど、どっしりしている。桂月岳は大町桂月、小さなピークで申し訳程度で名を連ねたか。松浦岳は松浦武四郎、この山は緑岳の名前の方が通っていて、やはり目立たないが、高原沼に向かって主稜線から突き出したいい位置にある。他に、小泉岳、松田岳、荒井岳………。

 中岳への分岐に向かう。右手下には、お鉢平の広大な噴火口あとが名残りをのこし、この火口から東へ流れ出る赤石川の源流の沢が、幾筋も光って蛇行している。不思議な光景だ。

 霧で視界がない中岳分岐には、7時少し前に着く。北鎮岳への道と分かれ、左に折れて裾合平への尾根を下る。突然、ガスが晴れた。尾根の左手(南側)に熊野岳の北面の荒々しい源流部や雪渓が姿をあらわす。はるか前方には、のびやかに広がる裾合平と、そこに刻まれた一筋の登山道も見える。見晴らし尾根と名づけてもいいぐらいの展望台だ。おやつの休憩にする。尾根の右手(北側)は、南側のように切れ落ちてはおらず、泊まり場にしたいようなおだやかな草原の源頭部となっている。

 尾根を離れ、南側へ電光形にくだって、いよいよ中岳温泉(標高1840メートル)へ着く。V字型の谷である。たちこめる硫黄の臭い。あたりは、巨大な一枚岩の岩壁や絶壁に囲まれている。谷の下流には、裾合平がつづいている。その沢の底から湧き出た熱い湯。これこそ、山の出で湯の原点ではないか。

 服を脱ぎ出すと、「えっ、お父さん、入るの?」と遥子。「えろいな」とわけのわからないことをいう子どもたち。足を入れ、一番深いあたりに体を沈める。といっても、浅いので、ほとんどあおむけに体を横たえる感じである。ちょっと、ぬるい。右手から流れ込む沢水の量が多いかな。「お父さん、こっちは熱いわよ」というので、腹ばいで上流にすすみ、体をうつ伏せにすると、これはいい湯かげん。手をのばすと、かなり熱い。そのあたりが、温泉の湧き出し口のようだった。

 中岳温泉から裾合平にはいると、そこは花の楽園だった。ハイ松と草原のなかに配置された古い火山岩が、ロックガーデンのような趣をそえる。チングルマ、エゾリュウキンカ、エゾコザクラ、アオノツガザクラ、ミヤマサワアザミ、ミヤマアキノキリンソウ………。ホシガラスや、名前はわからない腹の赤い小鳥も見る。

 人がいっぱいの姿見駅にもどるまでの高原漫歩だった。

http://trace.kinokoyama.net/hokkaido/asahidake-nakadakonsen90.8.htm

2日目、間宮岳付近
2日目、間宮岳付近
中岳温泉。状況次第で変幻自在。ときに自分で掘って入るしかない。
中岳温泉。状況次第で変幻自在。ときに自分で掘って入るしかない。
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