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山岳文学不朽の名著、と紹介されているのが頷ける気品の高さがありますが、かといって堅苦しくて読みにくいということもありません。初版は、日本が太平洋戦争に突入する半年前の1941年(昭和16年)6月だそうでして、1901年12月生まれの著者が40歳になろうかという時になります。しかし作品の多くは1929年以降に順次雑誌で発表されていたようでして、特に前半のヨーロッパアルプスを舞台にした紀行は、1926-1928年頃のものですから、20代の目線で書かれています。実際、あとがきの中で著者自身が、「愛すべき一人の青年」が書いた本で自分の本のような気がしないと述べています。また、解説は「数奇な過去を背負わされた名著」と題したもので、西本武志氏が書かれたものです。たまたま昨日書店さんで見つけて一部立ち読みしたのですが、西本氏は「十五年戦争下の登山―研究ノート 」と題する書籍を2010年8月に出しており、その中でもこの「たった一人の山」の運命について紹介しています。具体的には、当時の情報局文芸課長が「滅私奉公を要求される聖戦下に『たった一人の山』とはなにごとか。欧米的個人主義に毒されたこんな本は抹殺すべきだ。」と非難し、事実上の発禁になったという事件のことです。(「十五年戦争下の登山」では、実名が挙がっていました…)
前置きが長くなりましたが、内容はというと、前半はヨーロッパアルプスの登攀記でスイス人ガイドのエミールとの友情がひしひしと伝わってきます。ウェッターホルン西山稜初登攀や、ドロミテ(フュンフ・フィンガー・シュピッツェ)で雷の中を下山するシーンなどははらはらどきどきです。後半は日本も舞台に登場し、登攀記のみならずエッセーも含まれます。又白谷からガスの中を前穂高に登り、ガスが消えた後に前穂高山頂でゴロ寝した話などは印象的でした。最後の「山のあぶなさ」では、著者ならではの視点で山登りの危険性が論じられています。
この時代に倫敦(ロンドン)に海外留学したエリートの良い意味での矜持が生んだ名著と言えると思います。
nomoshinさん こんばんわ
「たった一人の山」、私も名著だと思います。何回か読み返しましたが、いつも、新鮮な空気に触れたような読後感です。
コメントありがとうございます。気づくのが遅れてすみません・・・
自慢話的なところもなく品が良いのに、内容が濃くって、それでいて読みやすくて愉しい(惹きつけるものがあってどんどん先に進みたくなる)、って印象ですよね。
時代を越えて、長く愛されるベースを感じました。
ちなみに今、別の"古典"を読みだしたのですが、ちょっと読みづらくて苦労しています・・・
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