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2012年12月09日 17:46山岳図書レビュー(書籍)全体に公開

最近読んだ山の本 「山と渓谷 田部重治選集」

一年ほど前(2011年12月)にヤマケイ文庫から出版された「山と渓谷 田部重治選集」(近藤信行編)を読み終わりました。原著者の田部重治氏は1884(明治17)年、富山県生まれ。旧姓南日。八人兄弟姉妹の三男。小さいころから病弱で、激しい運動は医者から止められていたため、24歳の夏(帝大英文科在学中)、東京から郷里に帰郷する際にふとしたきっかけで妙高山に登ったのが最初の登山。翌年からは、木暮理太郎氏らと精力的に山に入る。山関係では最初の著書「日本アルプスと秩父巡礼」は当時多くの登山愛好家に読まれたようです。

最初に「生い立ちの記」、次に北アルプスや奥秩父をはじめとした紀行文が続きます。時代背景としては、北アルプス奥地や西沢渓谷の様子がまだ明らかにされていない時分であり、探検記のようでもあり新鮮さが魅力。堅苦しくない文章も人気の秘密かと思います。後半は、随筆集で、「山は如何に私に影響しつつあるか」(もともは、慶應義塾大学の山岳会第5回大会での招待講演をベースにしたものとのこと)や「山に入る心」「高山趣味と低山趣味」「山と人生」といったタイトルが並びます。その中で、興味深かった文章を幾つか拾うと・・・

「私はこう思った。山に登るということは、絶対に山に寝ることでなければならない。山から出たばかりの水を飲むことでなければならない。なるべく山の物を喰わなければならない。」(「山は如何に私に影響しつつあるか」から)

「山がわれわれに取って最も愉快であるのは、何としても、それがはっきり分かっていない時である。」(「その頃の想い出」から)

「そういう時の彼は全く必要以上の神経をもたないかのように見えた。」(「長次郎とその頃を語る」から。北アルプス開拓期に活躍した案内人・宇治長次郎に関する文章で、中村(清太郎)氏の言葉として「必要以上の神経をもたない」として、繊細さと大胆さを賛美した表現)

「われわれはよく自分の過去を顧みて、如何なる問題、如何なる感情の体験が自分の生活並びに思想の転回点となっているかを考える。真剣なる登山者に取っては、かくのごとき体験は必ずしも実生活からばかり来ているのではなく、登山における体験から来ていることも必らずあるに相違ないことが考えられる」(「山と人生」から)

クライマーというよりは、ワンダラーというスタイルであり、台頭(輸入)してくるアルピニズム派(たとえば浦松佐美太郎氏)からは批評されたということも解説で編者の近藤氏が紹介しています。しかし、病弱と烙印を押されていた人生が山歩きにより一変した(88歳の長寿を全う)田部氏の場合であればこそであり、日本の自然(渓谷)への愛情が満ち溢れていると感じましたし、私は好感をもって読み終わりました。
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コメント

RE: 最近読んだ山の本 「山と渓谷 田部重治選集」
ワタシも奥秩父に行ったときに知って(東沢溪谷の入口に石碑がありました)、この本買ったんですが、まだ積ん読で(汗)した。面白そうですね。さっそくページを繰ってみたいと思いました。それにしても寒くなりましたね。
2012/12/9 23:13
RE: 最近読んだ山の本 「山と渓谷 田部重治選集」
nomoshinさん こんばんは

田部重治の「山と渓谷」は、名著ですよね。

「山に登るということは、絶対に山に寝ることでなければならない」という言葉、頭の片隅にありましたが、誰の言葉だったか、忘れていました。「山と渓谷」を読み直して、田部重治の言葉だったことを思い出しました。
(私が持っているのは岩波文庫版の「山と渓谷」です)。

ほかに、同じ短編の中には、「・・山が自分の一部であり、自分がまた山の一部である、という風な心持になりかわったのである」という文もありますが、これなども、私の大好きな文章です。

人の少ない山の頂きにごろりと寝転んで、日差しを浴びながら爽やかな風に吹かれていると、田部重治のその言葉が実感されるときがあります。
2012/12/10 21:27
junjapaさんへ
コメントありがとうございました。
バタバタしていて、気づくのがすっかり遅れてしまいました・・・

田部重治さんの石碑が東沢渓谷(と西沢渓谷の合流点のちょっと下流?)にあるということは、この本でも紹介されていますが、私はまだ見ていません。鶏冠山にも登ってみたいので、そのチャンスにでも忘れずに拝んでくるつもりにしています。
2012/12/12 12:15
bergheilさん
コメントありがとうございました。
バタバタしていて、気づくのがすっかり遅れてしまいました・・・

見晴らしの良い場所でごろんと寝っ転がる、って良いですよね。それをやった場所は、あとあとまでありありと思いだすことができます。あんなところやこんなところ。実際、私の場合、その一つにこの本でも取り上げられている毛勝山がありまして、のんびりと剱北面に目をやっていたのが、目を閉じるだけで今でもよみがえってきます。

またどこかの山頂にでもテントを張りたくなってきました。(ちょっと寒い季節になってしまいましたが・・・)
2012/12/12 12:21
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