山深い集落を抜け、真っ暗な林道を愛車のライトの光を頼りに4km程走ると阿仁比立内にある「からみないキャンプ場」に到着した。
明かり一つ無い真っ暗な駐車場には、近くを流れる沢の音だけが響いており、生き物の気配は全く感じられない。
暫く車内で仮眠をとっていると、辺りは少し明るくなり、早速入山の準備を済ませ、熊達が暮らす山中へと足を踏み入れるが、荒れた遊歩道を数十メートル歩いた先で、早くも熊の落とし物を踏みそうになる。
やや気持ちに動揺が走るが、気を取り直し、朽ち果てた木の階段を登り続けると遊歩道は左へと曲がるが、進むべき直進方向の尾根には藪が広がっており、躊躇せず突入する。
少し進むと、藪とは言うものの、足下は踏み固められており、以前は山道であった事を窺い知る事ができる。
そのやや痩せた尾根を暫く歩き続け、気がつくと辺りには朝焼けの日の光が降り注いでおり、東の空には雲の隙間から天使の梯子が降り、かつてマタギが闊歩したであろう山々の斜面を照らしている。
ふと頭上を見上げると、大きなブナの木の枝には熊棚があり、ここが今も熊達の生活の場なのだということを実感させられる。
不安を感じつつ更に尾根上を歩き続けると、地形図にあるP754ピークに到達し、一息つくが、藪が深く眺望は殆ど無く、樹木が生い茂る幹の隙間から、目指す白子森山頂らしき山並みが僅かに見える。
先はまだまだ長そうだ…。
そしてP754よりやや下ると、ここから先は藪が一段と濃くなっており、笹藪を手で掻き分けながら進みつつP831に登り返す頃には、足下の固い感覚は既に消失しており、いよいよ道なき道の山行が幕を開ける。
辺りには、人が分け入った形跡は全く無く、勿論よく見かけるピンク色のテープ等の道を指し示すものも全く確認できない。
進むべき方向を確認し、人の背丈ほどある笹藪の中をガサガサと歩き続け、次のピークを越えると、また次のピークが現れるが、息を切らしながら暫く進み続けると、小さな沢が流れる谷間へと辿り着いた。
そこから見上げる急な斜面には、今までと比較にならない程の根曲がり竹で覆われた視界が利かない藪が続いており、あまりの光景に唖然とするが、仕方なく根曲がり竹を手掛かりに腕力で登り返すと、今度は地面を這うように四方八方に枝を伸ばした灌木が混じり始め、歩行は困難を極める。
勾配のキツイ斜面を、太い枝を跨ぎつつ根曲がり竹を掻き分けては進む…。
暫く藪との格闘の末、白子森山頂へと続く主尾根へとようやく辿り着いたが、そこには想像を絶する程の更なる猛烈な藪が広がっている。
人差し指程の太さの根曲がり竹は、台風の影響だろうか、四方八方へと倒れ、地を這うような灌木の太い枝と共に足の踏み場も無い状況に…。
力ずくで、目の前の藪に分け入るが、文字通り弾き返され、思わず尻餅をついてしまう。
そんな状況を繰り返しながら、視界が全く利かない藪の中に少しずつ少しずつ前進を重ねつつ、時折方向確認の為に灌木に登ってみるが、どうやら山頂も藪に覆われているらしく、全くその方向を確認することができない。
もう体力の限界も近い。
それでも尚、山頂にある筈の標石を探しつつ暫く前進すると、藪の中の半畳程の空間にそれはあった!
近くには、既に朽ち果てた木の標柱と、同じく錆びて文字が途切れた国土地理院の看板が落ちており、ここが太平山地最高峰、白子森山頂である事を示している。
辺りは深い藪で覆われ、背伸びをしてようやく森吉山や太平山が確認できる程度の眺望しかないが、既に秘境の地となりつつある山奥深いこの太平山地最高峰のピークに、苦難の末到達できた喜びは非常に大きく、自分の登山人生の中の一齣として記憶に刻まれることとなった。
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