まだ夜が明けない山中の真っ暗な駐車場には他に車は無く、近くを流れる沢の音だけが響いている。
暫くすると明るくなり、早速身支度を整え、太平山金山滝口(秋田県)から沢を渡り、紅葉した落ち葉が浮かぶ滝の流れを眺めつつ比較的急な勾配が続く登山道へと歩みを進める。
11月もあと半分程を残す朝日に照らされた森の景色は未だ紅葉が美しく、カラフルな落ち葉で彩られた山道をカサカサと音を立てながら軽快に進む。
標高約500m付近になると景色は一変し、辺りは落葉した木々が織り成す初冬の寂しげな風景が広がっており、午後から寒冷前線の通過が予想される通り、右の頬に吹き付ける風は登るほどに勢いを増し、思い通りに進む事が困難な状態となる。
暫くすると、山道は左右へと別れるが、やや急登となる右側を選択して登り詰めると、突然今までの寒さとは不釣り合いな暖かさと共に、獣のような異臭が鼻を突く。
咄嗟に腰にある熊撃退スプレーの安全クリップを外し、不慮の事態に備え立ち止まる。
しかし辺りに生き物の気配は無く、不思議に思いつつ更に登ると視界がひらけ、古ぼけた鳥居が建つ女人堂へと到着した。
そこには、広い窪地にブルーシートで雪囲いされた小さなお社らしきものと石碑が存在しており、何故かこの周辺だけ暖かく、今までの強風が嘘だったかように緩やかな風と共に獣のような異臭が漂っており、日陰には前日に降ったらしい雪が積もっている。
不思議な感覚に囚われつつ、一路中岳山頂へと向かうが、途中の前岳に到着する頃には、いよいよ風は強くなり、足下は雪に覆われたが、やや暫くして中岳への登頂を果たした。
凍えそうな寒さの中、持参した羊羮と温かいお茶を口にしながら奥岳や鳥海山を暫く眺めつつ至福の時を過ごした後は帰路の途につくが、女人堂に到着すると、周辺は相変わらず異様な暖かさと共に異臭が鼻を突き、ここだけが異空間のような不思議な感覚を覚える。
原因を探るべく辺りを見回すが、何も見つからず、今度は登りとは違う巻き道らしき山道を下り、その場を後にした。
暫く下ると一人の登山者と出会った為、先程の女人堂での体験を話したが、常連らしきその方は、そのような感覚を覚えた事は今までは無いとのお話しだった。
いったいあの異様な暖かさと臭いは、なんだったのだろうか…。
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