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令和2年元日の白神山地周辺は、寒冷前線通過直後の間隔の狭い等圧線が北西から南東方向に走り、目の前の日本海から直接吹き付ける風は20m/s以上が予想され、上空約1500mには-15℃の等温線が横たわっており、森林限界を超えた山頂付近の稜線上では、厳冬期の厳しい環境が待ち構えている。
登山口で記帳を済ませ、まだ暗い山中へとヘッドライトの明かりを頼りに今季初の雪山へと歩みを進める。
いつもの冬であれば、ウサギの足跡が道先を案内してくれるのだが、今日は動物達や前日までに入山した登山者のトレースは全く無く、真っ白な雪に覆われた登山道が目の前に続いている。
天気予報より悪天を予想していたが、海鳴りが遠くに聴こえるだけで、森の中は風もなく静まり返っており、時折吹き付ける弱い風が凍てついた木々の枝を揺らしポキポキという音を響かせている以外は、スノーシュが雪を噛む音だけが聴こえている。
暫く進むと蟶山への直登ルート入口に差し掛かるが、未だ積雪が少なく藪が濃い為、一般登山道を辿る事とした。
しかし、そこから更に暫く進むと登山道は深い雪の中へと消え、行き先を見失った。
仕方なく蟶山から白神岳へと連なる尾根へと直接登り詰めるルートとなる藪の中へと進んだが、ズルズルと滑り落ちる程の急傾斜に悪戦苦闘することとなり、予想外に体力を消耗しつつ漸く尾根へと辿り着いた。
そして、この辺りからハラハラと雪が舞い始め一気に寒さが増すと同時に山道を覆う雪も深さを増し、重みのある雪に進むほどに体力を奪われつつ大小のアップダウンを繰り返し暫く進むと、目の前には灌木と根曲がり竹の藪が立ち塞がる急斜面が現れ、またもや山道を見失った。
仕方なく木の枝や根曲がり竹を手で掻き分けつつ上へと続く尾根となっている急勾配を辿るが、登る程に勾配はキツくなると共に、風雪も徐々に強まり、森林限界が過ぎる頃には胸までにも達する踏み抜きが多発し、抜け出すのに体力と時間を費やすこととなった。
困難を極めつつ四肢を使い漸く白神岳山頂へと繋がる稜線上へと這い上がるが、ここからは予報通りの雪を伴った強烈な風が吹き荒れており、視界は数メートルから数十メートル、氷のような雪がバチバチと音を立ててウエアや右頬を叩く中、少ししてやや風を避けられる大峰分岐に到着した。
ここでやっと一息つくが、余りの悪天候に生きた心地がしない。
遮る物が無いここから山頂までの稜線上は、日本海からの強烈な風雪をまともに受けながらの山行となる為、ここが本日の最後の引き返し地点となる。
休憩後、覚悟を決めて山頂へと歩き出すが、強烈な風雪は容赦なく全身に叩きつけ、ハードシェルの中まで凍てつく寒さが浸透してくる。
吹き飛ばされないようにトレッキングポールで踏ん張るが、余りの風雪の強さに稜線上の風下側に成長しつつある雪庇の端へと追い詰められ、堪えきれずに押し出されるまま雪庇の端から風下側へと降りると、全身に叩きつけられる風雪をうまく遮ってくれていることに気付く。
雪庇から落ちて楽をする話しはあまり聞いた事がないが、状況を見かねた白神の神が出してくれたであろう助け舟に感謝しつつ、凍結した稜線上とは違い雪庇の下のズブズブと埋まる雪は非常に歩きにくく体力を消耗させられるが、そのまま暫く雪庇に沿って歩き続け、小さなコルへと下り、更に緩い斜面を登り返すと、少しして目の前の視界は開け、トイレ棟が姿を現した。
更にその奥には避難小屋も確認でき、一気に緊張が緩む。
そして避難小屋の前まで進むと、その先の小高い丘の上には雪に埋もれた山頂の標柱が僅かに見える。
あと少し…丘の下まで歩みを進め、いよいよ山頂は目前といったところで、突然雪に隠された落とし穴に胸まで埋まった。
お笑い番組のコントの様な状況に苦笑いしつつ、ここまで来て四肢を使い山頂に登り詰めることになるとは思わなかったが、なんとか丘を這い上がり12:48山頂に到達。
漸く白神山地との新年の挨拶を交わすことができた。
白神の神の計らいだろうか…山頂ではいつの間にか風雪も幾分収まり、少し離れた場所には雪を纏った周辺の木々に飾られたメルヘンチックな様相のトイレ棟と避難小屋が見える。
山頂での新年の挨拶を終え、避難小屋の前にて休憩するが、気がつくとハードシェルの中の汗はバリバリに凍りつき、ジッパーが凍りついて上げ下げできない状態になっており、トレッキングポールの先も鶏の卵大の丸い氷の塊がつき、重みを増している。
更にニット帽やグローブも凍結した洗濯物のように固くなっており、スマホの画面も霜が付き、思うように操作出来ず、改めて厳冬期の白神岳山頂の厳しい環境を肌で感じる事となった。
そしてこの後、またしても強烈な風雪を浴びながらの下山となった。
はじめまして
〃 漸く白神山地との新年の挨拶を交わすことができた。
白神の神の計らいだろうか…山頂ではいつの間にか風雪も幾分収まり、少し離れた場所には雪を纏った周辺の木々に飾られたメルヘンチックな様相のトイレ棟と避難小屋が見える。 〃
・・・・知る人ぞ知る素晴らしいシーンですね。年初から感動を戴きました。
小生の登頂はもう ふた昔も前、又訪れたくなりました。
コメントありがとうございます!
白神の名前の由来はともかくとして、神が護るであろうブナの原生林が広がるこの貴重な山域が、このまま後世にもずっと受け継がれて行く事を願っております(^-^)
また、雪を纏った避難小屋が見えるこのメルヘンチックな景色が、私のお気に入りの景色の一つで、周りの木々がふわふわとした霧氷を纏う初冬の頃が特にオススメです。
いつか是非御覧になってみて下さい(^-^)/
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