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まだ夜が明けきらない沖揚平集落に到着。
早速登山装備に身を固め、道路脇の2メートル程の高さの雪壁の上にスノーシューとトレッキングポールを放り投げ、雪壁をよじ登り、今回新調したスノーシューの歩き心地を確かめながら横岳山頂へと繋がる尾根を目指し平坦な林の中を南東へと歩みを進める。
トレースは全く確認できず、多少ぬかるむ雪の上に自分だけの足跡が続いて行く。
木々がまばらに生える静かな林の中では、時折キツツキのドラミングの音が聞こえており、それ以外の生き物の気配は無く、風も殆ど感じられない。
進む程に傾斜は増し、暫くしてお目当ての尾根へと取り付き、更に高度を稼ぐべく尾根を登り続けると、1000メートル付近より霧が立ち込め、それまで開けていた視界は数十メートルと狭くなり、それと共に今までほぼ無風だった風が強さを増してきた。
今回は、初めての南八甲田への山行であり、辺りの状況はさっぱりわからないが、晴れていればきっと素晴らしい景色が見られることだろう…。
暫く進むと視界と風の状況は更に悪化し、何処を歩いているのかわからない中、GPSで確認すると、どうやら横岳山頂付近に到達したようだ。
ここまでピンクテープ等の目印を殆ど確認出来ないところを考えると、こちら側から登る登山者は少ないようだ。
横岳山頂から更に南東へと進み、この周辺から南へと伸びる急勾配の尾根を探すが、ガスが濃く尾根の状況は全く確認出来ない。
仕方なく、僅かに確認できる左手の雪庇らしきものを警戒しつつ、南側の急な斜面に降下を開始するが、予想以上の勾配のキツさと体に吹き付ける強い風、そして目の前に広がる真っ白な空間に恐怖を感じる。
時折生えている灌木の枝に復路での目印となるテープを取り付けながらどのくらい下っただろうか…左前方には、針葉樹の林が見えてきた。
地形図で確認すると、どうやらこれから進むべき湿地帯周辺のようだ。
左手の小さな雪庇を飛び降り、少し下ると風は殆ど無く、視界は10〜15メートル程に広がった。
しかし、相変わらず周囲には目印となるような地形は確認できず、登山経験が全くない山域での有視界歩行は困難だが、寒さの為にGPSアプリを入れたスマホも誤作動を起こしはじめ、更に腕時計のコンパスも何故か方角が二転三転し信用出来ない為、アナログのコンパスを首から下げて進むべき方角を割り出す。
そしてやや隆起した地形の北側をトラバースぎみに、スノーモンスターの集団の中を縫うように南東へと進み、櫛ヶ峯山頂へと続く稜線の直下へと辿り着いたが、相変わらず視界は10〜15メートル程であり、目標物となる目印を確認しながら歩くのには難しい状況だ。
先程の横岳山頂付近での気象状況を考えると、雲の中の櫛ヶ峯山頂までもかなり厳しい気象状況が予想される為、先ずはそれに備えて休憩することとした。
クリームパンを口に運ぶが、寒さで唇の感覚が乏しく、非常に食べにくい。
温かいお茶とパンを食べながら短い休憩を終えた後は、いよいよ南八甲田最高峰の櫛ヶ峯山頂へと向かうべく準備を整える。
恐らくはここから先は休憩どころか、ザックから物を取り出す事もままならない状況が予想される為、装備の再確認をする。
先日の白神岳登山では、スマホの画面が凍りつき操作困難となった経験があり、今現在もまた寒さでスマホは既にフリーズ気味だ。
更に腕時計のコンパスも不調なので、首から下げたアナログ式のコンパスのみがここへ再び戻る為の唯一の助けとなる。
今一度山頂へと続く筈の尾根を眺めるが、相変わらず真っ白で、目印となる物は何も確認出来ないが、先ずはコンパスを頼りに南側へと続くであろう急勾配の尾根らしき斜面に取り付く。
登る程に風は強まると共に斜面は凍り付き、ザクザクとスノーシューのスパイクが音をたてている。
以前使っていたスノーシューよりも、明らかに斜面への食い付きが良く、少しばかり気分が上がるが、目に見えるものは、少し先の全身を海老の尻尾に覆われた灌木とそれ以外は真っ白な空間のみ。
足元の斜面も海老の尻尾で隙間無く覆われており、まるで大量のエビフライの尻尾の上を歩いているかのようだ。
眼鏡には霜が付きはじめ、目を瞬きするとまぶたがくっつく感覚があるが、できるだけこの景色を色がつかない自分の目で見ていたいと思いゴーグルはまだ使用していない。
先程の湿地帯での環境からは想像出来ない程の視界の悪さと風の強さが登頂を阻む中、山頂を目指し目の前にある斜面を一歩、また一歩と暫く歩みを進めると、やや傾斜が緩くなった頃、目の前には突然バツ印がついた山頂を示す標石が現れた。
辺りを見回すと、近くには雪に覆われた標柱らしきものもあるが、それ以外辺りは真っ白で何も見えず、立っている事が困難な程の強い風が吹き荒れている。
しかし、厳冬期にまさか山頂を示す標石を確認できるとは思わなかったので、突然のプレゼントに嬉しくなり、フリーズ気味のスマホで何とか記念撮影を済ませ、天候回復を願い少しの間待ってみたが、まともに立っていることが出来ない程の風と寒さに耐えられなくなり、名残惜しいが下山する事とした。
しかし、往路を辿るべくトレースを探すが、既に雪上に残されたトレースは消えており、仕方なく進むべき北側と思われる方向へとコンパスを頼りに下山を開始するが、どうも往路での状況と違う事に気付き、再度コンパスを確認すると、進むべき北ではなく、北西へと進んでいることが分かり、慌てて方向を修正した。
そして暫く下り続け、何とか休憩した場所まで戻る事ができ、一安心した。
ここからの復路では、今までの厳しい環境が嘘であったかのように視界が開け、周辺の美しい景色が姿を現してくれた。
そして、横岳山頂に戻る頃には大岳とその周辺の山々も姿を現し、感動的な景色を堪能することができたが、相変わらず櫛ヶ峯を含めた周辺の山々の山頂付近だけは雲に覆われていた。
今回の山行は、当初から悪天が予想されており、初めての南八甲田ということもあり、不安要素が多々あったが、何とか櫛ヶ峯山頂まで辿り着き、景色もあまり期待していなかったが、復路で横岳から見えた周辺の景色は素晴らしいものだった。
次回は無雪期にまた櫛ヶ峯山頂を目指したいと思う。
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