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・白神ライン岩崎ゲート前
・太夫峰
・直角峰
・吉ヶ峰
・静御殿
・向白神岳
・玄関岳
・白神岳
・白神岳黒崎登山口
・五能線白神岳登山口駅
・五能線陸奥岩崎駅
・白神ライン岩崎ゲート前
五能線以外は上記のポイントを通る徒歩での一泊二日の行程。
累計高度 約2450m
距離 約44.6km(内五能線 約8.6km)
2020,04,11
午前4時、未だ夜が明けない真っ暗な白神ライン岩崎ゲート前は、風も無くすぐ横を流れる笹内川のさらさらという音だけが響いている。
先ずは、ここから11.3km程先にある太夫峰登山口を目指し、ヘッドライトの明かりを頼りに、既に雪が消えている舗装路を暫く進むと、行く手の東の空は徐々に明るくなり、少しして夜が明けた。
朝日が照らす春が訪れたばかりの林道の道端は黄緑色の蕗の薹の花や銀色の花穂をつけるネコヤナギなどの春の息吹きで飾られており、早春の景色を楽しみながら歩き続けると、やがて辺りには雪が降り始め、道端の積雪が目立ち始めた。
進むほどに積雪は増し、標高400mに達する頃には1メートルを超えるぬかるみとなった為、スノーシューを装着しズブズブと埋まる雪に体力を奪われつつ延々と歩き続けるが、一向に登山口は現れない。
そして、積雪が増え続ける道をやや暫く進むと、やがて道は下りとなり、少しして雪に埋まった太夫峰登山口を知らせる案内板が現れた。
さて、ここからが本番だ。
既に出発から5時間が経過しており、予想外のぬかるみに大分体力を消耗させられたが、相変わらずズブズブと埋まる雪が覆う山道にウンザリしつつ足を踏み入れた。
そして山道が存在する筈の尾根筋を辿るが、林の中だというのに以外にも鋭角に尖った雪が積もる尾根の風下側には雪庇が形成されており、どうやらこの先もすんなりとは進ませてもらえない様相だ。
そして無雪期には転げ落ちそうな程の急な階段にロープが張られている箇所に差し掛かるが、勿論階段は無く、取り付く場所が無い程の急勾配の斜面となっており、膝で雪を潰しつつ足場を作りながら登るが、三歩登っては二歩滑り落ちる。
アイゼンを装着したいところだが、膝下程の積雪の下は暖冬のせいか既に空洞化しており、アイゼンだと常に深みにはまりながらの歩行を強いられる為、このままスノーシューで進む事とした。
上り下りを繰り返しつつ暫く進み続けると、辺りは灌木が僅かに見える平滑な雪景色へと変わり、間も無くして太夫峰山頂へ13時40分到着した。
山頂にて一息ついた後は、更に雪庇が続く南側の稜線を進み、13時50分直角峰へと到着。
ここからの眺めは、今までの比較的丸みを帯びた山々の景色からは一変し、目の前には山裾から一気に稜線に向かって立ち上がる険しい山肌を見せる向白神岳の姿が見える。
雪化粧をした向白神岳は無雪期にここから見た姿より更に険しく、大きく雪庇を張り出して尖った稜線が続く向白神岳を前に、恐ろしさすら感じる。
果たしてあの尖った稜線上を無事に渡りきれるのか…。
不安と期待を胸に、ここから西側にあるピークの吉ヶ峰を目指し稜線を歩き始める。
南側に大きく張り出す雪庇の先から数メートルの距離を保ちながら進むが、本日の気象予報の気温予測から、やや雪も緩んでいるらしく、相変わらずスノーシューがズブズブと埋まり非常に歩きにくく、この雪質では雪庇の踏み抜きや雪崩が心配される。
14時18分吉ヶ峰へと到着したが、ここからは向白神岳山頂へと続く尖った稜線が真っ直ぐに南側に延びているのが見える。
雪庇の状況や危険と思われる場所を目に焼き付け、雪庇の始まりとなる灌木帯との境目のギリギリのルートを辿りつつ最初の鞍部へと下って行くが、辿ってきた太夫峰までのルートと同じく、積雪の数十センチ下は空洞化しているらしく、縦走用ザックと体重を合わせた100kg近い重みには耐えられず、時折両足で腰まで雪を踏み抜いてしまうと、灌木の枝に足が絡まり、這い上がるのに大変な苦労を強いられる。
トレッキングポールで足の置場を探りつつ鞍部を過ぎると、今度は上りが続く。
つい歩きやすそうな雪庇の先へと近づいてしまいそうになる気持ちを押さえつつ、鋭角に尖った稜線の風上側をズルズルと斜面の下へと滑りつつも滑落に気を付けながら一歩一歩丁寧に進むが、正に綱渡りのような状況に音をあげたくなる。
本来ならアイゼンとピッケルを使用したいところだが、この踏み抜きが多発する状況では、使えない。
よくテレビで見る真っ白な尖った稜線を渡る映像は、場を盛り上げるBGMの効果もありハラハラドキドキしつつもスマートで格好良いものだが、実際この状況では一秒たりとも気が抜けず、極度の緊張を強いられる為、すがれるものなら何にでもすがりたい気分だ。
そしてこの美しい景色の真っ只中にいるにも関わらず残念ながら景色を楽しむ余裕も殆ど無い。
神経をすり減らしつつ綱渡りを暫く続けると、目の前にには垂直に近い10メートル程の高さの尖った雪壁が現れた。
辺りを見渡すが、これを回避できるルートは存在しない。
この鋭角に尖った垂直に近い雪壁に、うさぎらしき動物が軽々しく跳びはねながら下った足跡がついており、なんとも羨ましく思いつつ壁の前の不安定な稜線上に足で踏み固めた足場を作り、早速装備をアイゼンとピッケルに換装した。
今日の気温の高さから、雪壁が崩れ落ちる心配があるが、とりあえずピッケルを突き刺してみると、60cmのピッケルがスッポリと抵抗無く突き刺さるが、フカフカの雪の下には比較的硬い層の存在があり、以外にも支持力がありそうなので、ルートを見定めピッケルを深く突き刺しつつ慎重にキックステップにて登り、何とか無事に登り終えることができホッとしたのも束の間、先にはまだまだ起伏の激しい尖った稜線が続いているのが見え、ぬかるむ積雪の中を一歩一歩確実に進んでいく。
ふと時計を見ると、既に15時半を過ぎており、そろそろ本日のテン泊地を決めなくてはならないが、予め無雪期に目をつけておいた場所はまだ少し先なので、少し焦りつつも慎重に進むと、見覚えのあるその場所が見つかり、16時30分稜線上のやや広く平らな場所を本日のテン泊地にすることとした。
早速ツェルトをザックから取り出して設営を始めるが、いつの間にか強くなった風は雪に埋めたスノーペグを簡単に吹き飛ばし、設営出来ない。
予め調べた天気図では、日本海には寒気を伴った低圧部が存在し、今夜から明日の朝にかけて頭上を通過する為、この付近の天気は大荒れとなる予定だ。
しかし、ここには上手い具合に灌木が存在しているので、ペグでの設営を諦め、ツェルトの棟部分にロープを通し、両端のみを灌木の枝に結び付け、後はザックと自分が重石となれば、設営完了だ。
降雪と風を凌げるだけのツェルトの中で夕食を済ませた後、少し離れた高台にて夕焼けの景色の撮影を終えてツェルトに戻ると、既にツェルトはバサバサと宙に舞い、ザックはツェルトの外に転がっていた。
風は時間と共に強さを増し、ザックを枕に横になった頃にはとても外には出られない程の強さとなった。
万が一に供えて靴は履いたまま、踵でツェルトの入り口側の裾を押さえながら、シュラフ無しで眠る。
ゴーッ、という風とバサバサとはためくツェルトの音が響く中、下から伝わる雪の冷たさからくる辛さと不安を抱えながら夜は更けていく…。
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