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岩崎地区から続く白神ライン(県道28号)に東へと車を走らせる。
冬季間閉鎖されていたゲートを通りすぎ、少しすると林道は道幅を狭め、右へ左へと忙しなく方向を変えながら高度を上げて行く。
辺りは一面濃い緑に覆われており、数ヶ月前にこの道を歩いた時に見た真っ白な深い雪に覆われた景色が嘘のようだ。
太夫峰への登山口を通り過ぎ、更にやや暫く車を走らせると、天狗岳登山口がある天狗峠へと到着した。
当初未舗装の悪路を予想していただけに、終始平坦な道が続く林道には、いささか拍子抜けした。
身支度を整え、6時15分、早速駐車場の向かいにある登山口より入山すると、よく踏み固められた山道には草木が覆い被さっており、手で掻き分けつつ前進する。
少しすると、先日白滝への山行で痛めた左膝がうずき始めるが、朝露に濡れた葉が膝を濡らし、ひんやりと筋肉の炎症をなだめてくれた。
更に左膝をかばいつつ暫く歩みを進めると、木の幹に取り付けられたこの先の崩壊地を注意喚起する看板が現れ、間もなくしてキレット状の稜線が現れた。
そして、朱色の花を咲かせた沢山のツツジが咲き誇る極細の稜線のやや東側の急な斜面をトラバースするが、滑落と隣り合わせの状況に、思いがけず緊張を強いられつつ一歩ずつ慎重に歩みを進める。
脆く崩れやすい斜面は、崩壊の後に、更に登山者が通る度に少しずつ崩れ落ち、現在のような急な斜面へとなったようだが、雨で濡れた日には遠慮したいルートだ。
更に山道は、小さなアップダウンを繰り返しつつ細い稜線上を通る為、足を踏み外すと無事では済まないと思われる箇所が少なからずあるが、周囲の草木に覆われている為、あまり高度を感じる事なく、恐怖を覚えるような場面は少ない。
しかし、その代わりに数百メートル進む度に熊の糞や、噛みちぎられたタケノコが山道に散在し、熊の巣に入り込んだかのような状況が、恐怖感を煽る。
そして更に歩みを進め、ブナの葉の合間から差し込むキラキラと輝く木漏れ日が、日が昇るにつれ強さを増した頃、山道は笹藪が覆う急な斜面へと変わった。
息を切らしつつ笹藪をくぐり抜け、小さな鞍部を通り過ぎ、更に笹藪を掻き分けつつガサガサと歩みを進めると、突然パッと視界が広がり、9時15分、天狗岳山頂へと到着した。
山頂からは、未だ谷間に雪渓が残る向白神岳の東側斜面がハッキリと見える。
正に絶景だ!
青い空に白い雲、目の前には太陽の光を浴び、溢れんばかりに密度を増した緑に覆われた白神山地の山々が、視界いっぱいに広がっている。
穏やかな風が吹く山頂では、日常を感じさせる雑音は届かず、代わりに遠くから聞こえる無数の蛙の声が 一層この場所の奥深さを実感させてくれ、一人この絶景を目の前にして口に頬張るおむすびの味と共に、五感を満たしてくれた。
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