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静かな猿倉温泉周辺には、数人の登山者の姿があり、挨拶がてらに目的地を尋ねると、乗鞍岳へ向かうとの事。
「お気をつけて」と挨拶を交わした後、入山への準備を整え,5時30分、先程の登山者より30分遅れで入山した。
山道には進むほどに泥濘が次から次へと現れるが、事前情報により、今日は長靴での山行としたので、躊躇すること無く歩き続ける。
しかし、泥濘以外の山道は、10〜20cmほどの安定感に乏しいゴツゴツとした石で埋め尽くされており、常に長靴の足裏から突き上げてくる為、非常に歩きにくく、急な坂道があまり無い割には足の疲労が激しい。
殆ど眺望がきかない山道を暫く歩き続けると、矢櫃萢に到着した。
その見晴らしのよい湿地帯には、黄緑色の草原が広がり、その先には濃い緑に覆われた山並みが見える。
南八甲田最初の美しい景色を目の当たりにし、この先の山行への期待が膨らむ。
そして、比較的平坦な山道を更に進み続け、橋を渡り、サラサラと流れる沢の音が心地好い乗鞍岳への分岐点や、その先の駒ヶ峯への分岐点を通り過ぎると、いよいよ目的地の櫛ヶ峯が目の前に迫る。
青い空に白い雲、どっしりと構える櫛ヶ峯の裾野からは、視界いっぱいに黄緑色に輝く湿地帯の草原が広がっており、沢山の黄色い花と共に、ふわふわとした真っ白な綿毛が彩りを添えている。
天国というものが存在するならば、この様な美しくも穏やかな光景が広がっているのだろうか…。
目の前に広がる景色に、感動と共に心地好い感覚を覚える。
さて、後は少し先のあの南東側斜面を登りきれば山頂だ。
少しすると、いままで平坦だった山道は、一気に傾斜を増し、長い道のりで疲れた体にムチを入れつつ登り続ける。
ふと山道脇の斜面へと視線をそらすと、意外にも湿原が存在し、ここにも小さな池が存在していることに気づいた。
そして、更に斜面をゆっくりと登り続け、9時13分櫛ヶ峯山頂に到着した。
山頂には人影が無く、驚くほど沢山のトンボや数匹のアゲハ蝶が舞っており、頭上には青空が広がり、東側の数百メートル先の雲は速い速度で右から左へと流れては消えて行く。
また、北八甲田の方角や乗鞍岳山頂には時折雲がかかって見えるが、駒ヶ峯や猿倉岳はハッキリと見え、その先にある遠くの街並みも確認でき、眼下には今辿ってきた湿原の中を通る山道も見える。
積雪期、吹雪の中で見た大量の海老の尻尾で覆われていた北側斜面は、今では濃い緑で覆われ、冬の面影は全く無い。
周辺の記念撮影を終え、枯れた木の枝に腰掛けながら、持参したおむすびを頬張る。
無事に目的地に到達して食べるおむすびの味には、いつもながら幸福を覚える。
二つ目を食べ終わり、ふと左手の甲をみると一匹のトンボがとまっており、首をかしげてこちらを眺めている。
立ち上がってみるが、一向に飛び立つ気配はない。
あまり人と出会う機会が無い為に警戒心が薄いのだろうか?
少しの間トンボと共に景色を眺めた後は、まだ時間も早いので、帰りがけに駒ヶ峯を目指してみようと思い、下山を開始した。
暫くして、駒ヶ峯分岐に到着し、山道の入り口を探すと、先が見えない程に密集したネマガリタケの藪の中に涸れ沢のようなものがあり、どうやらこれが山道らしい。
仕方なくトンネルの様になっている藪をくぐり抜けながら100メートル程進んだが、あまりにも太く密集したネマガリタケに、文字通り押し返され、断念した。
いつか装備を整えて再チャレンジしたいと思う。
その後、更に乗鞍岳山頂まで足を運んだが、生憎の雨により、山頂から南八甲田の景色を眺めることは出来なかった。
しかし、櫛ヶ峯山頂やその途中で見た南八甲田の湿原の景色は、想像以上の美しさであり、心に残る旅となった。
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