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北海道の北東で発達した低気圧により、今日の白神山地の天気は、荒れることが予想されている。
秋田県から青森県へと山中を貫く真っ暗な県道317号を、一人車に乗り北へと向かうが、時折大きな木の枝や落石が路上を照らすライトの光に照らし出され、右へ左へと交わしながら一路アクアグリーンビレッジANMONを目指す。
そして6時,まだ少し薄暗い駐車場に到着したが、辺りには人影もなく、風の音が響き渡っている。
ウインドブレーカーにニット帽、防水手袋に長靴、更にいつもより簡単な登山装備を身に付け、6時15分、駐車場向かいにある登山道入り口から入山した。
泥が覆う急な斜面は滑りやすく非常に歩きにくいが、適度な窪みに足を乗せつつ未だ薄暗い森の中へと進んだ。
風は木々の葉をざわつかせ、灰色の空からは時折ザーッという音と共に冷たい雨が降り注ぐが、色付いた木々の葉が上手く遮ってくれており、雨合羽を着込む程ではない。
暫くすると、地形図には無い分岐を示す標柱が現れた為、地形図が示す右へと進み、更に歩き続けると、ほんの数秒だが時折薄暗い森の中へと日が射し込み、色とりどりの美しい葉を身に纏った木々の姿を露にし、目を楽しませてくれた。
山道は傾斜を増し、泥で覆われた斜面を草木を掴みながら登りつつけるが、いよいよ一般登山道には馴染まない沢登りでの高巻きを想像させるような急斜面を夢中になって登りきると、その先には山道はなかった。
どうやら、山道のように見えていた斜面は、雨水の流れに洗掘された地形だったようだ。
しかし、登ってきたこの泥で覆われた急な斜面を下るにはかなり危険なので、山道があるらしい左の尾根へと大きく高巻くことにした。
今日は藪こぎを想定していなかったが、仕方なく何時もの藪こぎにて、山道へと上手く復帰し、暫くして高倉森山頂がある稜線へと繋がる細く急な尾根へと進んだ。
この辺りからは、既に紅葉は終わりを迎えており、風はゴーッという音を伴いながら一層強く吹き付けてくるが、山道脇に張られた古びたロープに身を預ける気にはなれず、自力にて登り詰め、稜線へと上がった。
冬を待つ少し寂しげな景色が広がる笹藪の中には、枯れ葉で埋め尽くされた山道がつづいており、時折苔むした大きなブナの木が山道脇に立っている。
相変わらず雨は断続的に降り続いているが、一時日が射し、岩木山がその姿を現した。
今日は、景色を期待してはいなかったが、思いがけず美しく色付いた山々の先に現れた雨で霞む幻想的な岩木山の姿に感動を覚える。
思いがけない景色に満足し、更に進むと右手の小さな広場の中に立つ標柱があり、近付いてみると高倉森と記されている。
時刻は8時、雨は上がり辺りにはゴーッという音と共に強い風が吹き荒れているが、此処は周囲の木々に守られ、殆ど風もなく穏やかな場所となっており、遠くの山々の上に流れる雲の隙間からは、天使の梯子が降りているのが見える。
なんとなく「ここで少し休んでいけ」と言われているような気がして、お言葉に甘え持参した羊羮と熱いお茶で穏やかなこの場所から見える遠くの景色を眺めながら、一休みすることにした。
遠くに見える天使の梯子が、右から左へと流れて行く…。
じわりと口の中に広がる羊羮の甘さと番茶の程よい苦味が実に旨い。
短い休憩を終えた後は、津軽峠へと続くぬかるむ山道を進むが、あと1キロメートル程となった頃から雨は本降りとなった為、ザックにレインカバーを被せ、ウインドブレーカーのフードを深く被り、先に進んだ。
そして暫くして、マザーツリーへの分岐があり、折角なのでマザーツリーに会いに行くこととしたが、到着して目の前に立つマザーツリーは、以前の台風の際に折れてしまったとのことで、今回始めて出会う事となった私は悲しげな光景を想像していたが、太い幹から天高く枝を掲げる特異なその姿がなんだか楽しげに見え、やや拍子抜けした。
さしずめ第二の人生を楽しんでいる最中と言ったところだろうか。
暫く眺めてから記念撮影を終え、いつかまたお互いに元気に再会できることを願い、その場をあとにした。
分岐を「ぶな巨木ふれあいの径」へと曲がると、細い道が続くこの山道の脇にはブナの巨木が点在し、マザーツリーと同じく太い幹が折れたブナの木も少なからず見受けられ、この森の歴史の一部を感じさせてくれる。
やがて山道は県道28号、通称白神ラインへと繋がり、一路アクアグリーンビレッジANMONを目指す。
県道は正に紅葉真っ盛りであり、時折排ガスの臭いを漂わせながら車が走り去るが、こんな美しい景色のなかを車で走るには本当に勿体ない。
雨がぱらつくしっとりとした景色の中を、道端に色づく木々や、眼下に見える沢の流れを楽しみながら歩き続ける。
何処を見ても絵になる風景だ。
そしてやや暫くして観光客の車が溢れるアクアグリーンビレッジANMONの駐車場へと10時40分に到着した。
当初悪天が予想された今日の山行にはあまり期待していなかったが、意外にも雨が降りしっとりと色付く白神山地を満喫できた一日だった。
帰りは、霰が降る白神ラインを岩崎方面へと抜け、車は泥まみれとなったが、道中美しい白神山地の景色を眺めながらのドライブは、格別なものであった。
さて、今年もあと少しで白神山地にも冬が訪れるが、今年の冬はどんな姿を見せてくれるのか、今から待ち遠しい。
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