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国道101号線を右折し、登山口へと続く林道へと上るが、元日より積雪を増した路上には轍もなく、先日の強風で折れた木の枝が散乱している。
車のボディーを叩く枝の音を気にしながらタイヤを空転させつつ上り続けるが、停止したら恐らく車は雪に埋まって動けなくなることだろう。
暫くして登山口にある真っ暗な駐車場に辿り着くが、ここも先日降った深い雪で覆われており、果たして下山時に駐車場から車を出せるのか心配になる。
荒れた天気の元日とは違い、今日の駐車場周辺は風の音も無く穏やかな雰囲気に包まれており、額のヘッドライトの明かりを頼りに登山装備に身を固め6時11分、駐車場を後にした。
少しして記帳所にて入山届けを済ませたが、ノートを確認すると、どうやら元日以降悪天候が続く白神岳への登山者はなかったようだ。
早速沢山の小枝が散らばる山道へと歩みを進めるが、降り積もった雪は重く、元日に引き続き今日も体力の消耗が激しい山行を覚悟することとなった。
穏やかな空気を感じながら山道を進むと、眼下には海沿いの街明かりが宝石を散りばめたかのようにキラキラと輝いているのが見え、一抹の温もりが感じられる。
暫く歩き続けると夜が明け、静かだった森の中には、キツツキが奏でる「カロロロロロ…」という音が響き渡り、頭上には水色の空が広がっている。
先日と同じく冬道に進み、急登に取り付くが、雪が深く一歩進んでは半歩滑り落ちるような状態が続く中、先ずは8時50分、蟶山山頂に到着し一息ついた後は、更に山頂を目指し先へと進んだ。
30cm程の深さの雪を踏み締めながら標高1000m付近に差し掛かると、今まで穏やかだった風は徐々に強まり、肌を刺すような冷たい風と共に木々に積もった凍った雪が真横から降ってくるので、冷たさで顔の感覚が麻痺し、堪らずにバラクラバを装着した。
そして更に歩みを進め、前回撤退した稜線へと続く急な斜面へと取り付くが、灌木が疎らとなった斜面を吹き抜ける風は一層強く地吹雪となって真横から吹き付けてくる為、飛ばされないようにトレッキングポールで踏ん張りながらの歩行となった。
そして深い踏み抜きと地吹雪との格闘の末、漸く大峰分岐へと到着した。
相変わらず頭上には青空が広がっているが、この正面から強く吹き付ける地吹雪の中では、辛い稜線歩きとなりそうだ。
覚悟を決め山頂の方向へと少し進むと、今まで見たこともない光景を目の当たりすることとなった。
青空の下、前方の標高1235mの丘から真っ白な雪を伴った風がナイアガラの滝のようにキラキラと輝きながら斜面を流れ落ちているのだ。
他の山で斜面から霧が流れ落ちる光景はテレビで何度か見たことがあるが、厳冬期の白神岳でこのような幻想的な光景を見たのは初めてだ。
風に煽られながら感動的な光景を眺めた後は、稜線上の小さな丘を登り、そして山頂方向へと下ったが、不思議なことに今までの立っていられない程の強い風が嘘だったかのように突然無風となり、滝も消失した。
辺りには青空の下、ハッキリとした姿を魅せる向白神岳、岩木山、八甲田山、森吉山、寒風山、南の方角にはうっすらと鳥海山だろうか…美しく雪化粧をした目の前の白神岳と周辺の主峰達の歓迎にすっかり気を良くし、稜線上を山頂の標柱が僅かに見える丘を目指して周辺の美しい景色に感動しつつ一人ゆっくりと歩みを進める。
少しして雪で埋まった避難小屋を通りすぎ、標柱が雪面から僅かに顔を出す白神岳山頂へと12時25分、到着した。
穏やかな風が流れる山頂からは、太陽の光が降り注ぐ澄みきった青空の下、小さな船が浮かぶ穏やかな海の風景と共に360°のパノラマが広がっている。
元日の悪天と比べても、今日の白神岳は随分とサービスがいいなぁ…などと考えながら、見渡す限りの美しい景色をじっくりと眺めた後は、折角のサービスに甘えて山頂で昼食にすることとした。
水筒の熱いお茶の渋味と、あんぱんのコクのある甘さが口の中いっぱいに広がる。
旨い!
厳冬期の白神岳の山頂で美しい景色を眺めながら、一人ゆっくりと贅沢な時間を過ごし、五感が十分に満たされた後は、今回思いもよらず大サービスで迎えてくれた白神岳に感謝しつつ、また来ることを告げ山頂を後にした。
その後、下山途中にふと山頂方向を見上げると、日差しは既に無く、山頂は雲で覆われていた。
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