木曽石コースの登山道入口となる金山滝へ通じる車道は雪で閉ざされ、450m程手前からのスタートとなった。
午前2時、さらさらと流れる水の音を左手に聞きながら駐車地を後にし、額のヘッドライトの明かりを頼りに、先ずは登山道入口を目指した。
少しして登山道入口にある東屋に到着し、早速山道へと足を踏み入れた。
道は先日までの登山者によりよく踏み固めらているが、凍結した斜面は滑りやすく、程なくしてアイゼンを装着し、山道に露出した木の根を踏まないように気を付けながら高度を上げて行く。
暫くすると左手の杉林の合間からは町の明かりがチラチラと輝いているのが見える。
と、突然暗闇の高所から光るふたつの目がこちらを窺っているのが見える。
一瞬背筋が凍りついたがフクロウだろうか…スマホの画像に収めようとしたが、程なくして姿が見えなくなった。
更に暗闇を歩き続け、4時、女人堂に到着し、秋田市の夜景を楽しんだ後は前岳を目指すが、この先にはトレースが無く、足下が雪に沈み込むので、アイゼンからスノーシューへと履き替えた。
そして前岳を通り過ぎ、尾根沿いに下った先の斜面を登りきると、5時20分、雪に埋もれた三角屋根の避難小屋が現れ、中岳へと到着した。
ここから見える秋田市の夜景も美しい。
少しの間景色を楽しんだ後は、更に次のピークへ向かう為、東へと下ったが、行き先を覆う林の中の緩い勾配の地形は、暗闇の中では方向が定まらず、GPSで方向を確認すると、東へ進むべきところを、いつの間にか北へと進んでおり、ここで無駄な時間を費やしてしまった。
行き先を修正して鶴ガ岳を通り過ぎて少しすると夜が明け、東の空には朝日が昇り、辺りはオレンジ色の光に包まれた。
折角の美しい景色なので、景色を眺めながらソーセージパンと水筒の熱いお茶で朝食にすることとした。
キーンと冷えた空気を肌に感じながら、真っ白に雪化粧をした辺りの景色が瞬く間にオレンジ色に染まって行く光景を眺めながら食べる朝食の味は格別だ。
ゆっくりと景色を堪能した後は、更に東へと続く尾根へと歩みを進めた。
尾根沿いにはやや雪庇が張り出しており、その上には樹木が少なからず行き先を邪魔している為、雪庇の端を避けて枝をくぐり抜ける際にスノーシューやトレッキングポールが木の枝に引っ掛かり非常に歩きにくい。
面倒に思えてきたので、剣岳は尾根から北へと少しルートを外してみることとした。
かなり斜面がキツイせいか積雪が少なく木の枝が頭上へとかわせることが多いので意外と進みやすい。
調子にのりスノーシューのエッジを利かせながら暫く急な斜面のトラバースを続けていると、突然左足のスノーシューがフカフカの雪を捉えきれずに斜面の下へと流された。
転倒して滑落しながらトレッキングポールを左足の足下へと突き刺し、なんとか10m程の滑落で停止した。
もしもこのまま速度が増せば、停止出来ずに途中の樹木に激突していたかと思うとゾッとする。
気を取り直して尾根を進むルートへと復帰し、宝蔵岳へと到着したが、ここから先は樹木の枝が密集している急な下りとなっており、スノーシューでは危険と判断し、アイゼンへと履き替えた。
ここからは、今までの安全な尾根歩きとは違い、鋭角に形成された吹き溜まりがあったり、細い尾根上に灌木が密集していたり、更に起伏も激しく滑落や踏み抜きの可能性が高い地形が度々現れる為、その都度吹き溜まりを崩し足場を形成し、細かいルートファインディングをしながら進んだ。
そして暫くして本日のメインとなる弟子還の下へと到達した。
絶壁と言っても差し支えない程の斜面を前に登攀ルートを思案するが、今立っている積雪が鋭角に形成された尾根の左右は深い谷となっており、万が一滑落した場合は助かる見込みはないだろう。
大まかな登攀ルートを決め、先ずは足下から弟子還の斜面直下へと続く鋭角に尖った積雪へと歩みを進めた。
しかし、予想外にフカフカな積雪は、体重を乗せると腰の高さまで沈み込み、アイゼンが全く利かない。
よく見ると数十センチの積雪の下は木の枝が密集する中空となっており、ピッケルが突き抜ける為、仕方なくトレッキングポールを短くして両手で雪面に突き刺し、胸の高さ程の雪を崩しては足下を固める作業を繰り返しながら僅かずつ高度を上げる。
念の為に山中に泊まることを想定して持参した荷物と、くくりつけたスノーシューで重量を増したザックが体の重心を狂わせ、登攀をより慎重にさせる中、暫くして漸くキックステップが利く高度まで到達したが、やはり時折積雪の下が中空になっている。
そして復路でのルートを考慮しつつ、雪面と共に斜面から剥がされないように、慎重にルートを探りながら、一歩一歩進むごとに足場を形成し、更に登攀を続けた。
予想外に多くの時間を費やした後、斜面の勾配が緩くなり、漸く二本足だけで立てる高度まで到達し、やっと一息つくことができた。
後はこの先のピークを越え、更に尾根伝いに登り詰めれば、太平山(奥岳)山頂へと到着する。
雪庇の踏み抜きに注意を払いつつ山頂へと続く尾根を通過し、青空の下、いよいよ真っ白な雪を纏った奥宮の建物が目前に迫る。
そして、11時45分、鳥居をくぐり抜け、太平山(奥岳)山頂へと到着した。
足跡一つ無い山頂は、真っ青な空の下、風もなく燦々と降り注ぐ陽光を浴びてキラキラと輝く雪が眩しい。
見渡せば、積雪により特異な造形をつくる山々の姿が美しく、360°何処を眺めても感動的な視界が広がっており、聞こえるものと言えば、微かに空に響く飛行機の音だけだ。
記念撮影を終え、丁度お昼時なので、方位盤の下に腰掛け、この世の中から隔絶されたかのような美しくも穏やかな景色を眺めながら昼食にすることにした。
今日の昼食は、熱々の激辛カップラーメンだ。
辛さが口いっぱいに広がり…旨い!
厳冬期の登山には辛口がよく似合う。
山頂にて一人贅沢な時間をゆっくりと過ごし、心と胃袋が満たされた後は、この贅沢なひと時を与えてくれた太平山に心から感謝しつつ意気揚々と山頂を後にした。
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