前日までの春のような暖かさで、白神岳登山口(黒崎)に通じる林道も雪解けが進み、今日は、記帳所まで車を乗り入れることができた。
低気圧通過後の今日は、徐々に冬型の気圧配置へと移行し、山頂付近は厳冬期の悪天による厳しい山行が予想される。
3時50分、記帳を済ませ額のヘッドライトを灯し、未だ無風の静けさの中、山道へと歩みを進めた。
空には星が無く、海辺の街明かりさえも見えず、真っ暗な山中には、ただ海からの波の音だけが遠くに聞こえている。
今日の山道は雪が薄く、土が露出している所が少なからずある為、登山靴で歩みを進めるが、途中の木製の階段を登りきると山道が雪で覆われた為、スノーシューを装着した。
少しして冬道への分岐地点へと差し掛かるが、前日までの暖かさで薮が露出している為、今日は一人分のトレースが続く夏道を辿ることとした。
積雪が薄い山道は歩きやすく、二股コースとの分岐地点を蟶山コースへと進むと、辺りには雪が降り始め、ジャケットのフードを深く被り、山道に覆い被さる木々の枝を避けながら歩みを進める。
進むほどに積雪は増し、延々と続く急な斜面をトラバースする夏道は判別が難しくなり、間も無くしてこのトレースの主は引き返したようだ。
モナカのように表面だけが凍結した急な斜面は足場に乏しく、不用意に足を載せると意図も簡単に斜面を滑り落ちる為、滑落に気を付けながら一歩一歩スノーシューのエッジを利かせながら前進する。
雪が降り続く中、緊張感のあるトラバースを続け、漸く最後の水場へと到着したが、今も凍結することもなく流れ続ける水場には雪崩によるデブリが確認できる為、早々にその場を後にした。
更に急斜面のトラバースを続け、夏季には枯れ沢となっている谷へと到着した。
地形図を確認し、ここからは遠回りとなる夏道を外れ、蟶山から大峰分岐へと連なる尾根上へと直接突き上げることとした。
先ずは目の前の谷を辿るが、未だ辺りは暗闇で地形が確認できない為、方向が定まらず蛇行しつつ登り続ける。
そして、地形図により僅かに傾斜が緩くなっている場所に取り付き、尾根への急斜面をキックステップを駆使しつつ登るが、相変わらず斜面を覆うモナカのような積雪は滑りやすく、一度滑ると速度を増し、木にぶつかるまで停止せずに滑り続ける為、緊張しつつ登り続ける。
そして暫くして漸く大峰分岐へと続く尾根上へと上がったが、ここからは風雪が強まり、未だ暗い尾根上を膝下程度の重い積雪を漕ぎながら進んだ。
少しして夜は明け、辺りには真っ白な雪を纏ったブナ林の景色が現れた。
サラサラと雪が降り続ける厳冬期のブナの森の姿もまた趣があり、心に沁みる感動的な光景だ。
そして相変わらず雪が降り続く中、7時30分、標高約1100mに到達した。
目の前に続く急斜面を登りきれば大峰分岐だが、樹木も疎らな斜面はいよいよ吹雪で見通しが悪く、右手の後ろ側から吹き付ける氷の粒を伴った強い風と共に、薄暗く険悪なムードが漂っている。
意を決してトレッキングポールを雪に突き刺し急斜面に取り付くが、サラサラに乾燥した雪にスノーシューのスパイクが上手く食い込まずキックステップで足場を固めながら四肢を駆使して登り続ける。
前日の暖気のせいか、雪の下が空洞化している場所もあり、踏み抜きにも注意を払いつつ登り続けるが、高度と共に風雪は強まり続け、ホワイトアウトとなった。
目の前は真っ白で数メートル先が辛うじて見える程度となった為、復路での目印となるテープをポケットから取り出し、雪面から僅かに伸びる灌木の枝に巻き付けながら、大峰分岐を目指した。
暫くして運良く大峰分岐にある雪に埋もれた小さな案内板を見付けることができた。
近くに標柱もある筈なのだが、標柱は確認出来ない。
ここから山頂へと稜線が続く筈の方向は、吹雪により真っ白で何も見えず、相変わらず視界は足下から数メートル先がやっと見える程度だ。
久々の悪天の厳冬期登山に、否応なしに身が引き締まる思いだ。
振り返れば、既にここまでのトレースは消えかかっている。
装備を今一度確認し、地形図で稜線上のピークやコルの位置関係を頭に入れ、コンパスを大まかに160°に合わせてから目の前に広がる真っ白な空間に歩みを進めた。
日本海から直接吹き付ける白神岳の雪と風は凄まじく、トレッキングポールを突き刺し、足を踏ん張りながらの歩行となるが、幸いにして吹雪は正面からではなく、右手からだ。
先ずは高度1235mのピークを目指し、コンパスが指し示す方向へと雪面から僅かに伸びる灌木の枝にテープを巻き付けながら進む。
そしてピークらしき場所を通りすぎ、目の前に現れた下り斜面をトレッキングポールで足下を探りながら180°の方角へと下り、その先のコルから再び160°の方角へと緩い上りを辿ると、突然トイレ棟が目の前に現れ、突然の出現に驚きつつもホッと胸をなでおろした。
早速その先にある避難小屋を通りすぎ、山頂を目指すが、直ぐそこにある筈の山頂の丘も吹雪で全く見えない為、またトレッキングポールで足下を探りつつ、8時15分、山頂へと到着した。
真っ白な空間だけが広がる山頂からは見えるものもなく、山頂を示す標柱も確認できない。
仕方なく雪面から顔を出す二股コースへの入り口を示す標柱の記念撮影を終え、気がつけばつい数分前につけたトレースは既に吹雪により掻き消されている。
今日の白神岳は、どうやらご機嫌斜めで、山頂に長居をさせてくれる気はなさそうなので、早速また真っ白な空間が覆う稜線上にコンパスとテープを頼りに帰路につくべく歩みを進めた。
今日の山行は、予め悪天が予想されていたが、厳冬期のトレーニングも兼ねての山行であった為、卓上での雪山での対処方を厳冬期の白神岳で実践できたことは、また新たな自信へと繋がったことと思う。
あわよくば向白神岳へ…と考えていたが、やはり日本海に接する厳冬期の白神山地は、悪天時の最高峰に易々と人を近づける程甘くはなかった。
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