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2021年03月14日 19:04未分類全体に公開

単独行〜蟻の戸渡(稲倉岳)・積雪期

2021,03,12
真っ暗な林道を進み続け、除雪の終わりとなる横岡第二発電所前に到着し、林道脇へと車を停めた。
3時20分、先ずは目の前に続く林道の2.2km先にある取水堰を目指して歩みを進めた。
静かな森の中には、スノーシューのサクサクという音以外は何も聞こえず、月明かりが無い今夜は、ヘルメットに装着したヘッドライトの明かりを消すと文字通り真っ暗で何も見えない。
ふと空を見上げると、杉林で囲まれた夜空には幾つもの星がキラキラと瞬いており、あまりの美しさに、つい見とれてしまう。
暫くして取水堰に到着し、橋を渡って直ぐ右手に立ち上がる急な斜面に取り付き地形図を頼りにルートファインディングしつつ森の中を西へと進んだ。
雪面には、熊のものと思われる足跡が無数に残されており、今も熊の活動が活発であることには驚かされる。
暫く森の中を進み、急な斜面の上にある雪庇を乗り越え、唐吹長峰へと続く稜線へと上がった。
稜線上は風もなく穏やかな雑木林が広がっており、真っ暗な雑木林の中を更に南へと歩みを進めた。
少ししてクラックが入り、今にも崩れ落ちそうな雪庇が張り出した唐吹長峰山頂に到着した。
僅かな丘の上から振り向けば、眼下には美しい街明かりが見え、今この山中には自分一人だけが存在していることを実感させられる。
少しの間、夜景を楽しんだ後は、更に木々の合間を縫うように南へと下り、緩いコルからまた上りへと変わり、谷櫃滝を左手にして徐々に傾斜を増す斜面を息を切らせつつ高度を上げる。
そして5時を過ぎると夜が明け始め、真っ暗だった森の中の景色が目の前に姿を現し、漸くルートファインディングが楽になった。
雪面には動物達の足跡だけが残されており、どうやらこちらから稲倉岳を目指す登山者は自分以外いないようだ。
更に歩みを進め、森林限界を過ぎると雪面は固い氷へと変わり、左手から差し込むオレンジ色の太陽の光を反射し、まるでさざ波が立つ水面を歩いているかのような光景が広がっており、遠くには真っ白な雪を纏った新山が姿を現した。
気が付けば、いつの間にか冷たい風は強まり、ピューピューと音をたてながら頬を撫でて行く。
登る程に日本海から直接吹き付ける風は強まり、高度1000mを超える頃には堪らずにバラクラバを装着し、更にウェアのフードを深く被り、吹き付ける風に耐えつつ凹凸が少ない代わり映えのしない斜面を延々と登り続けると、漸く稲倉岳山頂が見えてきた。
のっぺりとした山頂は、遠近感に乏しく、山頂までの距離がつかみにくい。
暫く登ると見覚えのある岩を見つけた。
無雪期に登頂した際に三角点を表す標石の脇にあったあの岩だ。
7時41分、その岩に歩み寄り、三度目の登頂を喜びガッツポーズを決めた。
誰もいない見晴らしの良い山頂からは、刺々しい外輪山とその先には美しくも険しい真っ白な山肌を露にした新山がハッキリと見える。
さて、今日の目的地である蟻の戸渡はどうだろうか…。
昨年の冬は、天気と休日が合わずジャンダルムにて悔しい思いをしたが、残念ながら今年も天気と休日が合わず、今まで来れずじまいだった。
待ちに待った今日、登山の機会に恵まれたが、二日間で中島台〜新山〜御浜小屋〜蟻の戸渡〜ジャンダルム〜稲倉岳と回る計画は明日の低気圧の接近により、悔しいがまたしても頓挫してしまった。
仕事の都合を考えれば、今季はもうチャンスは無いと思われるので、仕方なくこのコースの最大の難所となる蟻の戸渡を往復してみようと思い今日の山行に及んだのだが…。
相変わらず冷たい風が吹きすさぶ山頂から見下ろす南側の稜線上には既に大きくクラックの入った雪庇が続いており、険悪なムードが漂っている。
しかし、ジャンダルムや蟻の戸渡の斜面にはまだ雪が張り付いているのが見え、これならば行けると判断し、早速南側に続く外輪山の稜線へと下った。
クラックの右手を、踏み抜きを警戒しながらスノーシューで下るが、意外にもガチガチに凍結した斜面は歩きやすく、大した踏み抜きもなく順調に進んだ。
そして8時17分、ナイフエッジが続くジャンダルムへと到着した。
見下ろした奈曽渓谷には冷たい風と共にグォーッという気味の悪い重低音が響き渡り、恐怖心を煽ってくるが、ゾクゾクする感覚を覚えながらジャンダルムの稜線の脇に僅かな足場を作り、スノーシューからアイゼンへと履き替え、ザックやスノーシューをデポしてピッケルを手にした。
これから降下するジャンダルムの西側の急な斜面はガチガチの氷の上に数センチの雪が積もっており、万が一滑落したら…という思いが脳裏をよぎる。
気持ちを落ち着け、目も眩む高度からいよいよ核心部へと降下を開始する。
雪面は固く、ピッケルやアイゼンの爪の利きが非常に悪い。
斜面のギャップを利用して、先ずは下りつつ左手にトラバースし、更に右手へとトラバースする…と、その時だった。
突然右足の爪が凍った斜面を捕らえきれず、体は一気に斜面を加速した。
一旦手放してしまい宙を舞っているピッケルを掴み、滑落停止を試みるが、体はクルクルと回転を始め、腹這いになったまま全く止まる気配はなく、奈曽渓谷へと更に加速した。
もう駄目だ…と思った瞬間、やや雪深い谷間に突っ込み停止した。
起き上がってみると、どこにも痛みは無いが、ウェアの左膝にあいた穴からは、血が溢れだし、左膝をベッタリと赤く染めている。
恐らくは深い切り傷を負ったのだろうが、ファーストエイドキット一式をザックと共に先程ジャンダルムの稜線へとデポしてきたので、ここで手当は出来ない。
今傷の確認の為に血止めとなっているウェアをめくり、出血を増やす訳にはいかないので、中に履いているタイツやトレッキングパンツが止血帯となってくれるのを期待し、そのまま山行を続行することとした。
GPSで確認すると、どうやらジャンダルムの西面を奈曽渓谷へと高低差80m程滑落したようだ。
気を取り直し、ピッケルを雪面に突き刺しつつ今滑落してきた奈曽渓谷の谷間を登り返し、ジャンダルムと対面する南側の垂直に近い斜面へと取り付こうとするが、空洞化した雪面が岩から剥がれ落ち、あと一歩が及ばず斜面へ取り付くことが出来ない。
またここで滑落する訳にはいかないので、蟻の戸渡の斜面を西側のルンゼから巻くこととした。
一旦先程滑落した西側へと下り、ルンゼに取り付くが、こちらもガチガチの氷に数センチの雪が積もっており、一歩登るごとにピッケルで足場を形成しつつ、アイゼンの前爪のみでの登攀となった。
日陰となっているルンゼの右手に切り立った崖からは、絶えず風と共にサラサラと雪が滑り落ち、険悪なムードと共に全く生きた心地がしないが、急勾配の崖で囲まれたルンゼから見上げる景色は、ゾクゾクする程の最高の景色だ。
そして緊張が続く登攀を続け、高低差約110mのルンゼを登りきり、9時25分、蟻の戸渡の通過に成功し、ここで目の前に聳えるジャンダルムのピークに向けて二度目のガッツポーズを決めた。
そしてその険しい岩肌を眺めつつ、ポケットからスポーツドリンクを取り出し、乾いた喉を潤す。
相変わらず風は強いが、冷たい風が頬を撫で火照った体を癒してくれる。
正に最高のひと時であり、今季での最高の達成感を味わいつつ、暫く周囲の景色を眺める。
上機嫌で休憩を終え、ふと新山を眺めると、山頂は既に薄い雲で覆われているのが見える。
どうやら早目にこの場を退散した方が良さそうだ。
少し名残惜しいが、今日の山行はここまでとし、ここから新山までの道のりは次回にとっておこうと思い、早速先程登ってきたルンゼの雪面にピッケルを突き刺しつつ奈曽渓谷への下降を開始した。
無事に下り、滑落跡が生々しいジャンダルムの西面を今度は確実に登り返し、デポ地に到着した。
これで、無雪期、積雪期共に蟻の戸渡を往復したことになり、達成感を噛み締める。
折角なので、この達成感を味わいながらジャンダルムの稜線上にて昼食にする事とした。
アンパンを口に頬張り、熱いお茶を口に含みつつ、先程滑落した奈曽渓谷を眺める。
よく生還できたものだと考えを巡らせつつ今更のように滑落時の状況が心にしみてくる。
ふと左膝を眺めると、相変わらず出血は止まってはいないようだが、下山まで放置しても何とかなりそうな気配だ。
今度は中島台の方角を眺める。
なだらかな雪面が続くこちら側にも今日は登山者はなく、どうやら今日のこの景色は私だけの貸し切りのようだ。
そして暫くして達成感と共に素晴らしい景色を満喫しながらの昼食を終えた。
風は相変わらず強く、新山に掛かる雲もやや厚みを増してきたように思えたので、身支度を済ませ、いつの日かまたこの地を訪れることを願いジャンダルムを後にした。
さて、北側に見えるあの稲倉岳山頂まで、もうひと頑張りだ…。
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