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林道脇の空地に車を停め車外に出ると、早速数十匹のアブ達の歓迎を受ける。
チクチクと刺されながら沢歩きの装備に身を固め、5時51分、駐車地を後にした。
人気の無い静かな林道に登攀具のチャラチャラという金属音を響かせながら暫く進むと、丸舞登山口に到着した。
登山口の標柱には、二つ目の橋が流出し、渡渉が必要と記されている。
立ち止まると、直ぐにアブや蚊の攻撃が始まるので、早速目の前に続く山道へと足を踏み入れた。
山道を進み少しすると、サラサラと流れる沢が見える。
山道は沢沿いに続いており、最初の橋を渡り、更に橋が流出したと思われる渡渉地点へ差し掛かった為、浅瀬を対岸へと渡渉した。
その後、更に3本の橋を渡り4本目の橋のたもとへと6時34分に到着した。
ここは沢の出合となっており、地形図を確認すると、どうやらここが本日遡行する鬼子沢の入口のようだ。
先ずは、沢の様子を確かめるべく、少し遡行すると、いきなり釜をもった小さな滝が現れた。
夏とは言え、まだ気温が上がらず肌寒い今はとても泳ぐ気にはなれず、一度右岸に続く山道へと進み、この滝の落ち口付近から再度入渓した。
水の流れは、想像以上に速いが、緑の森に包まれた鬼子沢の水の透明度は高く、厚い苔に覆われた岩が並び、うっすらとした朝靄に包まれた沢の景色は正に幻想的だ。
非日常的な沢の景色に感動しつつ、岩や流木を越えながら遡行を続けると、やがて沢幅は狭まり、両岸が切り立った崖が続くゴルジュ状の景色へと変わり、その奥には小さな滝が見える。
近づいてみると、やはりこの滝にも釜があり、突破するには泳ぐ必要がありそうなので、少し手前の右岸から高巻いて上流へと降り立った。
更に遡行を続けると、7時34分、落差15メートル程の滝が現れた。
目の前をゴーッ!という音を響かせながら豪快に流れ落ちる滝の登攀ルートを考えるが、どうしても強烈なシャワーを浴びながらの登攀が避けられないようだ。
中央からやや右岸寄りに取り付くが、余りの水圧で2度引き摺り下ろされ失敗。
水の冷たさでガタガタと震えながら、意を決して3度目、水圧に耐えながらホールドを見出だし、上手く右岸の岩場に逃げる事に成功し、そのままツルツルと滑る岩場を慎重に登攀して突破に成功した。
そして更に8時4分、20メートルを超えると思われる滝が現れた。
朝日に照らされながら中段二ヶ所で跳ね上がる姿が美しい滝だ。
これが剣滝だろうか…。
先程の登攀で体が冷えきっていたので、左手のルンゼにてひなたぼっこを兼ねてルートを練るが、万が一を考え直登はせずに右岸から高巻くこととした。
樹木にしがみつきながら滝の落ち口の上部へと到着し、セルフビレイをとって足下を覗き込むと、眼下には沢幅が狭いクネクネと曲がるウォータースライダーの様な滝が二つ連続しており、見るからに水圧が高そうでとても直登出来そうもない。
やはり高巻いて正解だったようだ。
そして、その連瀑帯上部の落ち口へと降り立ち遡行を続けると、9時11分、流水が落ち口から二手に別れている10メートル程の分岐瀑が現れた。
さて、この滝はどこから取り付こうか…。
ホールドが豊富な右手の流れの中央に取り付き、シャワーを浴ながら左岸へと移動。そして樹木の根を頼りにそのまま強引に登攀して突破に成功した。
そして上流を目指し更に歩き続ける。
青い空に白い雲、苔むした岩場は進むほどに複雑な地形を形成し、沢の流れはその隙間を埋めながらキラキラと輝く水しぶきを上げ、足元を流れ下る。
気が付けば既に日は高く昇り、火照った体に時折浴びるシャワーが心地よい。
暫くして出合へと差し掛かったが、地形図を確認し、左の沢を選択して遡行を続けると、高度670メートル付近より沢は枯れ、大きな転石が転がるガレ場となった。
進むほどに斜度は増し、いよいよスタンスに乏しい岩肌となった為、滑落の危険を感じつつ周辺の木々の枝を鷲掴みにして腕力で登り続ける。
数メートル登っては僅かな足が掛りでの休憩を繰り返すが、頭上から降り注ぐ太陽の強い日差しが容赦なく体力を奪う。
地形図で確認すると、あと数十メートル登れば尾根上の山道にぶつかる筈なのだが、頭上の藪の隙間から見え隠れするその数十メートル先の尾根が、今は果てしなく遠く感じる。
そして更に登攀を続け、11時52分、高度約920メートル地点の尾根の脇を通る山道へと漸く辿り着いた。
後はこの山道を辿れば奥岳山頂の筈だったのだが、暫くして疲れのせいか山道を見失って藪の中へと迷い込み、またもやルートファインディングすることとなった。
復路で確認したが、山道が通る枯れ沢の先で、沢から外れて90°左に折れた山道を見逃し、そのまま枯れ沢を直進してしまったようだ。
藪こぎをしながら3本の枯れ沢を横切り、山道へと復帰したが、このミスで大分体力と時間を無駄にしてしまった。
気を取り直し奥岳山頂を目指し、ほとんど眺望が無い山道を暫く登り続けると、突然右手の視界が開け、下界の穏やかな風景を確認でき、山頂まで後少しの距離まで迫ったことを実感した。
そして13時、本日の目的地である太平山奥岳山頂へと登頂を果たした。
見晴らしの良い山頂では、沢山のトンボや蝶が舞う中、鳥海山をはじめとする周辺の主峰が迎えてくれた。
山頂に居合わせた数名の方との挨拶を交わし、神社への挨拶を済ませてから空いていた椅子に腰掛け、沢の水を含みずっしりと重くなったザックを肩からおろして昼食にすることととした。
青空の下、山頂には微かな風が流れ、周囲を彩る草花を揺らしている。
今回は1月に次いでの半年ぶりの登頂となるが、1000メートル級の山とは言え、遮るものが無いこの場所から見える景色は、実に爽快だ。
そして苦労の末に到達したこの景色を前に、達成感を味わいながら食べるおむすびの味もまた格別であり、この旅もまた五感を満たす思い出深い旅となった。
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