鳥海山湯ノ台口の駐車場には、次々と登山者の車が到着し、徐々に賑わいを増してきた。
山頂方向を見上げれば、ガスが濃く山の稜線は全く見えないが、高気圧圏内の今日は太陽高度が上がるに連れ天気も回復することだろう。
絶景を期待しつつ、5時50分、先ずは滝ノ小屋を目指し駐車場を後にした。
デコボコとした石で埋め尽くされた山道の脇に続く雑木林は既に紅葉が始まり、ひんやりとした朝の空気と共に秋の深まりを感じさせる。
6時5分、滝ノ小屋に到着した。
小屋の中からは、賑やかな話し声が聞こえており、他の登山者と同じく小屋の前で記念撮影を済ませ、先へと進んだ。
沢の脇を通り抜け、八丁坂へ入ると、辺りを覆っていたガスは登る程に薄くなり、視界が開けた眼下には鳥海山の山肌を飾る美しい紅葉の姿が露となり、目を楽しませてくれた。
6時45分、河原宿に到着。
更に道なりに進むと、山道が続く足元は大きな石が目立つようになり、足の置場を選びながら進んだ。
暫くすると、目の前には雪渓が広がった。
雪を踏むこと無く、山道を示す矢印は上手く雪渓の脇を巻いて続いているが、不安定な石で埋め尽くされた山道は、非常に歩きにくい。
雪渓を過ぎると徐々に傾斜は増し、いよいよこのコースのメインとなる上り坂へと入って行く。
見上げれば、外輪山の稜線上にかかっていたガスはいつの間にか消え、振り返れば左手の眼下には雲海が広がっており、どうやら山頂からの素晴らしい眺望が期待できそうだ。
山道は時折凍結している場所もあり、急な傾斜が続く山道を足下に気を付けながら登り続ける。
今日は、このキツイ上り坂を考慮して装備を少しばかり軽量化したが、それでも10kgを下回らないザックの重さはなかなか堪える。
そして小休止を交えながら登り詰め、8時17分、伏拝岳へと到着した。
外輪山の連なりの先には稲倉岳が見え、久しぶりの再会に嬉しくなる。
鳥海山と言えば、私にとって新山よりも思い出深い山であり、また、数ある山の中でも一番のお気に入りだ。
半年程先には、またあの山の稜線上を苦戦しつつ辿っている光景が目に浮かぶ。
今回の目的は、積雪期の外輪山縦走路の下見と情報収集だ。
あわよくば、積雪期の外輪山縦走をこなした経験のある屈強な登山者から情報を得られればと思うのだが…。
ジャンダルムを従え、日本海を背後にどっしりと構える稲倉岳の眺めに満足した後は、稜線上の山道を東へと辿り、七高山を目指した。
稜線上の山道や、眼下に見える千蛇谷コース上にはカラフルなウェアを身に纏った多くの登山者が歩いているのが見える。
暫くすると山道脇にボコボコと沢山の小さな穴が空いた岩があり、近くにはモヤモヤと蚊の大群のような虫が舞っている。
これが虫穴(岩)だろうか?
虫がいる穴だから虫穴?なるほど…などと考えながら進むと、8時50分、七高山山頂に到着した。
切り立った崖の上から見える新山山頂にも沢山の登山者が見える。
北側の稜線上を見ると、更に尖った崖があり、人気がないその場所で休憩することとした。
崖の上にザックを下ろして岩に腰掛け、眼下に広がる美しい景色を眺めながら水筒の熱いお茶とパンで一息ついた。
そして短い休憩の後は、新山山頂へと向かった。
稜線上の分岐を雪渓が見える谷間に下ろうとしたところ、向かい側の新山への斜面を登る登山者が落石を起こし、ガラガラと石が転がり落ちて行く。
落石の行く先に他の登山者が居なかったのは幸いだ。
谷間に下り、上に登山者が居ないことを確認し、落石があった斜面をよじ登ると、体内くぐりがあるが、以前来た時より随分狭くなっている為、くぐらずに脇を通り抜けた。
そして大きな岩を乗り越え、新山山頂へと上がるが、沢山の登山者が休憩している為、数分間の登頂を果たした後、向かい側にあるお目当ての岩場へと向かった。
しかし、こちらにも先客が一人岩陰に座って下界を眺めている。
長年山と向き合ってきたかのような横顔。
話しかけてみると…鳥海山には既に30回以上登っているそうで、若い頃には北面からスキーで滑走していたとか。
積雪期の稜線上を歩いたことはないが、いずれ厳冬期には鳥海山一帯はガチガチに凍りつき、アイゼンの爪も刺さらないとの事。
半年程前にジャンダルムにて、アイゼンが氷を捉えきれずに滑落した際に命拾いした、あの真っ白な氷だ。
細い稜線上が全てあの状況では、非常に厳しい山行が予想される。
その後もその方から色々とお話しを伺い、この場も少し騒がしくなってきたので、感謝の気持ちを述べ、その場を後にした。
そして再度外輪山の稜線上に上がった。
目の前には右手に湾曲しながら続く、美しくも険しい外輪山の稜線が続いている。
稜線上を西へと辿って行くと、行者岳周辺や文珠岳から七五三掛にかけて困難が予想される箇所が少なからず存在し、地形図と照らし合わせながら巻き道を検討するが、積雪期には危険を承知の上で通過を余儀無くされる箇所も存在することだろう。
冬山とはそんなものだ。
暫くして、扇子森の手前のコルにて稜線を振り返る。
果たして自分の登山技術は、この山に通用するのだろうか…。
日本海から容赦なく吹き付ける氷の粒を伴った強烈な風に、凍結した細い稜線。
身震いしそうな光景が目に浮かぶ。
さて、下見も終わり、後は下山するだけだ。
腕時計を見ると、まだ11時30分。
天気も良く、折角の美しい景色の真っ只中に居るのだから、あとはゆっくりと観光しながら下山しようと思い、月山森へと向かった。
木道が続く鳥海湖の脇を通り抜け、分岐から階段を下り、先程歩いた稜線を下から見上げる。
頭上から降り注ぐ太陽の光が眩しく、風もないこの場所は、夏を思わせる暑さだ。
目の前には金色に輝く草原の中に木道が続いている。
木道を進み、巨大な岩が埋め尽くす枯れ沢を登り、13時25分、月山森へと登頂した。
360°の遮るものが無いこの場所から初めて目にする景色もなかなかのものだ。
その後、再び八丁坂を経由し、14時45分、湯ノ台口へと無事に下山し、この山行を終えた。
さて、標高の高い山ではそろそろ初冠雪の声が聞こえる時期になった。
今季はどんな素晴らしい景色に巡り会えるだろうか…そしてどんな困難が待ち受けているのだろうか。
厳しくも美しい白銀の世界に足を踏み入れるのが今から楽しみでならない。
2020年11月20日 初版第一刷発行が参考になるかもしれません。
〒999-7781 山形県東田川郡庄内町余目字土堤下22-7
E-mail [email protected]
phone.090-8925-3027
私は図書館から借りましたが写真も豊富で登山ルートも細かく載っており文章もとてもすばらしい本でした。
佐藤要さんですね!
是非一度お会いしたい方の一人です。
実は昨年こちらの書籍を購入いたしましたが、一気に読んでしまうのが本当に勿体無くて、まだ1/4ページ程残しております。
写真もさることながら、文章を読むと、佐藤さんが見てきた鳥海山の情景が目に浮かぶようであり、一度ならず二度、三度と読みたい書籍です。
また、「山を良く見たいから、ワカンやスノーシューを履いて一歩一歩時間をかけて歩く」スタイルに共感を覚えます。
最近は、スピード競争のような山行記録に視線が集まりやすい中、このような心にしみる山行は、やはり長年山と真摯に向き合ってきた方々の行き着く場所なのでしょうか。
それにしてもkatokenさんは、登山歴56年とは凄いですね!
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