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休日の今日は、雪山登山を待ちきれず、嶽温泉にある登山口へと向かった。
灰色の空からは時折ザーッ!という音と共に雨が落ち、山頂付近は雲で覆われ全く確認出来ないが、高気圧圏内の今日の天候は回復傾向だ。
今季初の雪山登山。
アイゼンにピッケル、二日分の食料に冬装備の登山靴とウエアetc…少しオーバークオリティーのズシリとくる重量に少々気後れするが、厳冬季のトレーニングも兼ねて臨むこととした。
6時50分、登山口の真っ赤な鳥居を潜り抜け、静かな森の中へと歩みを進めた。
真っ白な雪の上に自分だけのトレースを刻む事を期待していたのだが、どうやら先行者が一人いるようだ。
広い山道にはギッシリと落ち葉が敷き詰められており、足裏のフカフカの感触を確かめながら緩い傾斜が続く山道を登り続けると、時折右手からは朝日が差し込み、未だ薄暗い森の中を照らしてくれた。
相変わらず空からは時折雨が落ちてくるが、流石にまだ雪も無い標高では冬装備のレイヤリングではオーバーヒート気味となり、ハードシェルのジッパーを開け、ペースダウンしつつ、更に歩みを進める。
標高800メートル付近に差し掛かると、いよいよ足元には雪が見え始め、ザワザワと笹の葉を揺らす風も冷たさを増し、雨の代わりに空からはサラサラと雪の粒が落ちてくる。
霜柱を踏みつけるザクザクという音を響かせながら、ゆっくりと高度を上げ続けると、足下には徐々にゴロゴロとした滑りやすい岩や石が増え始め、歩きにくさを増してきた。
そして、暫くして目の前に現れた急な階段を登り、8時35分、真っ白な雪が覆う8合目の駐車場へと到着した。
見上げれば、山頂は未だ雲に覆われ、降雪を伴っていると思われる景色が確認できる。
いよいよ本格的な雪山が目の前へと迫り、降雪の中に身を投じる状況にワクワクする気持ちが止まらない。
悪天が予想される山頂を眺めながら冷たいスポーツドリンクを口に含み、ニット帽を被り、インナーグローブの上に冬用のグローブを装着し、ウエアのジッパーを上げる。
そして今一度装備の確認を済ませ、先行者を追い越して、リフト乗り場の脇にある階段へと進んだ。
階段から続く山道には、足首程度の深さの真っ白な雪が積もっており、前日まで登った登山者達のうっすらとしたトレースが続いている。
ゴロゴロとした大きな石を乗り越えつつ、意外にも滑らない雪の上の感触を楽しみながら登り続けるが、時折ザックに取り付けたピッケルのシャフトが、覆い被さる樹木の枝に引っ掛かる度に足止めされ、少々忌々しく感じる。
9時10分、リフトと山頂への分岐点へと到着。
視界は50m程。
先へと続くトレースはほとんど確認できず、険しい岩肌を前に雪の粒を伴った冷たい風が頬を叩いている。
待ち望んだ冬山の情景に感動しつつ一息ついた後は、鳳鳴ヒュッテを目指した。
スリップに気を付けながら、ゴツゴツとした岩の間をすり抜け、ヒュッテに到着。
いよいよ岩登りの始まりだ。
雪をまとった大きな岩が埋め尽くす斜面へと取り付くが、意外にも滑らない為、そのまま更に登り詰めるが、徐々に岩が雪に覆われると共に斜度も増して足下も滑り始めた為、雪を踏み固めて僅かな足場を作り、アイゼンを装着した。
久しぶりのアイゼンの感触と効きの良さに気を良くし、岩場を軽快に登って行き、山頂直下標高1550m地点の平地へと差し掛かるが、相変わらず山頂は雲の中だ。
そして最後の岩場へと取り付く。
登る程に雪の粒を伴った風は強まるが、行動に支障をきたす程ではない。
風と共にサラサラとウエアを叩く雪の音、そしてガシガシとアイゼンの爪が岩を捕らえる音をBGMに、山頂を目指す。
暫くして、ふと右手を見上げれば、山頂を示す鐘が見える。
逸る気持ちを抑えつつ、岩と岩の間を埋め尽くす雪の踏み抜きを警戒しながら鐘へと歩み寄り、9時50分、岩木山登頂一番乗りを果たした。
相変わらず視界は不良で、直ぐそこにある避難小屋さえも霞んで見える程だが、何故か登頂時間を境に風はピタリと止み、無風となった。
岩木山に「今日は眺望まではサービス出来ないが、風は止めてやったから、ゆっくりと飯でも食べていけ」と言われているように思え、お社に手を合わせてから折角なので岩に腰掛け、少し早い昼食にすることとした。
ザックから冷えきったパンを取り出して口に頬張り、水筒の熱いお茶を口に含む。
本格的な冬にはまだ早いが、眺望は無くとも待ちに待った今季初の雪山登山を体験できただけでも今日は満足だ。
少しして、先程追い越してきた登山者の方が近くに来たが、その姿を見て驚いた。
何と短パンにタイツ姿なのだ。
「若いな〜」などと声を掛け、「寒くないですか?」と伺ってみると、「寒いです」と当たり前の返事が返ってきた。
「でしょうね」と言って二人で笑った。
聞けば、関東から遥々赴き、昨日までの数日間、その格好で岩手山や八甲田山に行き、雪山のラッセルもこなして来たとの事。
更に明日は白神岳だそうだ。
若いって凄いなぁ…。
ふと、そんな事を思う自分が、登山者としては既に若くはないことに改めて気付かされ、ハッとさせられる。
山では若いというだけで、何とかなることも少なくはない。
私ももう少し早く登山を始められたら、もっと面白い経験ができたかもしれない。
雪山の山頂にて、あのような格好で笑い合える彼が羨ましく思う。
少しの会話の後、初めて登頂した岩木山だが、寒いので早速下山すると言う彼に、「滑るので、お気をつけて」と声を掛け、明日の白神岳登頂も無事に終えられる事を願い、颯爽と下山に向かう若い背中を見送った。
さて、お腹も満たされたし、オッサンもそろそろ下山するとしようか…。
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