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アルパこまくさの東側、標高700メートル地点では、肌を刺すような寒さの中、見上げれば満天の星がキラキラと輝いている。
どうやら今日は晴天の下での山行が期待できそうだ。
車内に戻り、真っ暗な外の景色を眺めながら暫く待機していると、やがてうっすらと明るくなった東の方角には、白く雪化粧をした秋田駒ヶ岳がぼんやりと姿を現した。
早速アイゼンとピッケルを取り付けたザックを背負い、今季初のスノーシューを履き、6時32分、まだ薄暗い駐車地を後にした。
やや藪化した旧スキー場の中には、うっすらとしたスキー板の跡が続いており、足下の雪は、表面がカリカリに凍結しているが、モナカのように中は柔らかく、スノーシューがズボズボと埋まって歩きにくく、これでは先が思いやられる…。
静かな山中にザクザクという音を響かせながら歩みを進め、暫くして振り向けば、遠くに見える山肌はいよいよ赤く染まり、朝の訪れと共に、これから気温の上昇が始まることを知らせてくれた。
少しの間、美しくオレンジ色に染まる山肌を眺めた後は、これから気温の上昇と共に悪化するであろう足下の雪質を気にしつつ先を急いだ。
旧スキー場の緩い傾斜は暫く続き、行き止まりとなった目の前の藪を抜けると、8合目へと続く県道127号線へとぶつかり、つづら折りに続く道をショートカットしつつ、先ずはこの道の終点となる8合目の避難小屋を目指した。
辺りを埋め尽くす雪は、朝日を浴びてキラキラと輝き、右手には青空の下、真っ白な雪を纏った秋田駒ヶ岳の山肌が見える。
足下は相変わらずモナカのような雪質が続いており体力を奪われるが、辺り一面に広がっている感動的な景色に助けられ、息を切らせつつ高度を上げ続ける。
そして8時15分、8合目の避難小屋へと到着した。
風もなく穏やかな雰囲気が漂う避難小屋前にて、目指す男女岳山頂方向を眺めながら冷たいスポーツドリンクを口に含みつつ一息ついた後は、地形図と目の前に広がる真っ白な雪に覆われた地形を照らし合わせ、これから進むルートを確認する。
思いの外、気温の上昇が早そうなので、雪崩を回避するため、谷間を辿るルートを止め、先ずは尾根沿いに進むルートを選択し、阿弥陀池避難小屋の北東側にある小ピークへと向かうこととした。
目的の小ピークへと続く南側の尾根上には、未だ木々が顔を覗かせており、木の枝を避けながら登り続ける。
やがて尾根は痩せて斜度を増し、周囲には刺々しい赤い岩や、尾根の両側に深く切れ込む谷が現れ、高度感を増してくる。
更に地熱のせいか、パチンコ玉のような丸い石が足元を埋め尽くす滑りやすい地形などが現れ、やや危険度も増してくるが、スノーシューのスパイクの効きを確かめながら一歩一歩確実に歩みを進め、目的地の小ピークへと到着した。
目の前には浄土平があるコルを挟み、雪で覆われた男女岳が大きく迫る。
そして大迫力の景色を前に、山頂までのルートを探る。
このまま直進し、男女岳の東側斜面から山頂を目指そうと思うが、前日までの暖気のせいだろうか、よく見るとルート上にある斜面に積もる雪にはシワが入り、雪崩の徴候が確認できる。
このまま無頓着に斜面に取り付き、雪崩に巻き込まれたらと思うと、ゾッとする。
仕方なく東側からの登頂を断念し、傾斜が緩い南東側から取り付くこととした。
今居る小ピークを下り、浄土平を阿弥陀小屋へと向かう。
雪が積もり真っ白な平原となった浄土平には、自分だけの足跡が点々と続いて行く。
丘の上に建つ阿弥陀小屋に到着すると、目の前には雪で覆われた阿弥陀池、そして左手の切り立った稜線の先には男岳が見える。
ここまで来れば、男女岳山頂までもう一息だ。
避難小屋の前で山頂へと続くやや急な斜面を眺めつつ、このままスノーシューで行くか、アイゼンに履き替えるかを思案するが、このままスノーシューで登り詰めることとし、いよいよ最後の斜面へと取り付いた。
トレッキングポールを雪面に突き刺しながら歩みを進めるが、登る程に斜度は増し、時折ズルズルと滑り落ちる。
やはりアイゼンに履き替えるのが正解だったか…。
既に太陽は高く上り、背後から照り付ける日差しが暑い。
時折滑り落ちつつも歩みを進め、見上げれば山頂はもうすぐそこだ。
そして一歩進むごとに山頂が近付き、9時29分、男女岳山頂へと到着した。
誰もいない静かな山頂には、穏やかな風が流れ、晴れ渡った青い空には、うっすらとした雲が浮かんでいる。
そして、その下では鳥海山を始め、早池峰山、岩手山、乳頭山、岩木山、白神岳、森吉山等々、沢山の山々が迎えてくれた。
まるで登頂を祝ってくれているかのような絶景を前に記念撮影を済ませた後は、この感動的な景色を眺めながら休憩することとした。
背中からザックを下ろして岩に腰掛け、クリームがたっぷりと入った菓子パンを片手に、水筒の熱いお茶を口に含む。
視線の先には、時が止まったかのような風景の中を、ベールのような雲が形を変えながらゆっくりと流れて行く。
ふと、数年前にここで出会った登山者を思い出した。
季節は確か秋。
地面に届きそうな位の長い髪を束ねた特徴的な風貌の男性で、共に乳頭山への縦走をした後、鶴の湯に行くのを楽しみにしていたが、今どうしているだろうか…険しい岩場も、ものともしない健脚の彼なら、きっと今も全国の山々に足を運んでいることだろう。
そう言えば、あの時に紅葉が美しいと勧められた早池峰山や三ッ石山にはまだ行けてなかったことに気付く。
そうだ、来年は彼に勧められたあの山にも行ってみようか…視線の先には、雲海に浮かぶ早池峰山が見える。
きっとまた素晴らしい景色に出会えることだろう…そしていつかまた彼にも出会えたのなら、共にまた山話しに花を咲かせよう。
などと少し懐かしい思い出に浸りつつ男女岳山頂での穏やかな時間は過ぎて行く…。
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