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2022年、元日5時、まだ除雪がされていない国道101号に車を走らせる。
10〜15cm程度の雪が積もる暗闇の中に続く車道は、地吹雪で非常に視界が悪く、吹雪の中からは、時折右往左往している車が突然目の前に現れ、肝を冷やしつつ白神岳登山口へと向かう。
海沿いを北へと一時間程車を走らせ、国道から登山口へと続く林道の上りへと差し掛かるが、雪が積もり車で易々と上れる状況ではない。
前進と後退を繰り返しつつ上り坂が続く林道を進むが、いよいよ深い雪に阻まれてタイヤは空転し、前進することができなくなった。
ドアを開け外へと出てみると、まだ夜が明けない暗闇に包まれた林道には、ゴゴーッ!という荒れ狂う日本海の波の音と、雪を伴った風が木々の枝を揺らす音だけが聞こえている。
2022年最初の山行となる今日は、上空約5500mに-39℃以下の寒気が入り、白神岳山頂付近では風速20m/sと、非常に荒れた天候が予想され、山頂到達への勝算は無い。
しかし、誰に気兼ねするでもなく、雪国の厳しい冬を迎えた白神山地の森の姿をじっくりと観賞しつつ、自分だけの山行を楽しむことは、この時期の楽しみでもある。
登山装備を身に付け、6時55分、やや明るくなった林道に、今年最初の登山の第一歩を踏み出した。
先ずは今日初めて履いたワカンの具合を確かめつつ1.5km程先にある登山口駐車場を目指した。
初めて履くワカンは、いつものスノーシューよりも軽く、沈み込みはするが、軽さも手伝って軽快な足取りで進むことができ、少しマニアックなこの装備は、なんだか登山上級者になった気分にさせてくれる。
暫くして駐車場に到着し、更にその先にある記帳所にて入山届けを済ませた。
時刻は7時40分。
辺りは既に明るくなり、真っ白に雪化粧をした厳冬期の白神山地の姿が目の前に広がる。
早速記帳所を後にし、うっすらとした山道が続く森の中へと進んだ。
やや重い新雪に覆われた山道には、相変わらず海からの波の音が響き渡り、強い風と共に霰が頬を叩く。
堪らずにバラクラバを身に付け、ウェアのフードを深く被った。
人影もない真新しい雪の上には、自分だけの足跡が続いて行く。
暫くして山道を外れ、蟶山への直登となる尾根筋へと取り付き、沢山のブナの木が生える急登へと差し掛かるが、登るほどに雪の深さは増し、いよいよ膝の高さを超えてくる。
目の前に積もる雪を膝で潰し、更にワカンを蹴り込みつつ高度を上げるが、日本海から直接吹き付ける雪を伴った風は強さを増し、時折視界を遮られ、寒さで早くもグローブの中の指先が痛み始める。
辺りには、凍てついたブナの木が擦れ合うバキバキという音が絶え間なく鳴り響いており、厳冬期の厳しい寒さの中を生き抜くブナ達の営みを感じることができる。
さて、どこまで来ただろうか…今日はGPSが全く機能せず、現在地の確認ができない為、コンパスと高度計で地形図と照らし合わせ、現在地を割り出す。
どうやら蟶山の南西側900mの地点まで来たようだ。
予想はしていたが、この雪の深さと風雪に阻まれた状況では、白神岳山頂には辿り着けそうもない為、今回は蟶山を最終目標地点とすることとした。
少しの休憩を挟んだ後は、復路での目印となるテープを木の枝に結び付け、再び目の前に続く尾根を黙々と登り続ける。
そして、9時55分、蟶山山頂へと到着した。
雪を伴った強い風が吹き荒れる山頂では、残念ながら特に目を引くものは無い。
しかし、元日の今日、こうして今年も白神山地の奥深くに足を運び、目の前に広がる雪を纏った厳冬期のブナ林の眺めは、今日この日に訪れた自分だけに見える景色なのだ。
何故辛く危険な雪山に登るのか…とよく呆れられるが、それはその場に行かなければ得られない美しい景色と感動が待っているからだ。
お茶の間で見る映像では、この感動の全ては決して得ることはできない。
いよいよ今年も厳冬期と言われる季節が始まったが、今季はどんな素晴らしい感動が待っているのだろうか…。
目まぐるしく変わる天候の中、輝く感動的な一瞬の出会いが、きっとこの真っ白な世界のどこかで待っていてくれることだろう。
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