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旨い飯を食いたい!
冬季の山行では、寒さに耐えつつ必要に迫られた食事が主流だったが、そろそろポカポカとした春の日差しを浴びながら、新緑に染まる山々の景色を眺め、美味しい昼食を食べたい。
そんな思いから選んだ山は、秋田市河辺にある岩谷山と筑紫森だ。
ユフォーレの奥にあるバーベキューハウス前の駐車場に車を停めて外に出ると、目の前には、ピンク色の桜と共に新緑に飾られ、春色に染まった岩谷山が間近に見える。
7時4分、建物の裏側にある登山道入口と記された標柱脇から岩谷山山頂へと歩みを進めた。
杉林を抜け、雑木林の中に続く山道を進む。
枯れ葉が積もった山道は、昨夜の雨のせいか非常に滑りやすく、もう8年間苦楽を共にしたトレッキングシューズでは、足下がツルツルと滑り、非常に歩きにくい。
怪我をする前にそろそろ買い替えようとは思うのだが、登山を始めてから最初に購入したこの靴には愛着があり、なかなか買い替えに踏み切ることができずに今日に至る。
山道脇にはオレンジ色のツツジの蕾が膨らんでおり、時折紫色の小さな花が目を楽しませてくれる。
スリップに気を付けながら、つづら折りに続く山道を登り続けると、7時28分、岩谷山山頂へと到着した。
山頂では、手作り感溢れる「岩谷山山頂 365.8m」と赤い文字で記された山名板が迎えてくれた。
山頂を囲む木々の隙間からは、太平山稜線の連なりが見えるが、残念ながら眺望は期待した程ではない。
記念撮影を済ませ、早速南側へと続く表参道へと歩みを進めると、少しして突然視界が開け、切り立った岩の上へと到着した。
この場所からの景色は素晴らしく、新緑を纏った山々の姿や下界の町並みが遥か遠くまで見渡すことができ、近くには気の利いたベンチが置かれている。
折角なので、今日始めて見る感動的な眺望を前に、足を止めスポーツドリンクで喉を潤した。
一息ついた後は、急な下り坂が続く山道へと周辺の木々に掴まりつつ下って行く。
しかし、使い古しのトレッキングシューズではやはり非常に滑りやすく、とうとう足を滑らせ、激しく転倒した。
幸い泥だらけになっただけで、大事には至らずに済んだが、買い替えを渋ったばかりに大怪我に繋がりかねない状況を痛感した。
ウェアの汚れを払い、今度は慎重に下って行くと、やがて景色は杉林へと変わり、杉林を抜けた先には古めかしいお社が現れた。
お社に手を合わせ、しだれ桜の先にある鳥居をくぐり、下って行くと、神様からのささやかなプレゼントだろうか…通路脇の高台にある桜からは、陽の光を浴びながらピンク色の花びらが頭上へとはらはらと舞い落ち、風もなく静かな参道に雅やかな雰囲気を醸し出している。
その心地好い参道を下ると、少しして目の前には真っ赤な鳥居が現れ、鳥居をくぐり抜けると、県道308号線のアスファルトの上へとたどり着いた。
そして、次の目的地の筑紫森山頂を目指し、舗装された道を東へと進んだ。
右手には三内川が流れ、道路脇には住宅が疎らに並んでおり、その庭先に植えられた春の花達が道路脇に彩りを添えている。
そして緑の草が生い茂った道路脇の田んぼの畦道には、沢山の黄色いタンポポが咲き、足元には土の中から出てきたばかりのツクシが並んでいる。
水色の空からは太陽の日差しが降り注ぎ、少し暑く感じる程だ。
暫く歩き続けると、右手には満開の大きな桜の木が現れ、その先を左に曲がり、林道へと進んだ。
少しして、視界の先に見える杉林の上には、ぽっこりとした筑紫森山頂の姿が見える。
更に進むと、8時22分、左手に筑紫森の案内板が現れ、山道へと歩みを進めた。
ややぬかるむ山道を進むと、裏参道との分岐点へと差し掛かった。
そこには天然記念物筑紫森と記された看板があり、表参道へと進んだ。
新緑で覆われた広葉樹の森に続く山道を進み、更に三十三観音巡りとの分岐点を直進することとしたが、ここからは見上げる程の急な岩場が続いている。
この白い岩は表面が非常に滑りやすく、スリップしたスパイクシューズの跡が無数に付いている。
使い古しのトレッキングシューズでは、少々不安だが、古めかしい鎖やロープには触れず、四肢を使い慎重に登って行く。
そして、「天狗の油こぼし」と記された標柱を過ぎると、少しして足元には細長い長方体の岩を横積みした様な岩場が続く。
これが、柱状節理と云われるものらしいのだが、相変わらず滑りやすく、気を抜けない上りが続く。
やがて頭上には小さなお社が現れ、8時50分、ウグイスの声が響く誰もいない筑紫森山頂へと到着した。
お社の裏には未だ雪が積もった太平山奥岳の姿を確認することができ、左手には先程登った岩谷山が見える。
そして右手には、エメラルドグリーンに輝く岩見ダム、振り向けば、水色の空には真っ白な雲が浮かび、新緑に彩られた山々が幾重にも連なり、遥か遠くまで続いている。
正に待ちわびた景色だ…。
お社に手を合わせ、記念撮影を済ませた後は、木の枝にザックを吊るし、早速持参した鮭のオムスビを口に頬張る。
途端に塩鮭の旨味と海苔の風味が口いっぱいに広がる。
旨い!
程よい疲れと、目の前に広がる絶景。
山頂を流れ行く優しい風。
そして、長閑なウグイスの鳴き声。
五感全てが満たされて行く。
水筒のお茶を片手に、美しい景色を眺めつつ2つのオムスビを食べ終え、食欲も満たされた後は、千本垂木と記された参道へと時計回りに下ってみることとした。
相変わらず滑りやすい急な参道を下って行くと、崖の上に突き出た岩の上で突然足下がスリップし、仰向けに転倒した。
何とか岩の上にとどまることができ、危うく崖下に転落するのを免れたが、やはり使い古しのトレッキングシューズでは、命に関わることを実感し、名残惜しいが、買い替えを決断することとした。
気を取り直し、頭上に覆い被さる様に迫る岩場の脇を下って行き、「天狗のすもう取り場」にて視界が開けた岩場より岩見ダムの方角を眺め、更に少し下ると、千本垂木の説明板があり、間も無く通行禁止のロープが張られていた。
先をみると、何とか行けそうなのだが…。
仕方なく今下ってきた参道を上り返し、「三十三観音巡り」と書かれた案内板より、反時計回りに下山することとした。
こちらの参道も急勾配が続き、気を抜けない状況だ。
木々の枝を掴みながら慎重に下っていくと、左手は高く覆い被さる様に続く岩場となり、その窪みには石で造られた観音像が数多く安置されており、古くからの信仰の山としての面影が偲ばれる。
やがて参道は、また分岐点へと差し掛かり、復路は裏参道を下ることとした。
明るく見通しのよい広葉樹が生い茂る林の中には、心地好い木漏れ日がキラキラと差し込み、その尾根上を軽快に下って行く。
暫くして参道入口にある案内板を通りすぎ、10時27分、県道308号線に再び合流した。
そして県道を西へと進み、往路では人の気配が感じられなかった集落は、今は活気を取り戻したかの様に機械の音や話し声など、人々の営みを感じられる。
やがて集落は終わり、見覚えのある岩谷山への表参道入口を通りすぎ、11時、ユフォーレ奥の出発地点へと無事に到着した。
さて、いよいよトレッキングシューズの買い替えにも踏ん切りがついたことだし、新たな旅を共にする相棒を探すとしようか…。
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