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8時、白神ライン上の砂子瀬ゲートが開門し、早速入山地点へと車を走らせる。
少しして県道から大沢川脇の林道へと入ると、前日の雨でぬかるんだ道には、林道脇の崖から落ちてきた石が転がっており、落石を避けながら進むと、時折小さな沢が道を横切り、アドベンチャームードが高まる。
暫くして入山地点の大沢川と西股沢との出合へと到着し、近くで山菜採りの準備をする数人の地元の方に今日の目的地である大黒森について尋ねるが、聞いたことが無いとの事だった。
不思議に思いながらも身支度を整え、8時40分、先ずは南側の藪の先に見える西股沢に架かる小さな橋へと向かい、橋の袂から西股沢へと入渓した。
ぬるぬるとした沢床の中を進むと、間も無くして大きな堰堤が現れ、左岸から巻き上がると、藪に覆われた踏み跡があったので、この踏み跡を辿ることとした。
左手の眼下に西股沢の流れを見ながら、胸の高さ程ある藪を掻き分け、暫く進むと、右手の数十メートルの高台から沢へと土砂崩れを起こしている現場へとたどり着いた。
辺りは、足下が見えない程の藪に覆われたザレ場となっており、足の置き場を間違えると、いとも簡単に10メートル程下を流れる沢へと足下が滑り始める為、ザレ場に沢山生えている頼り無いフキの根元等を掴みながらトラバースして行く。
緊張を強いられながら進むと、行く先には急な枯れ沢が横切っており、ホールドできる物が辺りに無い為、持参したロープをザレ場に露出している植物の根をアンカーにしてフィックスした。
ロープに体重を預け、足下がズルズルと滑り落ちながら恐る恐る枯れ沢を通過し、更にその先に続く藪を掻き分けながら進むと、10時34分、西股沢へと流れ込むオオクロモリノ沢へと到着した。
地形図を確認すると、この沢を詰めれば、目的地の大黒森山頂へと続く稜線の南側コルへと到達できる筈だ。
巨石の間をザーッ!という音を奏でながら流れる沢の様相は、なかなかの迫力だ。
さて、遡行記録が見当たらないこの沢には、どんな困難が待ち受けているのだろうか…ドリンクを片手に沢を見上げながら短い休憩を終えた後、早速遡行を開始した。
地形図が示す通り、沢は出だしからやや急な勾配となっており、頭上を見上げながらルートを見極め、四肢を使って登って行くが、しぶきにより既に全身ずぶ濡れだ。
赤い岩が特徴的なこの沢を暫く登ると、ぬめりが強くなってきたので、沢靴にチェーンスパイクを装着し、更に登って行くが、表面が滑らかな岩肌が多く、スパイクの利きが悪く、気が抜けない状況だ。
11時、視線の先には高さ7メートル程のしっかりと釜を構えた段瀑が立ち塞がり、空身では直登できそうもない為、左岸の木の枝を頼りに腕力で巻き上がった。
そして、その先の二俣を通り過ぎて遡行を続け、現在地を確認すると、どうやら少し前の二俣でルートを間違えたらしく、予定するルートから大きく外れている為、一度下ってルートを修正した。
暫く進むと、沢の斜度は幾分緩やかとなり、ブナの森にはキラキラと木漏れ日が差し込み、沢の中の苔むした岩を照らしている。
光が織り成す美しい白神山地の景色を前に、この場所でお昼にすることとした。
岩に腰掛け、サラサラと流れる冷たい沢の水に火照った足を浸しながら、いつもの鮭のおにぎりを口に頬張る。
人の痕跡が全く無い静かなこの場所で食べるおにぎりの味は、今日も最高だ。
美しい景色を前に、暫くこの場所に留まりたい気持ちも山々だが、今日は砂子瀬ゲートの開門時間や、ルートミスで時間もかなり押している為、空腹を満たした後は、早速また遡行を開始した。
進むほどに沢は細くなり、沢を塞ぐ倒木も増え、乗り越えながら進むと、高度764メートル付近で沢は枯れた。
そして、徐々に沢幅を狭める沢筋を進むと、稜線まであと数十メートルを残し、沢筋は斜度を一気に増し、やがて泥壁となった。
斜面に生える草の根元を鷲掴みにして、泥壁にキックで足場を形成しつつ登っていくが、体力の消耗が激しく、直ぐそこに見える稜線までなかなか到達できない。
そして稜線から枝を下げる灌木を強引に掴み、12時53分、漸く稜線上のコルへと這い上がる事に成功した。
稜線上はブナ林となっており、顔の高さ程の笹藪に覆われている。
後は、350メートル程北側にある山頂を目指し、この藪を漕ぐだけだ。
少し進むと、獣道だろうか…山道が無い筈の稜線上に、うっすらとした踏み跡があり、途切れつつも藪を掻き分けながら辿ると、13時13分、大黒森山頂へと到着した。
生憎辺りには笹藪が広がっており、眺望は殆んど無いが、苦労の末にこの場所に辿り着いた喜びは大きい。
そして、三角点を示す標石の脇で何気なく空を見上げると、緑の葉で覆われた空に伸びるブナの木の幹には、沢山の熊の爪痕が残されている事に気付いた。
山頂に立つこのブナの木は、きっと熊達のお気に入りの木なのだろう…この木に登って周囲の景色を眺めながら食べるブナの実はさぞかし旨いだろうなぁ…などと思いを巡らせつつ、空に向かって聳えるこの立派なブナの木を暫し眺めた。
そして記念撮影を終えた後は、熊達に見つからない内に、そっと大黒森山頂を後にした。
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