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ところで、1916年2月20日のGoat's diaryに、ゴート滝を「発見」したという記述が見られるので、この日の記録を紹介します。
Tram to Ashiya--the Ashiya Waterfall--followed stream for about one mile to another waterfall--stiff climb up a "chimney"--rope out--came out over west side of top of Black Mountain--crossed Arima Road--"discovered," the Yagi-no-taki, or the "Goats' Waterfall--the top fall is about 50 ft.--fine climb up a rubble slide to a ridge which eventually landed the goats on the Bellevue Road near Ramseger's house. Reached the Rock at 2.50 p.m. Back via Short Cut--Kasugano and Kumochi.
芦屋谷から黒山を経て有馬道を横切り、the Yagi-no-taki, or the Goats' Waterfall(ゴートの滝)を発見したようです。滝の高さは50フィートほどで、滝を越えるとRamseger's house(ラムジーガーの屋敷)傍のベルビュー道に出たと書かれています。ラムジーガーの屋敷がどこにあったか分かりませんが、文献にある明治末期の別荘分布図によれば、凌雲台辺りを東の端として別荘が分布している(注1)ので、この日のドーントらも凌雲台周辺に出たのではないかと想像できます。
一方、グラフからゴート滝の後の通過場所を見ると、Quary(石切場)とLonely ShrineまたはLonesome Shrineの尾根という場所があります。
Quary(石切場)と言えば、Quarry Road(石切道)が連想されます。ゴート滝通過後にQuaryが出てくる3つの記録(注2)を見たところ、うち2つにPrice's House(プライスの家)の傍を通過したとあります。プライスの家は石切道付近にあった別荘と考えられるので、石切道と関連すると考えられます。
The Ridge of the Lonely Shrine(ぽっり祠のある尾根)とthe Ridge of the Lonesome Shrine(ぽっつり祠の尾根)については、Shrineが何をさしているのか分からないので、特定することがむつかしいです。ただ、1917年3月25日の記録ではthe Ridge of the Lonesome Shrineを通過後、プライスの家近く(注3)、1918年1月6日には、ゴルフコースの13番ホール近くに出ています(注4)。13番ホールは神戸ゴルフ倶楽部の東北部分にあった(注5)ようなので、この尾根は凌雲台周辺の祠とそれに向う尾根をさしているのではないかと考えられます。
これらの素材からゴート滝があった谷筋を想像すると、現在の五助谷、あるいは西滝ヶ谷とその上部の水晶谷のいずれかの谷筋ではないかかと想像されます。現存する滝にあてはめると五助谷の五助滝、水晶谷の水晶大滝がゴート滝の候補にふさわしいのではないかと思います。
ドーントらの時代から少し下りますが、1932年に出版された「近畿の山と谷 : 時間記録と費用概算」の付図(注6)に五助谷と滝谷があり、滝谷が現在の西滝ヶ谷、水晶谷に相当するようです。
この文献の五助谷に関する説明として、吾助橋から谷通しを遡行し、十町程奥に高さ五丈位のかなり立派な瀑の下に出るとしたのち、"名は知らぬが多分吾助爆とでも云ふのか"、"向かって右側の岩を攀ぢ瀑の上に出ると暗い程木の茂った幽谷となる"と続き、"縦走路に達する迄約一時間は深いヤブを漕がなければならない"とされています(注7)。付図に示された滝の位置とあわせて、吾助爆が現在の五助滝にあたる可能性があるように思えます。
一方、滝谷については、五助橋を過ぎ四五町登った高原地から谷を見下ろす山腹を進み、流れに合したのち、"高さ五六丈ある瀑の上を越して石切場跡を通り次第に登りが急となる"と描写されていて、最終的にバンジョヤ畑という縦走路の草地に出るとされています(注8)。付図に示された滝の位置とあわせて、この高さ五六丈ある瀑が水晶大滝にあたるように思えます。
文献の滝が現存する滝に対応することを前提の想像ですが、Goat's diaryの記述では、ゴート滝通過後比較的短時間で縦走路に出た印象を受けるので、水晶大滝の方がゴート滝にふさわしいのかなとも思います。また、Inaka vol. 4に掲載された"The Goats’ Waterfall"の写真も水晶大滝に似ている感じがします。ただ、なにぶん現地に足を踏み入れたことがないので、自信のほどはありませんが。
注1: 上垣智弘、安島博幸「六甲山における外国人別荘地の成立と展開」(都市計画論文集 25 1990.10 p313-318)
注2: 1916年2月27日、1916年3月21日、1917年3月25日の3例。
注3: Tram to Uozaki, Bellevue Road, The Goats' Waterfall, The Ridge of the Lonesome Shrine, came out on Rokko above Quarry near Capt. Price's house. / Home via Agony Column, Mayasan and Kumochi.
注4: 8.27 a.m. train to Sumiyoshi. / Bellevue Road--The Goats' Waterfall--The White traverse--The Ridge of the Lonesome Shrine--Came out near 13th hole on Golf Course--Warren went mushroom snatching on his own and came out near 16th hole--Rock 1 p.m. Temp. 35°F. Home via Short Cut and Ishiyagawa.
注5: 神戸ゴルフ倶楽部「コースレイアウトの変遷」(神戸ゴルフ倶楽部100年の歩み 2003 p144)
注6: http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1240988/226
注7: http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1240988/75
注8: http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1240988/74
[修正履歴]
2015年1月20日: Ramserger's houseをRamseger's houseに修正(2箇所)。
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