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2020年06月02日 22:48老人と山全体に公開

高尾山の天狗を見たことがある

先週末、久しぶりに高尾駅から陣馬高原下行きのバスに乗った。
ノンストップのまま「夕焼け小焼け」の次に「関場」バス停を通り過ぎた。
ちらりと目にした分かれ道にある商店は閉まったまま、あたりに人気はない。
当時と同じ雰囲気だ。その時の出来事を思い出しながら、なんとなくそう感じた。

その時は、市道山を目指して、ひとり関場で下車した。薄暗い店内でお菓子を買ってから、バス通りとは別の舗装道を歩き始め、醍醐の集落を過ぎてかなり先の方で右の林道へ入った。この林道の途中で左に入る登山道の入口がある筈だった。

しかし、それと気付かないうちに林道終点に着いてしまった。そこは車の切返し場所らしくちょっとした広場になっているのだが、その先をいくら探しても山道らしきものは発見できない。草むらだけ。地図を眺めたら、どうも登山道の入口を見落としたらしいことがわかった。

その頃の自分には、引き返すという発想はなかった。とにかく前に進むこと、困ったからといって後退はあり得なかった。登山とはそういうものだと思い込んでいたようだ。

そこで地図と睨めっこをして、市道山はこの地点の北西方向に位置するから、その方向へ進めばよいのだと考えた。周りの地形を観察すると、直進方向は谷底の暗い森になっていて気味が悪い、左側は下からの尾根がずーっと上まで続いており、その尾根に乗って上へ登ればいいのではないか、ひょっとしたらその尾根の上が登山道かもしれないなどと甘く考え、尾根上への急斜面をずるずる転げ落ちるのをどうにか堪えて樹につかまったりしながら必死に這い上がった。

尾根にたどり着いたら、登山道こそなかったが、樹木は密集しておらず空間がゆったりし、地面はブッシュもなく草がまだらに生えている程度で、歩くのになんら支障はない。この尾根をどこまでも登ってゆけば、いずれ陣馬山から市道山へ通ずる登山道に合流する筈、あるいはトッキリ場から市道山への登山道に合流する筈、そう信じて黙々と足を運んだ。

こんな森の中、もちろん自分以外に誰も居ない。一人ぼっちだ、考えると少々心細い、だけど、まあ、距離はそう長くないから、・・・

と、いきなり、ゴーッとものすごい轟音、上方から凄まじく響いてくる。ざーっと空気が震えた。わあ、自分に迫ってくる、すわっ何事!、顔を上げたら黒い物体がすぐ頭上に、自分目掛けて襲ってくる、キャー、咄嗟に首を引っ込め身を沈めた。間一髪とはこのことか、物体は一陣の風を残して下方へ過ぎ去った。帽子が吹っ飛んだ。急いで後ろを振り向いたら、けた外れに大きな鳥が、翼を一杯に広げて一直線に急降下していった。とにかくスピードがとんでもなく速い。それに美しい、あっという間に見えなくなった。この森の中で木々にぶつからないでなぜ飛べるのだろう。鳥だったのだろうか。

ああ、難を逃れてよかったと胸を撫でおろし、とんだ森に迷いこんだものだ、用心しなければと思いながら登り続け、やがて遠くの稜線上に待望の登山者の姿を目にしたときは、やれ現実の世界に戻れたかと心から安堵感に包まれた。

あれは天狗だ。高尾山の天狗だ。不埒な人間が、登山道でもない森の中にずかずか入りこんだので懲らしめようと姿を現したのだ。あの一瞬の現れかた、神々しいまでに美しい飛翔、森の空気を震わす轟音、単なる鳥の仕業とは思えない。高尾山にはやはり天狗がいたのだ。

2007年3月、まだ若かった68才のときの出来事、いまでも奥高尾を歩くたびに神秘的に思い出します。
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