|
朝、ゆっくり家を出て角を曲がったら、少し先の方に幼子が母親に手を引かれて、よちよち歩いていました。もう片方の手は上に挙げ、その小さな腕に布のバッグを下げています。可愛いぬいぐるみでも入っているのでしょうか。両手を挙げ、おぼつかない足で一生懸命歩く姿はなんとも微笑ましく、心が洗われるようです。今日の山行きが楽しくなってきました。
すぐに道は石段に差し掛かりました。母親に抱っこされるかと思いきや、そのまま頑張って石段を下り始めました。30段近くある緩やかな石段です。幼子は小さな足で一段下りるごとに次の石段に挑戦し、母親はそんなわが子の手を握りしめ、嬉しそうに見守っています。白い帽子をかぶり、母子ともそこはかとなく上品な雰囲気を漂わせ本当に幸せそうです。
その母子の後から石段に差し掛かった私は、邪魔をしないよう中央に設置された手すりの反対側の石段を下りようとしました。しかし、そちらの側の石段には下から上がってくるお年寄りご夫婦の姿があり、そのまま下ることが困難です。それで母子の石段側に戻り、石段の端に設けられた自転車を転がすための細い斜面を下り始めました。
上がってくる御夫人は、左手でしっかり手すりを掴み右手で杖を立て、石段を一段上がることに全精力を使っています。ようやく一段上ると何とか次の一段へと向かいます。その後ろには穏やかなご主人が布袋を手に付き添っています。水や応急用品などが入っているのでしょう。お二人ともずいぶんご高齢なので、最初は病後のリハビリかと思いましたが、そうではなくて、お顔やお身体のご様子から察するに老齢による身体の衰えと懸命に戦っているのではと感じました。心の中では北アルプスを歩いていた頃の自分を思い浮かべていたのかもしれません。今では寝たきりになるのを避けるためこうして日々努力されておられるのでしょう。
石段の途中ですれ違う際、母子、ご夫婦、私、の3組が丁度横一線に並びました。これは偶然そうなっただけのことですが、私は、このことに何かしら不思議な暗示を受けたような感覚にとらわれました。幼子と老人、対極にある2組が石段に挑戦しながらすれ違う、その延長線上に自分が居合わせた。
山へ向かう中央線の電車の中で、この時の偶然の出来事をしきりに思い返しました。
両手を天高く挙げた幼子と手すりや杖にすがり必死に上る老人
伸びゆく生と滅びゆく生
喜びと哀しみ
最高に幸せなときの家族と晩年なっての夫婦の姿・・・
今から振り返ると、人生は一瞬です。
歩きましょう、ただひたすらに歩きましょう。
幼子のように両手を天高く挙げて
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する