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2020年08月10日 18:01老人と山全体に公開

老人は曖昧な記憶に頼ってはいけない

以前歩いた山を、それから大分経ってからまた歩くと、「はて、こんなだったかしら」と記憶の曖昧さに驚くことがあります。楽しかった記憶は残っていても、辛い記憶はぼやけてしまっているものです。いや、辛い記憶が楽しい思い出に変わっているのかもしれません。

先月末の日記に書いた「石尾根の未踏部分」へは、すぐに出掛けるつもりでいたのですが、奥多摩地方の天気予報が雨模様ばかりで、その上雷マークまで付いていたので延び延びになっていました。雨はともかく雷は怖いので尾根歩きなどとても無理です。

一昨年の夏、石尾根が不気味な閃光に照らされてドカンドカンと雷を落とされる様子を小菅近くの山中で同じく雷雨に襲われながら、恐怖に震えて眺めたときの経験は忘れることができません。

天気予報からようやく雷マークが消えたので、一昨日、出掛けました。
コースは、峰谷バス停〜鷹ノ巣山避難小屋〜巻き道を東進して途中から未踏の尾根道(水根山・城山・カラ沢の頭)〜六つ石山〜奥多摩湖です。尾根道が今日の目的地です。

未踏の尾根道以外は、7年前までに何度か歩いているので、当時のイメージが残っており、浅間尾根はやや苦労、六つ石山からの下りは楽勝、という予想をたてました。しかし、現実は大分違った経緯を辿りました。

まず、浅間尾根登山口の位置が別の場所に移動しており、様相も記憶と全く違っていたので、これを見つけるまで不安に駆られました。バス停からの1時間の歩き疲れがどっと出ました。新しい登山口は、立派な舗装道路に雲取山のそれに似た形で取り付けられ、そこから少し入った場所に旧登山口の面影が残っていました。出だしからつまずきました。

あの時は、人のよさそうなベテラン・初心者の2人組が居合わせて、登山口を同時に出発したのを覚えています。「ここは頂上まで3時間で登れば一人前なんだよ」、今でもベテランの声が聞こえます。

浅間尾根の登山道は記憶と大分イメージが違っていて、こんな筈では、と記憶の不確かさに自信喪失心です。尾根道を歩いた記憶は全くなかったので、尾根上に広大なシイタケ栽培地を目にしたときはひょっとして道間違えをしたかと不安になってきました。落ち着きがなくなり、歩行に精神が集中できないと疲労が倍加します。まだかまだかとうんざりした頃ようやく水場に到着し、冷たい水で生き返り、12時50分避難小屋到着です。4時間10分、今の自分の体力ではこんなものでしょう。

鷹ノ巣山避難小屋で昼食をとった後は巻き道を進み、あっさり尾根へ入る分岐点に到着しました。さあ、これから未踏部分を歩くのだ、わくわくして自然と精神が高揚します。熱い身体が濃い霧に包まれ微風で適度に冷やされるので熱中症の心配もなく快調に飛ばしました。この尾根道は巨大なブナ林が多くとても素敵で、雰囲気がよくて疲れを忘れさせてくれます。ルート上のピークはすべて踏みながら進んだのですが、水根山・城山は気付かないうちに通り過ぎたようです。いつの間にか「カラ沢の頭」に着いていました。ここは標識が下がっていたのでわかりました。ここから合流地点へ向かう下り道が足場の悪い急傾斜でとても危険でした。こうゆう道は高齢者泣かせです。

六つ石山・奥多摩駅の分岐に差し掛かってビックリです。六つ石山入口が大きな枝で塞がれていました。山ではよく見かける「ここは通行しないほうがいいよ」という合図です。「あれー、これはないな、話が違うよ、進めないのかなあ」戸惑うばかりです。ここから奥多摩駅へ向かう道は、後半の森林へ入ってからが嫌なので歩きたくありません。しばらく思案した末、「待てよ、これは通行禁止のロープでないし、ビジターセンターのページには、水根から六つ石山へのルートはOKと書いてあったような気がするし・・・」、など考えて、思い切ってその枝を越えました。

心の中では、もしかなり下った地点で通行不能の箇所に行き当たった場合のことが心配でした。引き返すにしてもその時点では急斜面を登り返す体力はもう残っていないだろうし、また登り返すことができて無事この分岐へ戻れたとしても奥多摩駅へ向かう途中で暗くなり、疲労の余り倒れてしまう恐れが多い。「うーむ、・・・うーむ・・・」、六つ石山の頂上までの間そのことばかり考えました。引き返すのが嫌で強行下山しようと森の中に入り遭難してしまう、高齢者が山で遭難、そんな報道が頭にちらつきます。引き返すなら今のうちだ。六つ石山頂上から向こうはどんどん下って行くだけ、しかも急坂の連続だ、「えい、構うものか、行くだけ行こう、本当に通行不能ならロープか標識くらい設置してあっただろう」、管理者のあいまいなサインを恨みます。

奥多摩湖・六つ石山ルートは、7年前にトレーニングと称して何度も上り下りしていたのでよく記憶していたつもりでしたが、今回はその記憶とは様相がまるで違っていました。このコースは、トオノクボから上に広々とした草原が広がり、その中に細い山道が遠くまで続いて、まわりの光景を眺めながら歩くのが本当に気持ちよかったのですが、今回はやたら大きい夏草が辺り一面を覆い、むんむんします。それに背の高い枯れかかった黄色い花が集団で蠢いて不気味です。霧が立ち込め見通しもありません。楽しみにしていたコースを逃げるように下りました。

私の好きだったトオノクボも以前の牧歌的な面影がありません。水根から急坂を登ってきて、やれやれ、と腰を下ろしてゆっくり休憩したところです。上下に続く広々とした草原、向い側の山並み、気持ちの良い風景にうっとりしながら、もう苦しいトレーニングはここで終わり、ここから頂上までは楽しい散歩だ、とすがすがしい思いに浸った場所です。そのとき必ず古い横木に腰を下ろしお菓子を食べたものですが、その横木はなくなっていました。朽ち果てたのでしょう。今のトオノクボは、ただの曲がり角になったかと少し佇んで当時を懐かしみ、長居せずに先を急ぎました。もう4時近いです。

それからが本当に大変でした。急坂であることは十分承知していましたが、これ程とは思ってもいませんでした。すでに脚は棒のように固くなって痛みに襲われ、踏ん張りが効きません。それなのに足場の悪い激下りが延々と続きます。これ、話が違う、と何度も心の中で毒づきながら、とにかく転倒したら大変とそろりそろりと足を下ろします。こんな調子では何時になったら下山できるか見当もつきません。

ようやく再会を楽しみにしていた「風の神土」に到着しました。いつも心がほっとする場所です。お賽銭をあげ、ここまでの無事を感謝し一息入れました。ようやく昔を懐かしめる場所に会え、心が癒されます。ぼんやりとして、ここと大倉尾根を毎週交互に登った当時の思い出に浸りました。精神的に少し楽になりました。

登山道の周辺一帯が伐採作業中です。以前は鬱蒼とした森林のため昼でも暗かったのですが、今では間伐が徹底的に行われ、明るい空間に代わっていました。登山道は、広大な作業現場の真中を歩くようになっています。ああ、だから六つ石山の入口に木の枝が横たえられていたのか、注意報の意味か、それならそれと一言書いておいてくれればいいのにと登山者を惑わせる管理者に突っ込みを入れてみます。

脚の痛みだけでなく、反り返ったつま先が靴の中で悲鳴を上げ始めました。お気に入りのアゾロでは初めてのこと、痛さの余り数歩歩いては立ち止まりを繰り返し、泣き泣き水根の民家横の急坂を過ぎ、平坦地へ降り立った時は本当にほっとしました。そしてあのくねーと曲がった車道をふらふら歩きながら何とか奥多摩湖バス停に着くことができました。丁度6時、本当に疲れた、もう沢山、これ以上は歩きたくない。

(感想)
尾根筋が霧で覆われ身体を冷やしてくれなかったら、体力が続かず、下山途中に熱中症のため遭難していたかもしれません。このルートは、もっと時期を遅らせるべきでした。六つ石山の草原風景も夏場と冬場では全く異なるのでしょう。

浅間尾根も六つ石山も、自分の中では楽しい思い出しか残っていませんでした。しかし、当時も苦しいことはあった筈で、ただその苦しみが、年月が経つうちに楽しかった記憶に変わっていったのでしょう。若い頃の記憶に頼ってはいけないです。今はもう年を取り過ぎていることを忘れてはいけないです。

ただ、疲労困憊したけれども、今回は充実感があってよかったです。以前の日記に書いた「センチメンタル・ハイキング」高畑山・倉岳山編とは内容が違います。あの時は、ただ疲労と失望のみが残りましたが、今回は目的達成感を得られました。老人にとってこれは大事なことです。「認知行動療法」、新しい目標を定めこれを達成すること、認知症の予防に非常に効果的らしいです。あれこれどこへ行こうか考える、ルートや状況を検討する、ザックの中身を準備する、そし山を登ったり下ったり脚を鍛える、身体にいいのは勿論、頭のリフレッシュ、心の解放にも繋がって高齢者にはこの上ない健康法です。コロナが怖くて山がどうのこうのなんて、怯えてばかりいてはいけません。

写真1 石尾根のブナ林
写真2 カラ沢の頭
写真3 風の神土
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