私と百名山 ４．魚沼駒ケ岳（２００３ｍ） （初登山日：1963年7月12日）

　大学入学後、山に関係するクラブに入りたくて、当時人気の有ったワンダーフォーゲル部に入部した。実は私の入部前年の10月14日に山岳部1人、ワンゲル部1人、ヨット部1人の1年生3人が部に不届けで八海山〜中岳〜駒ケ岳（魚沼三山）縦走の個人山行を行い、吹雪により駒ケ岳山頂付近で2人が遭難死する事故が発生していた。
　1人は駒ヶ岳頂上が判らずに通り過ぎて駒の小屋を発見できず、暗くなり寝袋にもぐり込み、翌日、駒の小屋に居たパーティに発見救出された。残り2人はコースから外れ、9合目岩稜下１５０ｍの地点で捜索隊により死体で5日後に発見された。
　雪で視界の利かない中、なぜ、14:30に通過した中岳避難小屋（今はりっぱな小屋になっているそうだが当時はカマボコ型の10人程度入れる貧弱な小屋があった）に泊らなかったのか？　届け出していれば先輩からルートの注意点、アドバイスをもらえたのになぜ、事前に部に届け出しなかったのか？　遭難後にはいろいろと議論されたようであるが、私は山においていかに適切な判断が重要か、間違った判断が死に直結する事の怖さを、本格的な最初の山で教えられた。私の長い登山人生において、いつも最悪のことを考えて、簡単な日帰り山行でも万が一のビバークで死なないための装備、食料を必ず持参するようにしているのはこの経験によるところが大きい。
　山岳部、ワンゲル部で駒ケ岳頂上から駒の小屋に下る分岐点に、慰霊碑を兼ねた道標を設置することになった。1年生の私は荷揚げ要員として駆り出されて、始めて本格的な山らしい山の魚沼駒ケ岳に登った。大湯温泉からベーステントのある新枝折峠まで5時間かけて歩き、翌日、荷揚げを行った。駒の小屋までの５０ｋｇのセメント袋や食料の荷揚げは新入部員の私には苦しく、先輩の跡をついていくのが精いっぱいで、山を楽しむ余裕は無かった。しかし駒の小屋に着き雪渓の脇のお花畑でニッコウキスゲ等の高山植物を始めて見たときは感動し、余計に山が好きになった。
　翌日、慰霊碑は完成し、翌々日に遺族の方達と除幕式を行ったが、遺族を初め皆さんの涙を見ながら、絶対に山では死んではいけないと自分に言い聞かせた。
　深田久弥は「日本百名山」の中で魚沼駒ケ岳の記述は魚沼三山（越後三山）について書いており、特に八海山についての記述が多いことから三山を合わせて百名山の１ツと考え、魚沼駒ケ岳を代表として名前を挙げたものと考えられる。私も信仰の山「八海山」、最高峰の「中岳」にも登ったがやはり駒ケ岳が三山の代表にふさわしいと思っている。
魚沼駒ケ岳は私に山での死について真剣に考えさせ、その後の山行に大きな影響を与えた、山における私の心の故郷である。

写真：駒ケ岳には４回登っているがカメラを持っていなかった時代なので写真はなく、唯一残っているのがこの
　　　写真である。
　　　　これは秋雨の駒ケ岳山頂での写真であるが当時の雨具は冬以外はポンチョが主流であった。

コメント

kenpapa

ポンチョですか
こんにちは。

ヒデさんが登られた百名山にはたくさんの思い出が残されているんですねぇ。

通気性にすぐれたゴアテックスの登場まではポンチョや傘をさしての山歩きが普通でしたね。

昔に比べたら装備は格段に進化して、全ての面で楽になりました。

山に限らず暮らしが便利で豊かになったのは良いのですが、反面「若い時の苦労は買ってでもしろ」なんて言葉が死語になってしまい・・・・将来の日本に危機感を覚えている賢パパです。

fujinohide

装備の進化
私は装備や服装にこだわるほうでは無いですが山に登り始めの頃のことを考えると科学に進歩の有難味を感じますネ。
昔は町の古下着や古背広で山を歩いていましたが今は、吸湿・速乾・発熱のアンダーウエアー、上は通気性、保温性の良いシャツ。
装備以外にも山へのアプローチもものすごく楽になりましたので登山ブームも頷けます。

今の若い人は我々が経験していない就活、婚活など別の苦労をしていますから、苦労はそれで良いのではないでしょうか？

shiremono

RE: 私と百名山 ４．魚沼駒ケ岳（２００３ｍ） （初登山日：1963年7月12日）
こんにちは

今日たまたまこの「百名山」シリーズを見つけて、自分も登ったことのあるいくつかの山についての記事を興味深く拝読しております。

去年今年と魚沼駒ヶ岳に登ったとき、分岐点の写真を撮りました。道標は朽ちるたびに新しいものが設置されているようですが、そこにセメントの古い土台があることに気がつきました。それがひょっとすると1963年のセメントかもしれないと思ってドキドキしたのですが、写真をご覧になっていかがでしょう。

駒ノ小屋に下りる分岐点の標識
2013年　http://kie.nu/2835
2014年　http://kie.nu/2839

fujinohide

RE: 私と百名山 ４．魚沼駒ケ岳（２００３ｍ） （初登山日：1963年7月12日）
shiremonoさん、拙文の日記を読んでいただきありがとう御座います。
精力的に上越の山を歩かれており、記録を拝見して懐かしくなりました。
特に、昔、私のバイブルだった藤島玄さんの名前が出てきてびっくりしました。
駒ヶ岳山頂の道標の写真は間違いなく私たちが設置した道標に基礎部分だと思います。
この上にもう少し石を積み重ねて道標を建てた記憶がありますが完全な基礎部分だけしか残っていないんですネ。
駒ヶ岳のずっと登っていないので山の終活前には再訪したいと考えています。