北海道に入ってから9日目、羅臼のユースホステルで目が覚めると雨が降っている。この日予定していた羅臼岳登山は翌日、ウトロ登山口から登る事に変更。羅臼発12時の船で知床半島を回りウトロに行くことにして、眠りなおす。9時近くに起きると空が明るくなってきたので急遽、予定を当初計画に戻し、9時すぎに小雨の中、傘をさしながらユースホステルを出発。羅臼温泉登山口に向かいながら、雨が止まないため登山を中止したい気持になるが、迷っているうちに登山口に着いてしまう。もう、行くしかない。
ポンチョをかぶり、傘をさしながら歩いていると、その年の夏合宿で雨に悩まされたことが思いだされ、この年は雨とは縁が切れないとあきらめることができた。逆に雨を楽しんでやろうと考えるようになり、気分的にも落ち着いて楽になる。里見台では雨が降っているが、遠くまで視界が利き、羅臼の町はもちろん、国後島がよく見え、海に島影が映っていた。
地図の泊場付近は沢の底が硫黄で、赤とも黄色とも白とも言えないような不気味な色をしていて気持が悪い。ここで動揺したのか道を間違えて、背丈より高いササの中に迷い込む。熊が出てきそうでビクビクしながら30分程度、悪戦苦闘するが道が分からず、雨露でビショぬれになりながら元の泊場に引き返した。気持ちを落ち着かせるために昼食を取り、一休みしてから再度、道を探し無事に道を発見。
悪戦苦闘した疲れからか、屏風岩付近から少し足が重くなる。しかし雪渓の上に新しい熊の足跡と思われるものを見つけ、恐ろしくなりバテた身体にむち打って急いで羅臼平に。この時は雨が止んで青空が広がってきていた。
羅臼岳頂上へは15分。頂上からは、深田久弥はガスで見ることのできなかった展望が私の前に開けた。知床半島の太平洋とオホーツク海の両側の美しい海岸線、国後島が目の前に見え、野付半島までの海岸線もくっきりと見える。硫黄岳、斜里岳、阿寒の山並み、足元には知床五湖、羅臼湖が光っている。小雨の中を決行した結果、本当に素晴しい御褒美を自然から貰った私は、たった一人の頂上を誰に遠慮することなく楽しむことができた。
岩尾別温泉に意気揚々と下山し、ウトロのユースホステルに着いたのは18時近かった。夕暮れに森繁久弥が歌「知床旅情」を作ったときに上ったと言われる海岸の大きな岩に上がり、絵のようなウトロの海岸線と時々刻々と変わる海の色を見ながら感傷的になり「知床旅情」を一人で口ずさんだりした。
知床半島も世界遺産に登録され、近年多くの観光客が訪れ、自然破壊まで心配されているようであるが、このときの羅臼岳登山は最初から最後まで人に会うことなく、単独行の私だけを迎えてくれたような気がする素晴しい山であった。
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日記
私と百名山 16.羅臼岳(1661m) (登山日:1965年8月20日)
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