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といっても事故ではない。アンザイレン(ロープで繋がる)してのトラブル談である。
以前、厳冬期に赤岳雪山のツアーに参加した。当時初級クラスの雪山からのステップアップを考えていたのだが、いざ本格的なところに行くとなると自分達で行けるかどうか判断がつかない。どんな感じなのか体験するために参加したのだ。
当日は天気が良くなかったものの、無事登頂は成功し、みんなで手を取り合って喜んだ。その後、下山を開始したのだが、帰路の途中で、その日の最大の難所「ナイフリッジ」が待ち構えていた。
長さ20-30mくらいの雪稜で、その側面の60度以上の斜面をトラバース(横移動)する。下を見るとかなりの急で、滑落したらすぐに加速し、岩にぶつかって確実に死ぬだろうことが想像でき、かなり怖い。
その時はガイドさん1名+参加者3名の小パーティーにわかれ、アンザイレンしていた。トレースもできて足場もしっかりしており、見た目とは裏腹に注意して渡ればさほど危険ではないはずなのだか・・・。
ナイフリッジの半分を超えたあたりだった。真ん中の人が何故か足を滑らせて滑落した。
もちろんガイドさんが支点にロープをつないでいるため、最悪の事態にはならないのだが、滑落を止めるなんてやったことはない。しかもよりによってナイフリッジでぶっつけ本番だ。無我夢中で衝撃に備えた。
刺していたピッケルを頂点に両足を二等辺三角形になるようにバランスをとる。脇を閉めてピッケルに両手でしがみつく、そして背を伸ばす。
これが正しい姿勢かどうか知らないが、理にかなっているような気がするので不思議である。
「来るぞ!来るぞ!来るぞ!」時間が長く感じられた。ピッケルを穴が空くほど見つめ、歯を食いしばる。そうする必要は全くなかったような気もするが、もはやリキむ以外なかったのである。
突然身体がガクンと下に引っ張られて足場が崩れ、20cmほど引きずり降ろされた。ただそれ以上は何も起こらなかった。
怖々と顔を回転させるとガイドさんと目が合った。苦笑いしていた。「たまにあるんだよー」と無言で言っているようだった。
下を見ると落ちた人は5mほど下にいた。ガイドさんが上がってこれますかと聞くと、コクリと頷き、上がってきた。
直接原因は聞かなかったのだが、おそらくアイゼンワークが完全でなかったか、疲労で足元に注意が行きとどいてなかったのではないかと推測している。小さいゴーグルを付けてらっしゃったのでひょっとしたら凍って、視界が悪くなっていた可能性もある。
「雪山ではほんのチョットのミスであっけなく滑落してしまう」と言われてもなかなかピンとこないが、流石にこんな体験をすると細胞のDNAまでしっかり刻み込まれた。
別に自分が落ちたわけはないが、自分のスキルを考えると100%大丈夫とも思えない。こりゃ、ちゃんと習わないとダメだと思い、その後、実技の雪山講習会を受けた。
参加者の中には「何百メートルも縦方向に回転しながら滑落したので受講しに来たんです。」という人もいてびっくり。表に出てないだけで、実は想像以上のニアミスがあるのかもしれない。
今でもその時の記憶は鮮明に覚えている。楽しいこともあれば、そうでないこともあるのが登山だが、そんな一幕のお話し。
自分の中では雪山の計画を立てるときの判断に対し、大きく影響を与えた、貴重な経験となっている。
※特にこれから本格的な雪山を始めようとされる方の参考となれば幸いです。
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