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秋に北岳に行った時、広河原行きのバスにインド人の青年達が同乗していた。彼らはの姿は町着だが、いったいどこに行くのだろう?そう思っていると、車掌さんに驚くべき質問をする。
『北岳ノ山頂マデ、コノバスハ行キマスカ?』
ーー
「山頂までバス行かねーよ!」
乗客一同、心の中で大合唱したことは間違いない。
そして。注目は質問を受けた車掌さんの回答であったが、それは極めてシンプルであった。
「バス、北岳、いかない!!Walking!!Walking!!」
もはやザックと登山客でカオスと化した車内切符の販売の格闘でせいっぱいという感じで相手にするどころではない。
すると、これはまずいと思ったのか?、彼らに興味を持ったのか?、近くにいたガイドさん風の人が、北岳について親切に教え始めた。標高はどれくらいで、歩くのにどれくらい時間がかかって・・・
そして肝心な部分。彼等が行そうかどうかについては・・・
『It's a little tough』=ちょっと大変。
あれ?
もし外国人じゃなくて日本人だったら、絶対乗客から「そんなカッコで登るところじゃないよ!残念だけどやめたほうがいい」と言われるところであろう。
ただ、相手の気持ちを傷つけずに相手諭すようなニュアンスの高度な英会話をするのはなかなか難しい。自分なら、ついDifficult とかGo Back とか、ダイレクトでキツイ英語が飛び出してきそうである。
まあ気持ち的には「バカタレ!」と言いたいところなのでたとえキツイ言葉がでてきてもしょうがないのだが・・・
広河原に着くと彼等は、ビジターセンターに消えて行った。おそらく「そんなカッコじゃ登れないよ」とセンターの係員に言われるのがおちであろう。
残念だが広河原の山荘に止まって帰るしかない。広河原には観光するようなところがないのである。
「ちょっと不憫だな〜」
と思いつつ、僕らは宿泊予定地の白根御池小屋に向けて出発した。
その日は連休で天気も良く、テント場は大変混雑していた。到着したのは夕方だったので、テントを張る場所は皆無に等しい。しょうがないので、テントサイトの端っこ、通路傍にテントを張ることにした。
そしてテントを立てていると、後ろから
「ヒュー♬」
という口笛が聞こえた。
「まさか!?」
そう思って振り返ると
そう、ヤツらが上がってきたのである。
((((;゚Д゚)))))))
「山頂までマジで行く気か?こやつらは!」
普通に考えれば、パーフェクトなNGだ。ただ、ちょっと考えると、あながち無謀でもないとも言える。北岳の草すべりのルートには「体力さえあればなんとかなる系」のルートだからだ。
天気はすこぶる良い。しかもこれだけの大混雑なので、ぞろぞろと登る人についていけば、まず道に迷うこともないだろう。岩場をちゃんとした登山靴で歩かなければ"ちょっと足が痛い"かもしれないが、インドじゃ裸足の人が多かったから大丈夫かな・・・というのはさすがに偏見か?
「登ってくるな〜こりゃ。」
という予感がした。
そういえば自分も昔、アンナプルナを見にネパールのポカラに行った時、旅の格好そのままに麓をハイキングしたことがある。カトマンズの宿の人と仲良くなって一緒に行ったのだが、行き当たりバッタリで地元の羊飼いとかに道を聞きながら、展望台となる山小屋まで(と言っても北岳ほどではないけど)登って行った。
「あんまし人のことも言えないかも(汗)」
日が傾いてくると、彼らは小屋に消えていった。我々は我々で小屋のベンチで、夕ごはんのスキヤキを作りはじめた。
小屋のテラスで炊事をしていたのだが、そこからは我が家のテントの様子がよく見える。
テントを張ったのが端っこすぎたのがまずかったか、なぜか我が家はガキンチョの遊び場と化していた。テントの周りで追いかけっこしているのである・・・
「ああ・・・張り綱に引っかかる・・・引っかかる・・・」
と思っていたら案の定、"見事に足を引っ掛け"ペグを引っこ抜いた。あたりを伺い、申し訳なさそうに"適当"にペグを刺しすと、逃げるように去っていった。
「いやいや、君たちの犯した罪は一部始終見ていたよ・・・・。」
ガキンチョが去ると今度はインドの青年たちの番であった。物珍しいのか、我々のテントをバックに、笑顔でポーズを取り、代わる代わる写真を撮り始めた。
「もう好きにしてください!」
翌日は登山日和。青空の下、北岳の山頂に難なく立てた。山頂は登山客で賑わっており、僕らもコーヒーを飲みながら、のんびり景色を眺めていた。
そしてインドの若者たちも、ちゃっかり、山頂に到着。まぁ予想通りの展開である。
ただ、ちょっと様子がおかしい・・・
小屋で見たような元気もなく、お互いの会話もない。それぞれバラバラに立ち、寒そうにしていた。
・・・楽しくなさそう・・・
山頂にはついた。目的は達成された。でも、きっと何か足りないのだろう。
山に登るときの楽しみって、案外その過程にたくさん詰まっていたりする。景色であったり、仲間とわいわいと登ることであったり、道中の花であったり・・・頂上に達することだけを目的としてしまうと、案外楽しめないものだ。
言葉の不自由な国で、しかも準備や装備の不足に、彼ら的にも想定外の行程。まわりの登山者もあまりの無謀さに歓迎はしなかっただろう。
いくら若さとバイタリティのある彼らであっても、もはや精神的に楽しむ余裕がなくなってしまい、ただ頂を目指すだけの奴隷と化してしまったのではないかな?
過ぎた冒険は、自分にどんなに言い訳したところで、楽しいとは思えなくなるものである。
彼らの心中はわからなかったがそんなところなのかも、と思った。
しかし、こんな英語の通じない国で、しかも行き当たりばったりで北岳の山頂までよくぞ来たものだ。
ただ、次に来るときは、ちゃんと準備をしてこいよ!今度はテントの前で見せていたような笑顔で山頂に立とうぜ!
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( *´ ﹀ `* ) いつも楽しいお話しを拝見させていただきありがとうございます!
面白さと優しさにあふれて、いつも泣き笑いです(*゚∀゚*)
イノキチのリュックが!!
( ✧Д✧)めっちゃカワイイです!
tamaoodajiさんこんにちは
いつも読んでくださってありがとうございます!
彼らを真面目に見てしまうと「登山というものを理解していないバカタレ」なのですが、なんだか人間くさくって憎めないやつらなのです。
ちなみに、イノキチのちいさなリュックには、飴玉が入っています。
「コウドウショク ダヨ」
こんにちは、cajaroaさん。
いつも読み応えのある日記と山行記録、
楽しく拝読させて頂いております。
今回も最後は、イノキチの時と同じく
何だか切なくほろ苦いものでしたね。
ところで、イノキチ、とうとうリュックを
人間風に前脚で背負うのではなく
ハーネス風なのが、リアル
このアニメ風ショットもイイです
heheさん
こんにちは
いつも読んでくださってありがとうございます!
ラストはかなり迷いました。実際山頂の彼らは描写の通り、えらく楽しくなさそうなだけだったので、初めはインドの経験談を交えてまとめようかと考えていたのですが、
しかし、GWの遭難騒ぎの最中に奥穂高に登ってきて、その上で今回の話を見直したとき、やっぱり事実に対して正面から書いてみようと思い、このような終わり方にまとめました。
イノキチのザックはハーネスを兼ねてるかもしれません。だとすると、実は彼らは「北岳バットレス」にクライミングに行くのかも!?
cajaroaさん、はじめまして。
インドの方の話題となると黙っておれません(笑)
この春まで住んでいた公団は、近くにインド人専用のインターナショナルスクールが出来た関係で、あっという間にインド人だらけになりました。
毎日窓全開で、深夜過ぎても大音量の「ピーヒャラ」音楽、路上駐車はし放題、注意しても「なぜいけないの?」顔。たぶん日本人も同じでしょうが、一人や二人ならいざ知らず、コミュニティーが出来上がると彼らの常識がまかり通るらしいです。
日本に来ているインドの方って、たいていカーストが高い方のはずなのですが。
と…愚痴ってしまいました。
引っ越したのは言うまでもありません。
ダン之助でした。
ダン之助さん
はじめまして
読んでいただきありがとうございます。
インド人が集まって引っ越しとは悲劇ですね・・・
国によってものの考え方は違うと言いますが、迷惑に対する考え方として、インド人は人はどうせ、人に迷惑をかけて生きるのだからあなたも受け入れてあげなさい。という考え方なのだとか。
迷惑をかけないで生きる日本人にとって、これじゃあまりに一方的にですよね。
根本的なモラルのあり方が違いすぎます。以前「世界が一つの村だったら」という、その手の童話が話題になったことがありますが、そんな簡単なことではないような気がします。
でも、やはり初めはアプローチすることなのでしょうか?
次回、山で同じようなインド人を見かけたら私も今度は注意してみようかな?
cajaroaさん、こんにちは。
楽しいお話し、ありがとうございました。
(インドの青年達には、楽しくなかったかもしれないけど
若いってすごいよね〜
ちょっと昔を思い出して・・・
そう言えばヨーロッパの旅の中で、シャモニーでスキーをしたけど、雨具で滑ったっけ
ダウンも高くて持っていなかったから、セーターに雨具(一応旅行用に買ったばかりのゴアだったけど)着て、ボーゲン程度で滑走したわ。めっちゃ寒かった
きっと彼らもせっかく旅行に来たんだから、北岳に行かないとなんて思ったのかな〜
そんな気持ちで、富士山登っている観光客は多いよね
登頂できて何よりです 。
北岳には、しょっぱい思い出あるんで、そちらも思い出しちゃいました
お邪魔しました。
jikyoonさん
こんばんは
シャモニでスキーなんていいですね!
セーターと雨具とはすごいですね!
そんな話を聞いて、ウキウキするのは
やりたいことをやっているという、ところが伝わってくるからでしょうか?
多少無茶だろうが色々やってやろう、そしてやれる若さというのは、山の常識等置いといて、すごいですね。
秋の北岳くらいなら、ともこっそり思ったりもしていますが、次回同じ格好で来たら叱るかな
北岳のしょっぱい思い出⁉きになるではないですか。次回の日記の予告でしょうか?
読んでいただきありがとうございました。
cajaroaさん、こんばんわ。
やはりそういう落ちになりましたか。。
無事に済んだからよかったものの、
これからはそういう日本の山事情に疎い
外国人の安直な遭難というのが増えるような
気もします。
やはり、なにがしかの対策は
必要なんじゃないんだろうかと
私なんかは思うのですが。
ああ、でも私、潰れかけの
ジョギングシューズでランタン谷と
聖地ゴサイクンドトレッキングに行きました。
最後の二日は潰れた靴を捨てて
はだしで歩いて帰りましたね。。
人のこと言えないなぁ。
k-yamaneさん
こんばんは
そういえば、数年前に空木岳で韓国の方の大量遭難が起こったことが思い出されます。
あの時は小屋の人が止めたが、強行したという話を聞きました。
今回の場合、ビジターセンター、山小屋を経由していながら、何故、抑止されなかったのかわかりません。
ひょっとすると私と同じような感覚で、彼らの体力や、登るための好条件が揃っているところから、強く彼らを止める理由が見つけられなかったのかもしれません。
そもそも、計画する時点でいけるいけないを判断させないと、止めづらくなってしまうような気がします。一旦来てしまえば、「帰ったほうがいい」とか「やめたほうがいい」と言わなければならないし、かれらも「引き返す勇気」が必要になってしまいます。
そうなると、事前の情報収集に対する情報提示が、第一の対策となるのでしょうか。
あとは我々が英会話を思い出して、現場で説得する努力をしますか。ただ、自分のことは棚にあげて、戸棚にしっかり隠しておかないとだめですかね。(笑)
読んでいただいてありがとうございました。
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