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2016年05月18日 12:55山のプチ心理学全体に公開

遭難との分れ道の話〜GWの穂高にチャレンジした体験より

先日、GWに奥穂高岳に登頂してきた。

天気も良く、最高の気分で山頂に立てるかと思ったら、目の前のジャンダルムでヘリの救助活動の真っ最中・・・・

多くの遭難者と死傷者が出たのは周知の通りである。

また『事故にならなくて良かった・・・』という、ハラハラするようなシーンも目撃した。

ザイテングラートで人が滑落してきたり、アイゼンに雪ダンゴを作り、絶叫しながら降りてくる人がいたり、白出のコルの雪壁で足を滑らせたらしく、しばらく身動きができなくなっているなど・・・

危機一髪!さぞかし怖かったであろう。

『なんで技量もないのに登るのか!』
『想像すれば分かるはずだ!』
など、非難が集中していたが、

2年前に、ピッケルを使う雪山登山をスタートしたばかりの私は、登ってきてしまう彼らの気持ちは何処か分かるような気もする。

初めは雪山の怖さを想像できなかったし、何を持って安全といえるのか判断できなかったからだ。

どう行動をとるかはさておき、経験や技量が少ない人ほど、それゆえ想像力や判断力に乏しいというのは摂理だと思う。




かくなる私も去年のGWに個人で奥穂高に登るつもりだった。奥穂は自分の目標であり、憧れだったのだ。

ただ、ピッケルを使う雪山登山をスタートして、まだワンシーズン目のタイミングである。

それでも道具は一通り揃えていたし、硫黄岳などの厳冬期の2000m前後の山で経験を積み、雪山の登竜門と呼ばれる赤岳にもツアーで登頂している。氷瀑を雪壁に見立て、独学でアイゼンワークの練習などもやっていたた。

『これなら行けるかもしれない』
と思ったが、なんだか引っかかるものが残った。

『本当に穂高を登る技量があるのか?』
と考えると、自信を持ってYesとは言えなかったからである。

でも1年間、準備してきた。
そう諦めたくはない。

『努力してきたのだから』
『行けるかもしれない』
『チャレンジしよう』

と気持ちが後押しする。

『ダブルアックスなら大丈夫かも?』
『行けるところまで行ってみるか?』

いろいろ悩んだのだが・・・・

・・・やめた。
曖昧な感じが"ダメ"な気がしたのだ。

技量が足りているか判断はできなかったが、
『100%無事に帰ってこれないかもな・・』
と無意識に感じていたのだと思う。



だが、その判断で正しかったと思う。

奥穂高にはザイテングラートと呼ばれる岩尾根があるのだが、我々の通過1時間後に滑落事故にがおこり、人が亡くなった。

一度滑落してしまうと、ピッケルストップ※を試みても、止まるかどうかは運次第だ。
※ピッケルの鎌の部分を雪面に差し、更に上から体重をかけることで滑落を停止する技術

雪の急斜面ではバランスを崩した時点でアウト。特に急斜面だらけ穂高では少しのミスも許されない。

今だから分かるが、去年の技量では全くバランスを崩さないであの急傾斜を歩けたとは思えない。もし登っていたら、滑落して死んでいた可能性がある。

『判断の曖昧さに不安を感じ、やめたこと』

その決断が遭難との分かれ道だったと思う。




私は誰もが穂高にチャレンジできると思う。

ただ経験が浅い段階で
『登れる技量があるかどうか?』
を判断するのは非常に難しい。
そもそも判断材料が足りないのだ。

私が自信を持って『行ける』と判断できたのは、結局、"初心者を卒業してから"であった。
本格的な実技講習を受け、3000mくらいの雪山を登り、様々なシチュエーションが想像できるようになってからである。

いまの時代は、山岳会などの組織に属さずに、個人で登る方が多いという。
かくなる自分もその中の一人なのだが、周りに経験者がいないと『大丈夫』とか『ダメ』と言ってくれる人がいないので余計にリスクが高い。

ただ、手立てはちゃんとある。
時間もかかるかもしれないし、大変かもしれないが、リスクを冒さずに登れるようにはなれるのである。


事故がなくなるなんて、ひょっとしたらありえない話なのかもしれない。
ただ、希望を持たずにはなにも始まらない。

来年の穂高では事故もなく、
誰もが笑顔で登っていると願いたいと思う。

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http://www.yamareco.com/modules/diary/36225-category-7
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コメント

RE: 遭難との分れ道の話〜GWの穂高にチャレンジした体験より
cajaroaさん、こんにちは。

山へ行く目的は、登らないと決して見る事の出来ない絶景に出会う為ですが、最終目的は無事に下山する事と肝に銘じています。
自分なりに「この山は一人では不安」と思えば、ツアーに参加して登り、「よしっ! これなら一人でもまた登れる」と思えば、再び訪れる機会も有るかと。

進む勇気と引き返す又は諦める勇気、どちらかと言えば後者の方が、難しいかなぁ〜って感じます。

まだまだ経験も技術も未熟な私ですが、二年前に抱いた夢「槍ヶ岳登頂」の夢が来月叶いそうです。

無事に登頂し下山する事を願うばかりです。

いつも素敵な日記をありがとうございます。
読むのがとっても楽しみです💕
2016/5/18 15:08
RE: 遭難との分れ道の話〜GWの穂高にチャレンジした体験より
ak0211さんこんばんわ

私は天気が悪いと、なんのためらいもなく中止にしたり、計画変更してしまうので、勇気ある撤退という想いを持つことは実はあまりありません。σ(^_^;)

でも穂高は特別で、学生時代から登っている思い入れのある山だったのと、GWに登るというのが強く目標として定まってしまったので、さすがに悩みました。

想いが強いと辛いですね。

私もガイドさんのツアーに何度か参加したことありますが本当に勉強になりますよね。どういう感じなのか、私も安全を確保してもらって体験できるのはとても貴重な機会だったと思います。

それなくしては進めないところもどうしてもあるというのは強く感じました。

槍ヶ岳素敵ですね。
登山をする者にとっての憧れ。
去年の秋に行きましたが、アルプスの中心にいるような景色を忘れることはできません。
気をつけて楽しんで来てください。

いつも読んでいただきありがとうございます!
2016/5/18 19:57
RE: 遭難との分れ道の話〜GWの穂高にチャレンジした体験より
cajaroaさん、こんにちわ。
旧くて新しい問題ですが、なかなか難しいですね。
これだけ情報が氾濫する時代になっても、
自然の厳しさは容赦ないし、読めないですから、
それなりの装備とスキル、経験を身に着けて
望まないとですね。。。

頑張ってGWの涸沢くらいまでは行けるようにはなりたいです。
2016/5/18 20:41
RE: 遭難との分れ道の話〜GWの穂高にチャレンジした体験より
k-yamaneさん
こんばんわ

古くて新しい問題・・・ちょっと考えてみました。

個人の登山者が増え、彼らの判断の拠り所が『氾濫した情報』になりがちというのが、新しいところでしょうか?

だとすると情報だけで判断するには、言葉が現場的なものが目立つような気が私はします。

例えば
『勇気ある撤退』とか。
『山に謙虚になれ、臆病になれ』とか、

強面の経験者や、怖いガイドさんに面と向かって言われたら、ガツンときますが、ネット上で言われてもイマイチ、ピンとこない人がいそうです。

言葉や説明の仕方を最適化しないといけないのかも知れません。

涸沢いいですよ!ぜひ行って来てください!

でも行くと穂高に行きたくなるかもしれませんので、そこは覚悟すべきです(笑)

いつも読んでいただきありがとうございます!
2016/5/19 1:03
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