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碑も読まず､道路の向かい側から写真を撮っただけで､詳細は家に帰ってから調べようと思っていた｡
嘉永5(1852)年4月23日､秩父郡吾野村の農民本橋常七さんの妻み登さんが産気づいたのだが､翌日になっても分娩に至らなかったので､医師の岡部均平さんが呼ばれて診察をした｡胎児は死んでいる可能性があるのではないかということで､ベテランの医師伊古田純道さんが呼ばれ､4月25日に本橋家に到着した｡やはり胎児はすでに死亡していたが､取り上げることができなかった｡み登さんの命にもかかわるということで､伊古田さんは帝王切開に踏み切った｡2か月後にみ登さんは回復されたそうだ｡
幕末にすごいお医者様がいらしたのだなあ｡
お二人の決断のすごさに敬服した｡
そして､昨日(2019年5月16日木曜日)のことである｡
仕事(図書館)で､新しく蔵書にする図書のデータ入力をしていた｡
その中に『近代人文学はいかに形成されたか ―学知･翻訳･蔵書』(勉誠出版刊行 2019年2月25日発行)という本があった｡
｢人文学｣という学問分野の成り立ちについて､副書名にある学知･翻訳･蔵書3つのテーマから検証している論文集だ｡
その中に橋本一径さん著｢帝王切開と人肉食 ―日本の科学黎明期から見た人文学と｢人間｣｣という論文があった｡
もしや伊古田純道さんと岡部均平さんのことに触れていらっしゃるのではないか??
冒頭にまさに先の記述があった｡
もし､｢本邦帝王切開術発祥之地記念碑｣のことを知らなかったら､読まなかったかもしれない｡
論文は､帝王切開と人肉食の視点から､｢人間｣と｢人間｣をとりまく社会や集団について考えることで､｢人類学｣という学問が｢人文学｣(人文科学)の分野に収まっていった過程について述べている｡
�…覯�切開
西洋において帝王切開は妊婦さんが亡くなった後､残された胎児を取り出すための方法だった｡｢人は霊によって生まれなければ､神の国に入ることはできない｣というキリスト教の教えにかかわってくるそうだ｡胎児が生きていれば洗礼を受けることができ､その後亡くなったとしても教会の墓地に埋葬される｡死者に対して洗礼を施すことは禁止されていた｡洗礼を受けられずに亡くなった子供は庭先になどに埋められるしかなかった｡
洗礼の為の帝王切開における｢人間｣は､キリスト教の洗礼や宗教的儀礼や制度と関わっていたことで､人文科学(宗教の世界観)､自然科学(帝王切開)の両方の分野に関わりがあった｡しかしながら､妊婦さんも胎児も助ける為の帝王切開は､命を救うことであり自然科学の分野にのみの関わりとなる｡
�⊃容�食
19世紀前半の｢人類学｣は､現在の｢文化人類学｣につながる各民族の文化や社会を研究すること(人文科学)､骨などを計測し人種の差異を明らかにする計測人類学(自然科学)から｢人間｣を解明しようとした｡つまり､人文科学､自然科学の両方の視点＝全体的な視点から人間集団を研究することが､｢人類学｣であった｡しかしながら､計測人類学は､人種の区別をすることが優劣をつけることになっていった｡その引き合いに出されたのが｢人肉食｣(｢未開人｣に見られる習性とされた)であったそうだ｡やがてこの人種に優劣をつけることは､｢優生思想｣になり､人類学から生物学に移行していった｡
｢人類学｣は現在は｢文化人類学｣｢社会人類学｣として人文科学(人文学)の分野に収まってしまったが､もう一度､人文科学､自然科学の視点から｢人間｣と｢人間｣をとりまく社会や集団について考えていこうとした時点に立ち戻ることが必要だと結んでいる｡
｢本邦帝王切開術発祥之地記念碑｣がきっかけで､人類学の原点について知ることができた｡
ゴールデンウィークに湯ノ丸山(長野県と群馬県の境)に行こうと思っていたが､予想以上に積雪があり断念→連れ合いの群馬の実家から車で行けそうなところを探そう→奥武蔵エリアがよいかもしれない→『山と高原』の地図に奥武蔵スキー場跡地を発見→実際に行ってみた帰りに｢本邦帝王切開術発祥之地記念碑｣を知った
という展開でこの論文を読むことができた｡
人生ってなかなかおもしろいな｡
