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興味を惹かれたら、山にいけない休日、ぜひ読んでみてください。
「空へ」
著者:ジョン・クラカワー
訳: 海津正彦
■あらすじ■
1996年に起こったエベレスト大量遭難。登山隊の一員だった著者が
のちに生存者に取材して確認したことを織りまぜながら語った 事件の記録。
■感想■
夢枕獏作「神々の山嶺」を読み、日本人女性初のエベレスト登頂者:田部井淳子氏の
講演を聴いた 私はすっかりエベレストづいていて、以前から気になっていたこの本に手を伸ばした。
エベレストは標高8000メートルを超えたところで酸素が必要になるのだが、
寝ているだけで疲労が蓄積するという過酷さが、よく理解できた。
エベレストへの山行の、その一歩一歩をクラカワー氏の文章でたどっていく。
遭難の原因は一言で説明できるものではない・・ 気象、段取りミス、約束破り、時間遅れ、酸素不足等。
小さな事象がある結果を引き起こし、それが連鎖反応的に、最終的な悲劇につながっていく。
死亡者の死亡原因もそれぞれ違い、個人的に約束違反には強い憤りを覚えた。
エベレスト登山の実態に興味がある方はお読みになると良いだろうと思う。1996年時点のものではあるが、今もそう変わらないだろう。
意外だったのは、遭難した商業公募隊(ガイド付き登山ツアー)の参加者には、
新品の登山靴を持ってきたり、ベースキャンプでアイゼンが登山靴に合わない、ということにはじめて気がついた人がいたこと。十分なクライミング技術をもっていない、と思われる人もいる。みな私より経験が多いのは確かそうだが、だからこそ、履き慣れない靴でエベレストなんて、、、とびっくりした。
いまやエベレストは商業公募隊が主流だし、登山者がとても多い。
キャンプに必要な装備はシェルパが持ち、危険なルート工作もシェルパが
やってくれることになっているが、
誰でも登れる、と思ったら大間違いなのだと思う。
日本の山なら自分の技量不足を他の人に助けてもらっても、
あとあと問題にならずにすむことが多いだろう。
でもエベレストでは、それが相手の体力を削り、悲劇的な結果を招きかねない。
ここはそういうギリギリの世界なのだ。
★エベレストに行きたいかー?
私はあまり行きたくならなかった。
著者の語る高山病はひたすら辛そうだし、
ベースキャンプまでの道中、不衛生な村でキャンプをして、
変なウイルスをもらって下痢ばかりしている顧客の話をきけばひるんでしまう。
具合悪くなる上にそんな不潔な環境、絶対に行きたくない、と思った。
マロリーの言葉を借りれば、
「いやはや、登山はまったく魅力的ではなくなる」 だ。
山は遠くから眺めているのがよし、だ。。。
そういったデメリットを上回るほど、エベレスト山頂からの光景がすごいかというと、
クラカワー氏の登頂の様子を読むと、酸素不足の脳で、思考力もなく、とても疲れていて、
仕事用に写真を数枚撮影した後はすぐ下りにかかったとあった。
何の感動もなし。
プライベートな写真を撮る余裕はまったくなかったそうだ。
作者もまたギリギリのところで苦闘していたように思う。
★本を読んで学んだこと
これを読んで思ったのは、もしガイド付き登山ツアーに参加するときや同行者が
いるときには、あまり相手に頼らないようにしようということ。
ガイドがいたとしても、ソロの場合と同じよう、心構えは自立しておかないといけないと思う。(してるとは思うのですが、、)
ガイドがいてよい点は、道迷いしない事、自分が歩けなくなった時、警察に救助要請を頼める点のみ、と思ったほうがいいだろう。。
そう思うのは、このエベレストでは多くの顧客が、ガイドやシェルパに負担をかけすぎているような気がしたから。。
(そしてそのことを自覚していないのではないだろうか)
顧客でも亡くなった人はいるが、ガイドもまた、自分の能力の及ぶぎりぎりまで顧客を
サポートし続け、 ついに力尽きた感がある。
私自身が自分の力不足で死ぬのは構わないが、他の人の死まで招いてしまうのはあまりに辛い。
技量も経験も豊かな人が亡くなるのはひたすら悲しい。
★他、よかった点
作者のクラカワー氏はライターだから、文章や構成がうまく読み易い。
(読みやすさは翻訳者のおかげでもある。)
本の前半はエベレスト登頂史にまつわるいろんなエピソードを面白く読めた。
この本の原題は Into thin air という。
薄い大気のゆえに直面する苦闘を連想させる、いいタイトルだと思う。
フランチェスカさん、初めまして。
この本は気になっていたのですが、題名がピンとこなくて戸惑っていました。
原題を書いていただいたので、ようやく納得しました。
本当にいいタイトルと思います。
いかにもあの薄い空気の中に突入する感じが伝わってきます。
邦題だと漠然として、副題が無ければ山に関する本とは思えませんでした。
海津氏の訳書で、マロリー発見の経緯を書いた「そして謎は残った」も、原題は 'Ghosts of Everest'なので、少し邦題はひねり過ぎではないかと思います。
調べてみるとクラカワー氏には 'Into the Wild'という著作もあるので、シリーズとして題名を付けたのでしょうか。
とにかく題名の謎を解いて頂き、有難うございました。
ankota さん、コメントありがとうございます
おっしゃる通り、「空へ」は少々さわやかな印象を与えるタイトルですよね。遭難の本にはあまり合わない、むしろ登頂の感動を伝える本にふさわしいと思います。
しかし、原題の Into Thin Air を直訳しても本のタイトルとしては座りが悪いし、読者をひきつけられるタイトルを、という観点で出版社も邦題を考えるだろうし、その結果「空へ」に決まったのも仕方ないのかなと思います。
クラカワー氏の前作のInto the wildは「荒野へ」という邦題だから、
「・・へ」というところを合わせて、邦題を付けたかったのかもしれませんね。
「荒野へ」も面白そうなノンフィクションですね。とても興味をそそられました。
「そして謎は残った」'Ghosts of Everest'という本も面白そう。
二冊とも教えて頂いてありがとうございます
マロリーについては私もいろいろネット検索して調べて、「登頂したと思うなあ」と
仮説を勝手にたてていましたから、ぜひ、読んでみたいと思います
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