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見晴の弥四郎小屋で十分水も補給して立とうとした時に、激しい雷雨となる。この段階で裏燧林道に進路をとらなければ、この先に起こる未来は変わっていた。雨は続いているが、雷は大丈夫と判断して歩き出す。最初はいいが、大半が古い木道で滑る。天神田代は雨水で洗い流されたようである。沢の濁流にかかる木の橋を見ては、この先がどうなっているか不安をもつ。それと同時に、弥四郎小屋まで戻る時間の計算もしながら歩く。裏燧橋という立派なつり橋を見たときには、この先はきっと大丈夫だと確信した。さすがは尾瀬だ。素人だってくるんだから、橋が落ちるなんてあり得ないはずだ。
御池まであと１�劼�らいだろうか、この確信を天に嘲笑われる。前方から、トレランか？というような出で立ちの男性が橋が通れないと言いいながら引き返してくる。自分も確認してみようと、激流からわずかに覗く橋のたもとに足をそろりと乗せると、洗濯板のような頼りなさげな橋の板が激流の中へと飲み込まれていった。
雷雨の中の激流渡渉は経験があったが、今回は引き返すことを即決。ドコモの電波も入らず、対岸からの助けも見込めない。何より、トレラン氏は山慣れない方で水も尽きていることが分かったため、まずは自分のたっぷりあった水を分けてあげる。少し暗くなるが、きれいな木道まで戻れば自分のライトで問題ない。ペースを落としてトレラン氏を確実に小屋まで送り届けることを自分のミッションとする。彼に余裕がないのがわかるので、自分は明るく振る舞う。そして、どうにかこうにか休業中かと思っていた温泉小屋まで来た時、アルバイトのお姉さんがたまたま道に出てきていて、営業していることがわかり、トレラン氏をご主人に託すことができた。
トレラン氏とは風呂と食事を共にし、ソフトボールの話題などで盛り上がる。テント泊しかしたことがない自分は、これが初めての山小屋泊であった。そして、彼がご主人から山の掟について指導されたことは言うまでもない。帰路に我々は誰にも会わなかったので、私が行かなかったら彼は独りだったということか。
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