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Yamareco

記録ID: 1299376
全員に公開
無雪期ピークハント/縦走
槍・穂高・乗鞍

西鎌尾根から槍ヶ岳

1999年08月21日(土) 〜 1999年08月24日(火)
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mbadges その他1人
GPS
80:00
距離
31.8km
登り
2,506m
下り
2,538m
アクセス
予約できる山小屋
槍平小屋

感想

前夜、新穂高温泉の駐車場に着く。新穂高温泉バスターミナルは、深夜とあって静まり返り、昼の賑わいが嘘のようである。バス停そばの源泉が湧き出ている所を散策したり、トイレを済ませた後、少し戻った無料駐車場で仮眠をとる。いよいよ日本アルプスのシンボル、憧れの槍ヶ岳山行の始まりである。しかし、空はどんよりとしている。新穂高温泉午前六時発。左俣林道をブナ林を眺めながら歩く。ワサビ平小屋にて小休止。途中、槍から穂高への稜線が美しく見えた。シシウドヶ原には、たくさんの登山者が休憩している。三時間余りで鏡平着。心の中で温めてきた鏡の池が目の前にある。ガイドブックや写真を何回も開いては心に刻んだ景色がここにある。憧れの場所、思わず涙が溢れた。池には立派な見晴らし台が作られていたけれど、写真と同じ場所から少しの時間、「ようこそ」というかのように槍がのぞめた。整備された木道を歩いてすぐに山荘があった。かき氷名物の鏡平小屋である。大勢の登山者が休憩し、大賑わいである。小屋のテラスで、ガスの切れ間から見え隠れする槍ヶ岳、大喰岳、中岳、西鎌尾根を目に焼き付けた。二人でたくさんの写真を撮る。抜戸稜線に向かう頃より雨が落ち始めた。傘でしのいでいたが一向に降り止まずカッパを着る。ガスの切れ間より先を行く登山者の姿が見え隠れする。弓折岳鞍部はお花畑らしくハクサンイチゲが夏の終わりを告げ結実していた。なお雨は降り止まず、双六小屋までの岩ゴロの道は辛く長い行程だった。
 午後三時、双六小屋着。一日がかりで歩いて山のピークを一つも踏まず…北アルプスの山の大きさに驚くばかりだ。部屋で着替えようとしたら、ザックの中は雨でドボドボ。乾燥室で乾かす。談話室は賑やかで小池さんを囲んで談笑する声が聞こえる。私はその声、姿を眺めるだけで、胸がいっぱいになる。夕食は、天ぷらのご馳走だった。食後、写真集「山の彩り」を見たり、ビデオを見たりして過ごした。同部屋の女二人組は水晶から縦走してきたらしい。先生と教え子夫婦、途中で出会った若夫婦、ご主人は神経質らしい。今回が二回目で白馬は好天気だったのに、この雨で登山が嫌いになったらどうしようと奥さんは心配していた。京都から来た夫婦は、いつも雨の登山ばかりで、今年の二月に横山岳で道に迷い、落石にあい肋骨を数本折るという大怪我をしたらしい。九十八回目の登山で雨は二回ぐらいと言ったら、しあわせだねと言ってくれた。天気予報、明日も雨。あきらめ気分で早く寝た。翌日、小屋の外を見るがやはり雨。雨具で出発する登山者もいるが、迷ったあげく西鎌のスカイライン縦走は、槍を見ながら…と明日の好天を祈りつつ停滞を決定。ふて寝という割には、実によく寝た。談話室でテレビや本を見て、作ってもらったお弁当を食堂で食べた。濡れた服もすっかり乾き、準備万端いつでもOK。しかし、明日の天気も雨の予報。下界の様子を知らせるニュースでは猛暑が続いているという。どうなっているのか。樅沢までのピストンで下山になるのか…。夜中、星が見えると騒ぐ声で目が覚める。外に出ると満点の星だ。月に照らされて鷲羽や三俣蓮華がシルエットとなってくっきり見えた。気温も下がり、胸おどる思いで明日の稜線歩きを夢見ながら眠った。
 二十三日二時五十分、トイレに行く。三時三十分、みんな無言で慌ただしく動いている。四時三十分の第一回目の食事に並んでさっさと食べる。五時五分、双六小屋出発。二日間、雨の中停滞した双六小屋が、何か愛おしく思えた。久しぶりの晴れ間、双六小屋の赤い屋根に布団を干している様子を思い浮かべながら、双六小屋を後にした。樅沢岳への登りはガラガラとした石に歩きづらいが、右に笠ガ岳、背後に鷲羽、三俣と高度をあげる度に展望が開け、朝日に映える北アルプスの山々を眺めていると苦しさは感じない。約一時間で樅沢山頂。突然、正面に北鎌尾根から槍・穂高連峰への展望が広がった。西鎌尾根縦走のプロムナードとしては最高の景色である。焼岳、乗鞍岳、御嶽山も遠くに見える。そしてこれから辿る西鎌尾根が鋭い穂先を天に向ける槍ヶ岳に続いていた。槍の雄姿を眺めながら樅沢岳を下ると、左側が広いお花畑の硫黄沢乗越に着く。広々とした場所で、ここから眺める槍はまさに天を突いてそびえ、北穂高岳辺りから発生するガスが槍の穂先を切ってクラゲ雲となって流れて行く。自然のドラマを吸い込まれるように眺めていた。左俣岳あたりの道は、よく間違えそうな場所だと思いながら歩いていると、先行する女性パーティーが間違って登っていた。硫黄岳の赤茶けた荒々しい尾根を眺めながら千丈沢乗越に着いた。遠く白馬、鹿島槍まで望め、右側は飛騨沢のゴロゴロした岩屑の道で、歩いている登山者がアリの行列のように小さく見える。鎖場を越えると、小槍がひょいと現れた。程なく槍ヶ岳山荘に着いたが、大槍に取り付いている登山者の様子から、一気に穂先を目指すことにする。梯子場が数カ所あるが、登山者も少なく渋滞もない。
 槍ヶ岳山頂…。新穂高温泉から三日目。遠かった槍ヶ岳。ついに踏めた。予想通り登山者も少なく三六〇度の大展望を祠後ろの特別席に座り、欲しいままにすることが出来た。「あれが剣、立山、遠くに見えているのは白馬かな」と一つひとつ北部の山々を指さしながらを確認する。手前北鎌独標に目を移せば荒々しい北鎌尾根に登山者が二人いた。背後には大喰から奥穂までの稜線が重なって並んでいる。槍沢の向こうに見える常念は秀麗なピークをつんと尖らせ鎮座している。今度は常念から槍を見たい…そんな思いにかられた。一時間程、記念写真と展望を楽しみ山荘へ降った。昼食は小屋前のテラスで大槍を眺めながら双六小屋の弁当とビールで乾杯。宿泊手続きを済ませ、小屋横の喫茶室でコーヒーを飲んだり、キャンプサイトそばの高山植物を楽しんだり、ゆったりとした時間を持つことができた。夕食まで時間があるので大喰岳まで足を伸ばしたが、残念ながらガスって何も見ることができなかった。夕食は播隆上人の像がある大食堂でいただく。ここの食堂は大きい。ワインを飲む人、ビールやお酒を飲む人など国際色も豊かで賑やかである。また、松本の街の灯りが遠くに瞬き、南アルプスの左側に富士山も見えた。夕食後は、土産を買ったりビデオ「穂高の四季」を見たり、昨日までの悲壮感はどこへやら。八時半消灯、今日のパノラマを回想しながらゆっくりと眠りについた。
 二十四日は、朝から小雨。しかし、心の中は充実感でいっぱいである。飛騨乗越より飛騨沢側に下る。盛夏の頃は、お花畑の美しい斜面を一気に降る。滝谷出合を過ぎ、白出出合の小屋で昼食後、新穂高温泉への長い長い林道を早歩きで傘をさしながら歩いた。新穂高温泉午後一時着。俗世界に降りてきた感がある。予約した宝山荘別館に宿を取り、五日間の汗を流し、山の幸(アマゴのホウバ焼、つくねの団子汁、酢の物、鯉のあらい)を楽しかった山々を肴にゆっくりいただいた。夜中、混浴露天風呂に二人で入った。
 翌日は快晴。新穂高の下り道から、槍の穂先がよく見えた。更に防災ヘリポートまで足を伸ばし、北アルプスに別れを告げる。帰路は奥飛騨温泉郷から松本城へ行き、市内観光を楽しんだ。城下町の松本は、たくさんの民芸品の店が並び、ここだけでも十分に楽しめる町である。なごりは尽きないが松本ICより高速に乗る。
 新穂高から雨の山行、そして大展望の槍ヶ岳、おいしかった山の幸、露天風呂……と車中、いろんなことが頭の中を駆け巡り、充実感と滋賀に戻る寂しさが混ざり合って、いつもの涙が流れた。また、来るからね、信州の山々よ……。今度来る時も優しく迎えておくれ。

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