カムイミンタラ 『神々の遊ぶ庭』 を行く 【旭岳〜トムラウシ山】
北海道
sada
- GPS
- 102:00
- 距離
- 50.8km
- 登り
- 2,438m
- 下り
- 3,406m
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姿見08:50⇒11:10旭岳11:25⇒間宮岳12:25⇒13:15北海岳13:20⇒白雲岳分岐14:20⇒14:50白雲岳避難小屋
8月27日（月）
白雲岳避難小屋07:45⇒三笠新道分岐08:45⇒10:40忠別沼10:45⇒11:40忠別岳11:45⇒12:30忠別岳避難小屋
8月28日（火）
忠別岳避難小屋08:50⇒09:50五色岳10:20⇒神遊びの庭⇒12:20ヒサゴ沼キャンプ地
8月29日（水）
ヒサゴ沼キャンプ地08:50⇒ヒサゴのコル09:30⇒日本庭園⇒ロックガーデン⇒11:40北沼11:45⇒
12:15トムラウシ山12:45⇒北沼⇒ロックガーデン⇒日本庭園⇒ヒサゴのコル14:50⇒15:40ヒサゴ沼キャンプ地
8月30日（木）
ヒサゴ沼キャンプ地07:30⇒08:35化雲岳08:40⇒09:50ポン沼09:55⇒11:00第二公園11:05⇒12:00第一公園12:20⇒滝見台14:10⇒14:50天人峡登山口
| 天候 | 8/26（日） 雨のち曇り 8/27（月） 晴れ 8/28（火） 晴れ 8/29（水） 晴れ 8/30（木） 晴れ |
|---|---|
| 過去天気図（気象庁） | 2012年08月の天気図 |
| アクセス |
利用交通機関：
電車 バス
ケーブルカー（ロープウェイ／リフト） 飛行機
|
| コース状況／ 危険箇所等 |
・ガスボンベは旭川空港の総合案内所で購入しました。 旭岳ロープウェイの売店でも購入できますが、営業時間等を確認した方が良いでしょう。 ・エキノコックスの影響により水は全て煮沸を要します。 ・トイレで使用した紙は持ち帰ります。ジップロックが便利。 ・白雲岳避難小屋のみ管理人常駐（夏季）。宿泊費\1,000。 |
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感想
手元に一冊の本がある。
『トムラウシ山 遭難は なぜ起きたのか（低体温症と事故の教訓）』
生還者による証言、気象遭難の実例、低体温症および運動生理学、ツアー登山の現状と問題点等、
とても詳細に記述されている。
この本を読み「ト・ム・ラ・ウ・シ」の5文字が脳裏から離れない。
8月26日（日） 雨のち曇り
究極の雨男は、北海道へ雨雲を連れてきたようだ。
旭岳ロープウェイからの眺望は無く真っ白である。
姿見駅でしばし様子を見て、08:50登山開始。
多くの登山者がいるなか、独り大きなザックを担ぐ。
”縦走は自分だけのようだ”
濃いガスの中をカメのように一歩一歩登る。
”焼酎まで担ぐ必要があるのだろうか”
20kgほどの荷が自分を苦しめる。
11:10、見晴らしが無いまま山頂に着いた。
”ここが本当に北海道一の標高なのだろうか？”
実感ゼロ、展望ゼロ、そして感動もゼロである。
30名ほどの中高年の登山ツアー客が楽しそうにしていた。
「トムラウシ遭難」を思い出す。
間宮岳に繋がる急斜面を富士の須走のごとく降りる。
このルートに入ると急に人が減り、すれ違ったのは4名のみ。
沢の近くにある裏旭キャンプ地はなかなか良さそうである。
強風の中、間宮岳に立った。
お鉢の底にある有毒温泉を眺めながら先を進む。
登って下って、また登るの繰り返しだ。
北海岳からみる烏帽子岳は鷲羽岳に似ている。
不安と孤独感からか急に北アルプスが恋しくなった。
広大な大地を延々と進めば白雲岳が近づく。
白い巨岩が点在する場所を巻くと山頂への分岐となる。
時間に余裕もなく、見晴らしを望めないため白雲岳を諦めた。
14:50、白雲岳避難小屋に到着。
天候が悪いためテントをやめ小屋に入る。
夕刻、ヒサゴ沼から来た前●さん御夫婦が到着する。
途中でヒグマの糞を多く目撃した話に耳を傾ける。とても参考になった。
ちなみに前●さんは、水筒をヒサゴ沼避難小屋に置き忘れたそうだ。
もし発見できれば送る約束をする。
愛着のある物を失うのは悲しいことだ。
大菩薩で水筒を置き忘れた友人を思い出す。
その夜は、台風のごとく風雨が強い。
そして「トムラウシ遭難」を思い出し、不安のなか眠りについた。
8月27日（月） 晴れ
雨音で目が覚める。
しかし小屋は雨漏りも無く登山者を守っている。
もう一日滞在する覚悟でいたが、7時頃一気に晴れてきた。
07:45、避難小屋に別れを告げ、高根ヶ原を目指し広大な台地を独り行く。
風は強いが、陽光が差し寒くはない。
見上げれば大空に一本の飛行機雲。
”うわ〜、なんて長いんだろう！”
都心の狭い空に何を期待できるというのか。
日常生活のなかで空の存在を忘れていた自分に気づく。
眼下にはヒグマの楽園である沼々が良く見える。
三笠新道分岐では、立ち入り禁止の標識があった。
”ヒグマさえ居なければ最高の場所なのに。”
アイヌ文化に『熊送り』というものがあるそうだ。
熊から貴重な肉や皮をいただき、感謝の気持ちで熊の魂を神々の世界に送り帰す祭りである。
現在では熊のおかげで自然が守られていると言えよう。
ハイマツに入ればヒグマのフンを目撃する。
カウベルを鳴らす手に力が入る。
美しい忠別沼周辺のハイマツ帯にフンが多い。
自分は独り言の多い変な登山者になっていた。
忠別岳に登ると霧が濃く、眺望は無かった。
周りはハイマツも多く、風がヒグマの鳴声に聞こえる。
1日で4回も新鮮なフンを見てしまった自分は精神的に疲れていた。
忠別岳を降りれば避難小屋が現れる。
テントが一つ立っていた。
”時間はある。急いでヒサゴ沼まで行くこともないだろう。”
今夜は忠別岳避難小屋のキャンプ地に泊まることにする。
再びハイマツをかき分け、雪渓を渡り避難小屋に着いた。
重いドアを引っ張り開ける。しかし、中には誰もいない。
屋根の一部が損傷し、床も一部朽ちている。
自然にドアが閉まるよう、2リットルのペットボトルが滑車を通じて吊るされていた。
そのボトルが揺れて音を立てる。実に不気味な小屋だ。
”まだ12:30か。そのうち誰か来るだろう。”
テントに見えたのはトイレだったようだ。。
でも確かにテントに見えた・・・あれは幻だったのか。
昼食を終えた頃、1匹のシマリスが現れた。
すぐに逃げないところを見るとエサを求めているようにも見える。
しかし、カメラを構えた瞬間に逃げられてしまう。
テントを張ろうと思ったが、独りではヒグマが怖い。
出るときは出るかもしれないと思い、小屋で寝ることにする。
夕刻になると冷えてきたが、薄暗い小屋に入る気にはならなかった。
外で一服していると、沢向こうに8頭ほどのエゾシカを発見する。
黄色い声で鳴いている。長い脚を持ちとても綺麗だ。
月明かりのもと焼酎を呑み、スルメを焼いた。
ほろ酔い気分で小屋に入れば月明かりで小窓の外は明るい。
”孤独だな。こういう夜もたまにはいいか。”
持参した焼酎が無くなった頃、眠りについた。
深夜、小屋の壁の音で目が覚める。
気温が下がり、壁板がキシミ音を立てている。
”家に帰りたいな。寝袋がとても暖かい。”
8月28日（火） 晴れ
長い夜が過ぎれば空は快晴かつ無風だ。
まだ雪渓は解けず、水の音はしない。
今朝もエゾシカが沢向こうにいる。
食欲の無いなか朝食をとり、出発の準備をする。
”今日はヒサゴ沼までの短いルートだ。ゆっくり景色を楽しみながら行こう！”
08:50、重い荷を担ぎ小屋を後にする。
雪渓を渡り、振り向いて小屋に一礼。
”いい経験をさせてもらった。楽しい夜だったな。”
初めて小屋を見た時の不気味さは無く、感謝の気持ちでいっぱいであった。
再びハイマツ帯を行く。カウベルを鳴らしまくり突入する。
しかしフンは全く無かった。忠別岳を境にヒグマは少ないのだろうか。
蒸し暑いハイマツを抜け五色岳に立てば、目前にトムラウシが姿を現わした。
山頂部の王冠が独特の山容を形成する個性の強い山だ。
しばし見惚れてしまい30分ほど休憩する。
再び荷を担ぎハイマツに突入。
朝露が多く、火照った身体に気持ち良い。
ハイマツを抜けると木道となり広大な草原が広がった。
”ここが神遊びの庭か！”
言葉で表現するのが難しいほど神秘的な場所だ。
雲が出れば穏やかに、陽が射せば鮮やかに光輝く。
何枚もの絵葉書を捲っているかのようだ。
ヒサゴ沼分岐を過ぎて下れば沼が見える。カラフルなテントもある。
一歩一歩降りるたびに沼が大きくなってくる。
12:20、ヒサゴ沼避難小屋に到着。
小屋に入るが誰も居ないようだ。
前●さんの水筒を発見し、この手に受け取った。
テントを設置し、昼食はパスタをいただく。
周りのテントの住人がトムラウシから戻って来た。
スウェーデンから来た写真家の他、東京から来た三●さんだ。
30時間ぶりにヒトと出会った！
会話が弾み、トムラウシまでのコース状況について教えてもらう。
三●さんからアミノバイタルをいただいたので、お礼にカルパスを差し出した。
ここヒサゴ沼に顔ぶれが増えてくる。
なかでも長靴姿のパイプのおじさん（hagure1945）の話が面白い。
天人峡から登り、明日は同じトムラウシとのこと。
その夜は無風で、星空のもと眠りについた。
8月29日（水） 晴れ
日の出とともに陽光が射し朝露は霧となっていく。
気温が上がりヒサゴ沼は濃霧に包まれた。
”トムの山頂部はどうなのだろうか？”
三●さんとの別れ際の言葉を思い出す。
「今朝は昨日と似たような天候の朝です。」
昨日は10:00頃にトムラウシ山頂部の雲が切れるのを五色岳から確認している。
”迷ってもしょうがない。行こう！”
08:45、トムラウシを目指す。
雪渓の脇の岩場を登ればヒサゴのコルに出る。
しばし登ると木道となり日本庭園だ。
再び「遭難事故」を思い出す。
Aトラベル一行は暴風雨のなか、身体を飛ばされない様この木道にしがみ付いたという。
自分は優雅な気分で自然が生んだ芸術を楽しみながら進んだ。
木道が無くなると様相は一変する。巨岩だらけの進みにくい登山道となった。
ナキウサギを発見し感動していたところ、長靴姿のパイプのおじさん（hagure1945）が山頂を極め降りてきた。
「この先はもっと岩だらけだ。ここなんて第一の難関に過ぎない。ガスが出るとルートを誤りやすい所だから早めに行って戻った方がいいよ。」
その言葉に優雅な気分は一変した。正に岩だらけである。
ロックガーデンと命名されてはいるが、トムの山頂部は全てがロックガーデンとも言える。
再び「遭難事故」を思い出した。
遭難者は、みんな痣（アザ）だらけであったそうだ。
無数の岩々に身を叩いたに違いない。
自分はピストンゆえ身軽だ。おまけに天候は安定している。風も少ない。
しかし、重い荷を担ぎ、この山を越えるのは大変だと思った。
Aトラベル一行は、暴風雨のなか重い荷を担ぎ、山頂部を越えて行かなければならなかったのである。
それだけでも彼らの無謀さを実感した。
穏やかな北沼を両腕で抱くように山頂が鎮座する。
遭難事故当時、この沼は波を立て、溢れる水が川となり、困難な渡渉を招いたという。
この地で、メインガイドと女性が、ビバークし亡くなっている。
しかし自然そのままの大雪山に慰霊碑など無い。
岩を選びながら一歩一歩登る。
12:20、山頂を踏んだ。暖かく気持ちが良い。
十勝側は雲があるが素晴らしい眺めだ。オプタテシケが姿を見せる。
トムラウシ温泉から日帰りピストンのカップルに写真を撮っていただいた。
行動食をとりながら休憩する。
12:45、下山開始。来たルートを確実に戻る。
しかし、渇きと疲労が自分を苦しめた。
山というのは、何度も登りたい山、もう登りたくない山がある。
トムラウシは後者に属するかもしれない。
木道までは確かに良い所であるが、その先は楽しいとは言えない。
再び「遭難事故」を思い出す。
あの事故は、メインガイドだけの責任ではない。
暴風雨のなか無理して強行しなければならない理由があった。
当日、同じAトラベル社の登山ツアーの別パーティがヒサゴ沼避難小屋に入る予定であった。
出たくなくも出発せざるを得なかったのではないだろうか。
登山ツアーそのものにも疑問を感じた。
みんなで登れば怖くないのか。
みんなで登れば登れるというのか。
一人が動けなくなり、ペースが落ちる。
暴風雨のなか動かなければ身体が冷え低体温症になる。
当然の事が起きただけではないのか。
この山岳一帯は自立性をかなり要求される。
登れと言われて登るようではだめなのではないか。
全ては自己判断が重要となる。
しかし、単独登山は死亡率が2倍以上という。
そう考えると偉そうなことは何も言えない。
ヒサゴ沼に着いた時、水場でhagure1945さんと出会う。
「心配してたよ。これで顔ぶれが全部そろった。」
心配かけて申し訳ないと思った。自分は終電が好きなのかもしれない。
風の強い夜となる。テントがバタバタと音をたてた。
”明日は下山だ。もし雨だったら動かず滞在しよう。”
滅多に来れる山ではないためそんな気持ちにさせる。
風の音を聞きつつ眠りについた。
8月30日（木） 晴れ
ヒサゴ沼との別れの時がきた。
07:30、天人峡へ向け下山する。
早朝と夕刻はヒグマが出るので、初日から最後まで遅い出発になってしまった。
化雲岳を目指し登れば、ヒサゴ沼が遠く小さくなっていく。
”再び訪れる機会があるといいな。”
馴染んだ土地を離れるのは辛いものだ。
環境保護調査のため入山している女性に出会う。
「向こう側に熊が居ますよ。」
かなり離れた草原にヒグマが居るとの事だが残念ながら確認できなかった。
強風のなか化雲岳山頂に着けば北に旭岳が良く見える。
間宮岳、北海岳、白雲岳、高根ヶ原、忠別岳、五色岳、遠くに石狩連峰、背後にはトムラウシ、そして十勝岳連峰。
眼下には神遊びの庭が広がっている。
「富士山に登って山岳の高さを語れ、大雪山に登って山岳の広さを語れ。」
明治から大正にかけての歌人、大町桂月の言葉に納得する。
天人峡まで11.5kmの距離を行く。
歩むほど神遊びの庭が次第に狭くなっていく。
この地は2週間後は紅葉となり、一ヵ月後は雪が舞うのであろう。
そして終始見送ってくれたトムラウシが姿を消した。
感謝の気持ちでいっぱいになり涙が溢れてきた。
旭岳を眺めながらの下山が続く。
お花畑の第二公園、第一公園を抜けると森林に入る。
湿地帯を行くため泥との戦いでもあった。
ようやく「滝見台」に着いた。
日本の滝百選である『羽衣の滝』を望む。
最後に急坂を降りて天人峡登山口に着く。
14:50、今回も無事に登山を終えることができた。
『天人閣』の温泉に浸かりながら思い返す。
小雨のなか重い荷を担ぎ登った旭岳。
風雨から守ってくれた白雲岳避難小屋。
広大な高根ヶ原を行く爽快感。
終始ヒグマに脅えながらの登山道。
独り静かな時を過ごした忠別岳避難小屋。
絵葉書のような神遊びの庭。
楽しい時間を満喫したヒサゴ沼。
達成感を与えてくれたトムラウシ。
大雪山への感謝でいっぱいである。
帰る日がやってきたが、まだこの地を離れたくない。
北斗星の切符が取れたのでフライトをキャンセルする。
”急ぐ必要はない。時間をかけて帰ろう。”
汽笛とともに夜行列車は走りだす。
彼方のカムイミンタラを想いつつ車窓を眺めた。
”さあ帰ろう。人々の遊ぶ庭、東京へ。”
完
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壮絶な記録ですね。読了しました。自分のちゃらい登山をアップするのがためらわれます。恐怖感、孤独感を堪能しました。たまには、楽しく登りましょうよ
ご無沙汰してます。
いつも読了していただき有り難うございます！
大雪山、とても楽しかったですよ
すっかり北海道の山にハマってしまいました。
来年の夏休みは羅臼か幌尻かな。一緒にどうですか？
ヒグマが怖いのでmakさんは先頭でお願いします。
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