登山初心者・高所恐怖症が行く槍ヶ岳(槍沢ルート往復)
- GPS
- 32:00
- 距離
- 38.1km
- 登り
- 1,815m
- 下り
- 1,803m
コースタイム
2日目>槍ヶ岳山荘600〜630槍ヶ岳山頂645〜700槍ヶ岳山荘715〜(以降時間の記録なし)槍沢〜上高地(確か1420頃)
天候 | 11日・晴れ(槍沢ロッヂ付近で小雨) 12日・晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2012年10月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
帰り)上高地〜(バス)〜新島々〜(電車)〜松本〜(8時ちょうどのスーパーあずさ36号) |
コース状況/ 危険箇所等 |
槍沢コースは山荘まで危険箇所はありません。山荘〜山頂は高度感たっぷりですが、極めて慎重に行けば、高所恐怖症の僕でもなんとかたどり着けました。 |
写真
感想
(2012年10月登山・2014年5月記)
(1日目)
8月に富士山に登り、高い山初登山をして以来、近所の低山にも毎週のように出かけるようになり、あんなにも興味がなかった登山が生活の中心になっていく。
テレビで登山の番組がやっていれば、チャンネルを止めて見るようになり、その中で槍ヶ岳が登場した。
その容姿、登山中の景色など、8月に登った富士山とは全然違い、また出演していた登山ガイドの方の槍ヶ岳に対する思いがよく伝わり「行ってみたい!」と、思ってしまった。
まあ、しかし、根底にあるのは「富士登山のために購入してしまったザックや登山靴などを早く償却しないと」という貧乏人根性だった。
インターネットで槍ヶ岳山荘のサイトを見て一番楽そうな槍沢コースに決めた。上高地には一度観光で行ったことがあるので、それも考慮した。
朝5時、夜行バスが上高地に着いた。まだ暗いし、とても寒い。登山ポストの横に「遭難情報」が貼ってあった。「9月○日常念岳死亡・9月○日○×岳死亡・・・」その頃は常念岳がどこだかも知らなかったのだけれど、「もしかしたら、僕はとんでもないところに来てしまったのかも」という疑念が頭をよぎった。
が、ここまで来たのだから前に進むしかない。気を引き締めて出発することにした。
「あれ?」「どっち行けばいいの?」
本当に今考えると恐ろしいのだけれど、地図を持っていないのだ。あるのは、槍ヶ岳山荘のサイトを印刷した略図だけだった。富士山の様に目の前の道を行列に倣ってただ上へ進めばよいという登山しかしたことがないので、ここも同様であると思っていたのだ。更に、上高地から「槍ヶ岳こっち」と道標があると思っていた。
とりあえず印刷してきた略図を見てみた。上高地の隣に「明神」と書いてある。なるほど「明神」に行けばいいのだな。こうして朝5時44分槍ヶ岳への旅がスタートした。
略図の通り、明神、徳沢、横尾と歩いて行く。平日であるにも関わらず結構な人が歩いている。恥ずかしい話、当時は歩いている人全員槍ヶ岳に行くと思っていた。結構年配の人も多かったので、これだったら僕でもきっと登れると思ったし、これだけの人数がいるなら、何かあっても助けてもらえると安心していた。・・・・・横尾までは。
横尾に来て初めて「槍ヶ岳」という道標があった。もちろん僕はそちらへ向かう。が、しかし今まで一緒に歩いて来た人たちは、みんな別方向にある橋を渡っていってしまう。これも、後日になって初めて知ったのだが、紅葉の涸沢カール(そんなもん知らなかった。知ってたら僕も行ったのに)へ行く人たちだったのだ。
そこから槍沢ロッヂまでは本当に心細かった。1人しかすれ違わなかった。誰にも抜かれなかったし、誰も抜かなかった。熊がでそうな気がした。「9月○日常念岳死亡・・・」という張り紙が思い出された・・・。
怖くて少し早歩きになったせいか、槍沢ロッジにすんなりと到着した。外のベンチで4人休憩していた。同志がいることに安心し、ロッジでカップ麺を食べ、インスタントコーヒーを飲んでいると、小雨が降り出した。
果たしてこのくらいの雨の時は、雨合羽を着るべきなのか否かわからず、誰かが着始めるまで様子を見た。そして、ベテランに見える男性がザックから雨具を取り出すと、僕も今まさに着ようと思っていたんですよと言わんばかりに、雨具を取り出して着込んだ(僕は小さな人間です)。
さて、ロッジを出発。雨具を着て登ると暑い。「参ったな」と思った矢先、空が晴れ渡る。一瞬で天気が変わった。3分前に着た雨具を脱ぐ。こう言うのが本当に手間がかかる。
少し先のテント場にも人がいたし、ここからはすれ違う人も多くなってきた(とは言っても2〜30分に一組くらい)。また、視界も開けてきたことで、気分的には楽になった。が、体力的には限界が近づいてくる。
登れど登れど、槍ヶ岳は現れない。最初にとばしすぎたのか、ペースが上がらない。後ろから数人に抜かされた。もう、そろそろ限界です・・・。と、あきらめかけた頃、目の前にどーん!と、槍ヶ岳が現れる。「来た〜!かっけ〜!!」と、一瞬テンションが上がるが、また、登っているうちにヘロヘロになっていく。
とにかく長く感じた。最後の方は少し登っては休憩を繰り返した。それでも、やはり到着する。午後3時半、槍ヶ岳山荘にチェックインした。
宿泊者は3〜40人程度。一部屋12人で布団は一人一枚。それでも眠れなかった。隣で知らない人が寝ていると思うと、落ち着かない(僕はデリケートな人間です)。午前1時仕方なく睡眠薬を飲む。眠れた。
(2日目)
朝食を急いで食べて、日の出を見に行く。目の前一面に広がる雲海から輝く太陽が姿を現す。少しずつ、少しずつ、でも止まることなくそれは大きくなっていき、空と雲の境をオレンジ色に染めた。
「感極まる」っていうのは、こういう事なのだろう。涙が自然に出てくる。まさか、風景を見ただけで涙が出る事なんてあるとは思っていなかった。
「来て良かった〜」「ザックと登山靴の代金、一気に償却した〜」と、喜んだのも束の間、新たな不安がよぎる。あの、威圧的にそびえる槍の穂先に登らなければならない。
僕は極度の高所恐怖症である。みなとみらいの観覧車でスタート直後に失神しそうになり、目をつぶったまま一周するという無駄遣いをしたことがあるのだ。
まして、明け方みぞれが降り、滑りやすくなっていた。一応登る支度をして、山荘の前で躊躇していると「写真撮ってもらっていいですか?」と、声をかけられた。穂先をバックにお互い写真を撮って、少しだけだけど話をした。お互い登山初心者であること。それでも彼は先程、山頂を踏んできたということ。僕は今躊躇しているということ。
うっすらみぞれの積もった道を、不安げに降りていく彼の後ろ姿に「気をつけて!」と声をかけてから、僕も登ることを決意した。そうするためにここまで来たのだ。
まずは下から山頂を眺めた。誰も登っていないし、降りてきてもない。すれ違いのリスクなど今なら少ない。
「よし!」多分本当に声になっていたと思う。恐怖を紛らわすためにずっと独り言を言っていた気がする。
下を見ると怖じ気づいてしまうので、上しか見なかった。正しいルートを示す丸印を探し、一気に登る。「三点支持、三点支持」と声に出して言う。最近覚えた言葉だ。
中程まで順調に登っていたが、突然進むべき道が無くなった。
頭が真っ白になった。僕はしばらくそこに座っていた。どうしたらいいのか分からなくなってしまったのだ。
数分後、下から同年代の夫婦が登ってきた。僕が座っている場所から2メートル程下の地点を右に曲がって(正規のルートで)、どんどんと登っていってしまった。それを見て気がついた。一気に登りすぎたのだ。本来右に進むべき点をスルーし、ほぼ垂直の壁を2メートルほど上によじ登ってしまった。右にある丸印を見落としたのだ。
本来のルートが分かったことで、少し冷静になった。と、同時に足がカタカタと震えだしてしまった。下を見たことと、2メートル下の足場が狭すぎて、降りることができないと気付いたのだ。もし、強行して降りたとして、足がすべったり、足場を踏み外したら50メートル位硬い岩場を滑落する。多分死ぬ。
だから、ここから直接右へ行くしかなかった。僕がいる場所からみた正規ルートの裏側はすっぱりと切れ落ちていて、強風が吹いていた。しかし、大型犬の背中ほどの岩が出っ張っていた。あれに乗って、またいで行くしかない。
僕は全神経を集中させた。もはや三点支持ではない。「全点支持」だ。手足は当たり前、うちもも、尻、腹、胸、頬すべての部位を岩に密着さた。自分と岩のわずかな極僅かな引力すら利用したつもりだ。そして、時間をかけてゆっくりと横にずれて移動した。
なんとかクリアし、正規のルートに戻った。が、足の震えは止まることはなかった。最後の2連ハシゴも「大丈夫。大丈夫」と、はっきり声に出して登った。山頂には先程の夫婦がいたので、ちょっと恥ずかしかったが気にしてはいられなかった。
山頂からの眺めは、あまり覚えていない。これから降りなければならないという不安が脳を支配しているし、山頂部が狭い上にとにかく高度感があって怖いのだ。膝をまっすぐに伸ばすことができない。重心を常に低く保っていないと怖かった。写真を撮ってもらおうとお願いしたが、僕の携帯電話が寒さでか気圧差でか電源が入らなかった。山頂の写真は無理を言って、ご夫婦のカメラで撮ってもらい、後日電子メールで送ってもらった。
結局、穂先の下りはそれほど怖くは無かった。山荘まで降りたときの安堵感は今でも覚えている。「生還」という言葉がふさわしい。
その後も、途中で時計を落とし、探しに1時間ほど登り返したにも関わらず、見つけることができなかったりとか(結局、後ろから下山してきた方が拾って届けてくれました・感謝です!)、散々な2日目でしたが、こうして生きて帰ってきて、もう一度槍ヶ岳に登りたい!と、思っているので、やはり良い山なのでしょうね。
*その後、経験を積み、高所恐怖症も克服しつつあるので、今度登るときはきっと山頂も楽しめると思います。
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