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Yamareco

記録ID: 4581913
全員に公開
無雪期ピークハント/縦走
塩見・赤石・聖

赤石岳-悪沢岳 〜この瞬間のために〜

2022年08月10日(水) 〜 2022年08月14日(日)
 - 拍手
体力度
10
2〜3泊以上が適当
GPS
29:09
距離
53.7km
登り
4,663m
下り
4,848m
歩くペース
速い
0.80.9
ヤマレコの計画機能「らくルート」の標準コースタイムを「1.0」としたときの倍率です。

コースタイム

1日目
山行
5:22
休憩
0:08
合計
5:30
5:27
142
7:49
7:57
180
10:57
2日目
山行
5:16
休憩
1:26
合計
6:42
3:50
42
4:32
5:08
54
6:02
6:12
60
7:37
7:42
4
7:46
8:14
5
8:19
8:19
20
8:56
8:57
16
9:13
9:19
39
9:58
9:58
34
10:32
3日目
山行
5:05
休憩
0:39
合計
5:44
4:38
55
6:16
6:16
16
6:32
6:32
5
6:37
6:39
82
8:01
8:13
30
8:43
8:45
51
9:36
9:45
37
10:22
4日目
山行
4:39
休憩
0:10
合計
4:49
4:05
23
4:28
4:28
11
4:39
4:39
45
5:24
5:24
6
5:30
5:30
27
5:57
6:07
45
6:52
6:52
111
8:43
8:43
11
5日目
山行
4:57
休憩
0:04
合計
5:01
6:46
14
椹島ロッジ
7:00
7:00
11
7:11
7:11
13
7:24
7:24
80
8:44
8:44
40
9:24
9:24
57
10:21
10:25
20
10:45
10:45
24
11:09
11:09
38
11:47
白樺荘
天候 8/10晴れ、8/11晴れ、8/12雨時々霧、8/13大雨、8/14雨のち晴れ
過去天気図(気象庁) 2022年08月の天気図
アクセス
利用交通機関:
電車 バス
8/9(火)新幹線で静岡へ、10時発静鉄バス南アルプス登山線(3160円)で畑薙へ、13時着、14時発東海フォレストの送迎バスで椹島へ、15時着。
8/14(日)林道閉鎖状態にて畑薙白樺荘まで徒歩移動(5時間)。白樺荘より15時発毎日あるぺん号(10,000円)にて東京駅へ、20時30分着。
コース状況/
危険箇所等
中岳と悪沢岳との間のコルから悪沢岳への岩場はストックを仕舞いましょう。丸山から千枚岳への岩場には梯子が架けられ、安全になりました。
その他周辺情報 椹島ロッジ 南ア南部の拠点。風呂やテレビ付きの部屋、レストハウスなど。食事も美味しい。コインロッカー(24時間300円)、夕食付き13,000円
赤石小屋 水場は小屋の前。ティーサーバーでいれた紅茶とチーズケーキ、美味しかった。小屋番さん素敵です。素泊り10,000円
荒川小屋 水場はちょっと遠いけど、晴れていればご来光望めるロケーション。「あるよ」の小屋番さん、親切だった。素泊り10,000円
千枚小屋 水場は小屋の前。乾燥コーナー有って助かった。小屋番さん、帰りの便の相談に乗ってくれた。夕食付き12,000円。
白樺荘 畑薙臨時駐車場から徒歩40分、入浴料510円、休憩室広く、食堂のメニュー少ないが料理は高品質。
もう何度目だろう。静岡駅に降りて見上げるといつも快晴。不思議だ。
5
もう何度目だろう。静岡駅に降りて見上げるといつも快晴。不思議だ。
頼もしき「南アルプス登山線」バス。この大型バスが狭い山道を進んでくれたことに感謝。
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頼もしき「南アルプス登山線」バス。この大型バスが狭い山道を進んでくれたことに感謝。
15時、椹島ロッジ着。山頂には、だんご標識たちは無くなってしまったけど、ここにはいつも。
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15時、椹島ロッジ着。山頂には、だんご標識たちは無くなってしまったけど、ここにはいつも。
椹島の長閑で少しだけ緊張感のある雰囲気が好きだ。
4
椹島の長閑で少しだけ緊張感のある雰囲気が好きだ。
レストハウスで美味しいコーヒーをいただこう。
4
レストハウスで美味しいコーヒーをいただこう。
ロッジの客室はABCの3棟に分かれている。今日は、テレビ、エアコン付きの個室に泊まる。
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ロッジの客室はABCの3棟に分かれている。今日は、テレビ、エアコン付きの個室に泊まる。
8月10日午前5時27分、3泊4日の山旅に出発する。
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8月10日午前5時27分、3泊4日の山旅に出発する。
静かに佇む白簱史朗写真館を横に見て、
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静かに佇む白簱史朗写真館を横に見て、
大倉男爵に挨拶をし、井川山神社に見守られながら登山基地を後にする。
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大倉男爵に挨拶をし、井川山神社に見守られながら登山基地を後にする。
ほどなく赤石岳登山口、期待に胸躍る。
1
ほどなく赤石岳登山口、期待に胸躍る。
登山口から45分経過。赤石小屋までの5分の1を進んだ。
1
登山口から45分経過。赤石小屋までの5分の1を進んだ。
陽の光が射し込む。
2
陽の光が射し込む。
1時間で更に5分の1。
2
1時間で更に5分の1。
樺段を通過する。
1
樺段を通過する。
道は整えられている。
2
道は整えられている。
ボッカ返し区間始まり。
2
ボッカ返し区間始まり。
確かにボッカには厳しい道が続く。
3
確かにボッカには厳しい道が続く。
この標識は正確。
3
この標識は正確。
11時、赤石小屋に到着した。椹島から5時間半、今日はここまで。
11
11時、赤石小屋に到着した。椹島から5時間半、今日はここまで。
雲が晴れ、赤石岳山容を確認する。
9
雲が晴れ、赤石岳山容を確認する。
小屋内部。一人1畳分のスペース。
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小屋内部。一人1畳分のスペース。
チーズケーキと紅茶をいただく。ここは南アルプスの奥深き山小屋です。念のため。
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チーズケーキと紅茶をいただく。ここは南アルプスの奥深き山小屋です。念のため。
小屋食堂より堂々たる姿を眺める。
5
小屋食堂より堂々たる姿を眺める。
16時夕食。いつものように18時には横になる。
7
16時夕食。いつものように18時には横になる。
8月11日午前3時50分出発、富士見平で日の出を迎えられるだろうか。
3
8月11日午前3時50分出発、富士見平で日の出を迎えられるだろうか。
間に合った。日の出前のこの瞬間が好きだ。富士山のシルエットも美しく望める。
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間に合った。日の出前のこの瞬間が好きだ。富士山のシルエットも美しく望める。
赤石岳が色づき始めた。
11
赤石岳が色づき始めた。
荒川岳も目覚める。
12
荒川岳も目覚める。
雲海が広がる。
4時57分、その瞬間が近づく。
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4時57分、その瞬間が近づく。
4時58分。
4時59分。山の日、最初の光。
11
4時59分。山の日、最初の光。
実際に目に映る大きさ。嬉しい。
13
実際に目に映る大きさ。嬉しい。
赤石岳に陽が当たる。この光景は山頂からは見られない。
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赤石岳に陽が当たる。この光景は山頂からは見られない。
染まってゆく。
富士見平、ありがとう。
5
富士見平、ありがとう。
荒川岳は二度寝かな。
6
荒川岳は二度寝かな。
この光景、仙塩尾根を思い出す。
5
この光景、仙塩尾根を思い出す。
遠くから望むとなかなか険しい道に見える。
5
遠くから望むとなかなか険しい道に見える。
カールを詰めて行く。
6
カールを詰めて行く。
稜線に到達、山頂は近い。
8
稜線に到達、山頂は近い。
午前7時37分、赤石岳山頂に立った。
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午前7時37分、赤石岳山頂に立った。
聖岳へと続く稜線。何故か聖岳を撮っていなかった。
7
聖岳へと続く稜線。何故か聖岳を撮っていなかった。
北に目を向ければ小赤石岳、荒川岳。
10
北に目を向ければ小赤石岳、荒川岳。
そしてその先に塩見岳。
11
そしてその先に塩見岳。
再び富士山。静かに浮かぶ。
10
再び富士山。静かに浮かぶ。
山頂避難小屋に向かう。
6
山頂避難小屋に向かう。
小屋の前で休んでいると、台風接近の話が飛び込んできた。3年前の記憶が甦る。あのときも低気圧が急に発達し、いきなり襲ってきた。
8
小屋の前で休んでいると、台風接近の話が飛び込んできた。3年前の記憶が甦る。あのときも低気圧が急に発達し、いきなり襲ってきた。
再びの山頂。椹島への下山を考えたが、計画どおり進むことにした。荒川岳方面へ向かう。
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再びの山頂。椹島への下山を考えたが、計画どおり進むことにした。荒川岳方面へ向かう。
赤石岳山頂からの姿を目に焼き付ける。
7
赤石岳山頂からの姿を目に焼き付ける。
小赤石岳の向こう、激下りが待っている。
10
小赤石岳の向こう、激下りが待っている。
小赤石岳を通過する。
7
小赤石岳を通過する。
荒川三山の雄姿。明日、この天気は望めなくなってしまったが、大荒れではありませんように。
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荒川三山の雄姿。明日、この天気は望めなくなってしまったが、大荒れではありませんように。
遠く荒川小屋を望む。
10
遠く荒川小屋を望む。
大乗寺平が見えてきた。
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大乗寺平が見えてきた。
急なガレ場を越えてゆく。
7
急なガレ場を越えてゆく。
静岡県の突出した部分が、全て東海フォレストの所有であることを改めて知る。
7
静岡県の突出した部分が、全て東海フォレストの所有であることを改めて知る。
再び荒川小屋が現れる。
8
再び荒川小屋が現れる。
10時33分、荒川小屋に到着した。台風の速度がわからず、一気に千枚小屋まで駆けるか迷ったが、疲労の積もった状態で悪沢岳と千枚岳を越える自信がなかった。
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10時33分、荒川小屋に到着した。台風の速度がわからず、一気に千枚小屋まで駆けるか迷ったが、疲労の積もった状態で悪沢岳と千枚岳を越える自信がなかった。
まだ富士山は隠れていない。コーヒーを淹れ、本山行2度目の悠々とした時を過ごす。
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まだ富士山は隠れていない。コーヒーを淹れ、本山行2度目の悠々とした時を過ごす。
昨夜は風雨強く何度か目覚めた。8月12日午前4時40分、荒川岳に向けて出発する。少しでも前進しておきたい。
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昨夜は風雨強く何度か目覚めた。8月12日午前4時40分、荒川岳に向けて出発する。少しでも前進しておきたい。
時折、雲の間から青空が覗く。
5
時折、雲の間から青空が覗く。
お花畑を抜けて行く。
5
お花畑を抜けて行く。
荒川前岳に到着、既に山域は霧に包まれている。計画ではこの先の大崩壊地縁を歩いてみる予定だったが、そのゆとりは無かった。
5
荒川前岳に到着、既に山域は霧に包まれている。計画ではこの先の大崩壊地縁を歩いてみる予定だったが、そのゆとりは無かった。
分岐に戻る。
6時30分、荒川中岳に到達。先を急ぐ。
8
6時30分、荒川中岳に到達。先を急ぐ。
避難小屋が見えてきた。ひっそり静まり返っている。
3
避難小屋が見えてきた。ひっそり静まり返っている。
悪沢岳は雲の中。雨はまだぱらつく程度。幸い風も微風である。
3
悪沢岳は雲の中。雨はまだぱらつく程度。幸い風も微風である。
コルから最後の登りに取り付く。
2
コルから最後の登りに取り付く。
振り返れば赤石へと続く稜線が見える。
7
振り返れば赤石へと続く稜線が見える。
見上げる。最後の登りに取り付く。
4
見上げる。最後の登りに取り付く。
岩場らしい岩場を越えて行く。高度感を覚えることは無いが、ここは疲労困憊で通過する場所ではない。
3
岩場らしい岩場を越えて行く。高度感を覚えることは無いが、ここは疲労困憊で通過する場所ではない。
8時、目的地である悪沢岳(荒川東岳)に到着した。3年前の「思い残し」をはらすことができた。嬉しい。
16
8時、目的地である悪沢岳(荒川東岳)に到着した。3年前の「思い残し」をはらすことができた。嬉しい。
雨が強くなり始めた。急ぎ出発する。
2
雨が強くなり始めた。急ぎ出発する。
ゴーロ帯を進み、千枚岳を目指す。
3
ゴーロ帯を進み、千枚岳を目指す。
丸山を通過する。
2
丸山を通過する。
千枚岳への登り。ハシゴが見える。
3
千枚岳への登り。ハシゴが見える。
お花畑を堪能する余裕、少しはあったが。
4
お花畑を堪能する余裕、少しはあったが。
目に留まった花。
5
目に留まった花。
確かにこのハシゴが無いと下りは厳しいかもしれない。
4
確かにこのハシゴが無いと下りは厳しいかもしれない。
千枚岳に到着した。俄かに風雨が強まった。
12
千枚岳に到着した。俄かに風雨が強まった。
3年前の標柱。このときも降って湧いた台風が迫っていた。
6
3年前の標柱。このときも降って湧いた台風が迫っていた。
360度の眺望は今日も叶わなかった。
4
360度の眺望は今日も叶わなかった。
二軒小屋方向に下りたかった。
2
二軒小屋方向に下りたかった。
10時22分、千枚小屋に到着した。このまま5時間かけて椹島へ下りるか迷ったが、明日荒天になっても樹林帯の下降ゆえ大丈夫だろう。計画どおり留まることにした。
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10時22分、千枚小屋に到着した。このまま5時間かけて椹島へ下りるか迷ったが、明日荒天になっても樹林帯の下降ゆえ大丈夫だろう。計画どおり留まることにした。
久しぶりの山小屋ごはん。品数多く、美味しかった。けれどもその満足感は、衝撃のお知らせで吹き飛ぶ。スタッフが、翌日の林道バス運休を告げて回った。様々な選択肢を思い浮かべ、眠れなくなった。
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久しぶりの山小屋ごはん。品数多く、美味しかった。けれどもその満足感は、衝撃のお知らせで吹き飛ぶ。スタッフが、翌日の林道バス運休を告げて回った。様々な選択肢を思い浮かべ、眠れなくなった。
8月13日午前3時52分、小屋を後にする。雨は強く、行程は長い。憂鬱な時間の始まりだった。
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8月13日午前3時52分、小屋を後にする。雨は強く、行程は長い。憂鬱な時間の始まりだった。
5時30分、ようやく明るくなってきた。
1
5時30分、ようやく明るくなってきた。
6時、清水平の水場に到達。
2
6時、清水平の水場に到達。
飽きてたまらず林道を進む。
2
飽きてたまらず林道を進む。
登山道に戻り、再び林道を渡る。かつて山中で経験したことの無い、激しい雨に打たれていた。
5
登山道に戻り、再び林道を渡る。かつて山中で経験したことの無い、激しい雨に打たれていた。
雷鳴轟く中、吊り橋を渡る。今山行で最も怖い時間だった。
7
雷鳴轟く中、吊り橋を渡る。今山行で最も怖い時間だった。
8時57分、椹島ロッジに到着。乾燥室は、昨日からの停滞組の荷で溢れかえっていた。レストハウスでそばを食べ、宿泊受付を済ましシャワー浴びた。
8
8時57分、椹島ロッジに到着。乾燥室は、昨日からの停滞組の荷で溢れかえっていた。レストハウスでそばを食べ、宿泊受付を済ましシャワー浴びた。
ロッジの夕食は定評どおり美味しく、その後もゆったりとした時間を過ごせた。
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ロッジの夕食は定評どおり美味しく、その後もゆったりとした時間を過ごせた。
8月14日、予報は外れ、雨は降り続いている。林道バスの運行目途が立たないことを受けて、畑薙まで歩くことを決めた。
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8月14日、予報は外れ、雨は降り続いている。林道バスの運行目途が立たないことを受けて、畑薙まで歩くことを決めた。
聖沢登山口を通過する。
2
聖沢登山口を通過する。
赤石ダムの湛える湖は碧色である。雨は上がった。
5
赤石ダムの湛える湖は碧色である。雨は上がった。
出発から3時間、懐かしい畑薙大吊橋の袂に到達した。途中、何台もの自転車とすれ違った。気持ち良さそうだった。
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出発から3時間、懐かしい畑薙大吊橋の袂に到達した。途中、何台もの自転車とすれ違った。気持ち良さそうだった。
沼平ゲート着。昨年の北沢峠から両俣小屋までの林道よりも長く単調な道、よく歩いた。だが、ここであるぺん号を待つわけにはゆかない。温泉に浸かることを夢見て再び歩き始めた。
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沼平ゲート着。昨年の北沢峠から両俣小屋までの林道よりも長く単調な道、よく歩いた。だが、ここであるぺん号を待つわけにはゆかない。温泉に浸かることを夢見て再び歩き始めた。
畑薙第一ダムの湖を見ながらひたすら歩く。
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畑薙第一ダムの湖を見ながらひたすら歩く。
11時47分、距離24km弱の歩行の末、白樺荘にようやく到着した。予定外の行動、予想以上に厳しかった。早く温泉、入ろうっと。
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11時47分、距離24km弱の歩行の末、白樺荘にようやく到着した。予定外の行動、予想以上に厳しかった。早く温泉、入ろうっと。

感想

 3年前、荒川岳を目指した。けれども入山が1日遅く、予想以上に足の速かった台風を前に撤退するほかなかった。翌年、そして次の年、その山域の営業小屋はすべて休業、山行は叶わなかった。
 今年3月、そのほとんどの小屋を管理する企業の発表があった。やっと再挑戦ができる。受付開始の6月1日、必要な宿泊予約を行い、日頃の行いを正して、大人しくその日を待つことにした。よもや再び台風に襲われるとは思わずに。

8月9日(火)椹島へ
 午前9.時、静岡駅に降り立った。1時間後、静鉄バスの南アルプス登山線に乗り込む。快晴、乗客は10名ほど、いつかと同じ出だしに少し不安になったが、3時間のバス旅を楽しむことにした。
 定刻どおり畑薙に到着、東海フォレストの送迎バスを待つ。ヘルメットをかぶり、マイクロバスに身を任せて椹島へ。午後3時過ぎには、個室の中に居た。レストハウスでのんびり読みかけの本を読む、一つ目のイベントをこなした。そして午後8時、横になろうとした時に仕事のメールが飛び込んできた。機内モードにするのを忘れていた。見なかったことにした。

8月10日(水)赤石小屋へ
 天候は晴れ。ロッカーに着替えなどを預け、5時30分に出発した。心配していたとおり体は重く、何度も足を止める。こりゃ先月の男体山どころじゃないな、そう呟きながらゆっくりと進む。今回の山行は、毎日5〜6時間の行程だから慌てることはない。歩荷返しで帰りたくなったが、何とか小屋まで辿り着いた。
 赤石小屋前には、飲料水と手洗水のサーバーが別れて置いてある。コロナ対策は徹底されており、館内は清掃が行き届いている。昼食後、食堂でチーズケーキと紅茶をいただくことになった。女性の小屋番さんは、ティーサーバーでダージリンをいれてくれた。窓からは赤石岳の雄姿が望める。怖いくらいに贅沢な時間に、危うく夕食を忘れてしまうところだった。荷を軽くするためにレトルトから手を付ける。
 いつもどおり18時前に就寝、明日のご来光を祈りながら眠りにつく、はずだった。少しの出遅れが不眠の種になる。隣から地響きのような音がし始めた。一旦気になるともうどうにもならない。しばらくして頭と足を入れ替えたが、結局一晩中悩まされ続けた。

8月11日(木)山の日 赤石岳登頂の日
 そんなこんなですっかり寝不足のまま、3時50分、小屋をあとにする。360度の眺望に恵まれた富士見平で黎明を堪能するにはちょうど良い時間なのである。果たして、その富士見平には4時30分に着くことができた。周囲の山々は未だ眠りについている。ふと東に目を向けると唯一無二の姿が静かに佇んでいる。雲は南に移るに連れ、朱から紫にそして橙に変化していた。間もなく山の日最初の光が射す。あらゆるものに感謝できる、かけがえのない時間が迫っていた。
 とても静かだ。何度体験してもその瞬間を享受できることは、大きな喜びだ。もうあとはどうでも良い、とまでは思わないが、とにもかくにも贅沢な二つ目のイベントは、期待どおりに成し遂げられた。
その後はひたすら赤石岳を見上げながら歩く。一旦下り、急登。余韻は足取りを軽くさせていた。7時37分、赤石岳山頂に立った。いつだったかここに立ったような気がしたが、それはさておき、赤石山脈の盟主から望む富士の姿は美しく、しばらく無心で見つめていた。
 風を避けるために避難小屋の方へ向かう。小屋前には多くの人がいた。なにやら騒々しい。聞けば、急に発達した台風が北上していて、金曜日には関東を直撃するという。まさに青天の霹靂、泣きそうになった。3年前とここまで符合すると、何やら意図を感じざるを得ない。そんなに日頃の行いが悪いのかなあ、ぶつぶつ言っていると、周囲からは、聖は諦めよう、椹島に下りよう、そんな言葉が聞こえ始めた。
 私は、と言えばこののち荒川岳を目指すはずなのだ。きっと、たぶん、徐々に弱気になってゆく。そんなとき、TJARの一番手が現れた。皆拍手を送っている。あまりというか極端に関心が無いのだが、彼がスター選手であることだけは理解できた。そしてこの出来事が私を東へ向かわせた。単純さゆえの気の持ち直しである。
 小赤石岳、大乗寺平を経て、荒川小屋に近づく。まだ10時半、このまま千枚小屋まで足を延ばせば、たとえ台風の到来が早まっても明日の対処がしやすくなる。しかし難所を疲労した状態で乗り越えられるのか、自問自答を繰り返しながら小屋に到着した。すぐに宿泊の手続きを始めた。(なんという、、、)気力、体力を総合的に判断した結果なのさ、自分に言い聞かせながらコカ・コーラを口にしていた。
 昼前にはすでに食堂で本を開いていた。まだ富士山は眼前に佇んでいる。本日の贅沢な時間、台風のことなど忘れかけていた。それでも、どう見ても「あるよ」の田中要次にしか見えない小屋番に、「来ますかねえ?」不安そうに尋ねる。「来るよ」と言われそうだったので「やっぱりいいです」寝床へ戻る。
 15時40分、コーヒーを淹れるが、薄く、失敗した。続いてコーンスープとクリームシチューで夕食、食料を使いきった。明日の荒天に備え、17時には横になった。

8月12日(金)荒川岳登頂の日
 夜半、風雨強く、何度か目が覚めたが、体力は回復したようだった。4時前から動き始める。雨はまあまあ降っている。できるだけ進んでおきたかった。4時45分出発、昨日と違って森林限界以上だからすぐに明るくなる。お花畑で追いついた女性は、三伏峠に向かうと言う。この雨の中、あの大崩壊地縁を通って一気に鳥倉まで行くの?今年も只者じゃない女性と出会った。
 やがて雨は小降りになったが、霧は晴れない。前岳、中岳を通過し、悪沢岳に迫った。予想どおりの岩場だった。乾いていても緊張を強いられるが、この状態だと難易度は少し上がるな、やけに余裕がある。もはや高齢者、ニュースにならないよう気を付けなければならない。
 8時、悪沢岳山頂に立った。今山行の目的地である。昨年の農鳥岳のように、「3000メートルの静寂」は叶わなかったが、それでも3年越しの登頂は感慨深かった。計画ではコーヒーを淹れることになっていたが、この天候では致し方ない、千枚に向かおう。
 丸山から千枚岳への間に存在する、垂直の壁にはハシゴが架けられていて、難易度はDからB程度にまで下がっているように思えた。千枚岳到着の頃、俄かに雨足が強くなった。思えば、3年前は左回りで歩いていたから、ここで引き返したのだった。今から思えば、あのときの悔しさなんて大したものじゃないが、「思い残し」はその後の原動力には成った。
 千枚小屋には、10時20分頃に着いたが、続々と登山者が到着していた。団体の飛込みもあって館内はほぼ満員になったようだった。乾燥コーナーは、みるみるうちに雨具でいっぱいになった。17時前に夕食。久しぶりの山小屋ご飯は美味しかった。
 それからしばらくして、小屋のスタッフから衝撃の言葉が発せられる。明日の送迎バスの運休が決まったと。とうとう椹島停滞。14日の動き方を考えているうちに眠れなくなってしまった。

8月13日(土)下山
 3時20分に起き、4時5分に出発した。雨天の樹林帯、なかなか明るくならないが、道は明瞭、なんといってもこの道は3度目だ。雨は徐々に強まり、清水平に到着する頃には本降りになった。さらに遠くでは雷鳴が轟く。存在感のある岩場を乗り越えるが、ここからが長い。最後の1時間半は、わき目も振らずひたすら歩いた。林道へとつながる吊り橋は、稲光のあとすぐに駆け抜けた。今山行で最も怖い時間だった。
 椹島ロッジには、コースタイムどおり9時に着いた。昨日からの連泊組が多く、乾燥室には既に雨具とザックが所狭しと並んでいた。ロッカーに預けていた荷を取り出し、レストハウスで山菜そばを食べながら下山届、新幹線のキャンセル、あるぺん号の予約などを行った。
 宿泊手続きをした後、シャワーを浴びる。最もゆったりと、安堵に満ちた時間が始まった。登山をし、無事に下山し、独りの時間が得られたことに感謝した。17時夕食。品数多く、定評どおりの美味しさだった。

8月14日(日)畑薙へ
 予報に反して強めの雨が降っている。送迎バスの運行見通しは立たず、夕べから考えている、畑薙までの6時間歩行を敢行することにした。6時45分発、林道をひたすら歩く。24キロメートル弱はやはり長かった。途中、大吊橋やダム湖を見ながら少しは気が紛れたが、単調な歩きは、昨年の両俣とは比べようにもならない。
 雨は完全に上がって、強い日差しを受けている。結局、白樺荘には5時間後に到着した。珍しくまめが3ヶ所できている。一刻も早く温泉に浸かりたかった。
 入浴後、予想外(失礼)に旨いカツカレーを食べてから休憩室で横になった。交通手段は、東京への直通バス、静岡へのバス、乗合タクシー、そして井川地区自主運行バスの4通りあったが、様々な理由から最も窮屈な直通バスを選ばざるを得なかった。
 今年も夢のような時間を過ごせた。怪我も無く、心が折れることも無く、苦しさと楽しさに満ちた6日間だった。また来年もこんな日々が訪れるだろうか。マスクを付けながらふと考えてみた。

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3年越しの登頂おめでとうございます!kimichin2さんの山行はいつも確実性が高くて本当に素晴らしい山登りだと思って拝見しています。山に臨む気持ちと状況状況で自分に向き合って自問自答する姿が登山者のお手本というか、そういう部分も準備も全て含めて登山という事をいつも勉強させてもらえてる感じがします。
実はお盆休みは私も悪沢岳を第一候補で準備をしていました。行けていたらバッタリお会いできたのかな〜、と思うと台風を恨みます。。。
でも代わりに素晴らしい絶景をkimichin2さんの写真で堪能させていただきました(^^)ありがとうございました!本当に素晴らしい旅、お疲れさまでした!
2022/8/17 13:38
悪沢岳でお会いしたかった。harubo33さんの「雄姿」が見たかった。
いつも様々なスタイルの山行レコを拝見し、凄いなあ、楽しそうだなあと思っています。
ruhasamanさんと共に歩かれているだけでも尊敬に値しますし、お子さんやわんことのほのぼの歩きを見ているだけで癒されます。

今回の登山では、様々な場面で自身の現在の能力を思い知りました。
トレーニングは続けていますが、加齢と共に徐々に体力が失われてゆきます。
過信せず、当たり前のように下山できるよう気を付けてゆきます。
優しいコメントをありがとうございました。
2022/8/17 19:21
kimichin2さん、こんにちは

レコ拝見し、7年前の2015年8月に同じコース(時計回り)を死ぬ思いで縦走したときの記憶が蘇りました。

(*)初日、畑薙に自家用車で入山したものの、体調が芳しくなく、翌朝静岡の市街地に戻り、内科の診察を受け、風邪薬を処方してもらい、同じ日の夕方、再び畑薙に戻ったこと
(*)天候が悪く、荒川小屋で連泊したこと
(*)千枚岳の西側の岩場は当時はハシゴがなく、ここを下りで通過する人はすごい、と思ったこと
(*)自家用車のキーが見当たらなくなり、畑薙までバスで下山したのち、再び椹島まで往復、復路のバスがなかったので夜道を20キロ畑薙まで歩いてもどったこと

体力的にも精神的にもギリギリ、本当によくぞ無事に下山できた、というような山旅でした。

赤石岳山頂で、台風来週の報を耳にされ、そのまま縦走されたとのこと。当時の私は悪天予報でも縦走続行しましたが、今の私だったら台風と聞いただけで、赤石岳から椹島に一目散に下山したと思います。年齢を重ね、慎重(言い換えると臆病)になりました。

ともあれ、無事のご帰還なによりでした。お疲れさまでした。
2022/8/19 13:04
toshishunさん
そうでした。
7年前、私も聖岳に登っていて、ちょうど同じ頃、臨時駐車場に居ました。
それで当時、toshishunさんからコメントをいただいたのを覚えています。
苛酷な山行だったのですね。

今回は、3年前台風で撤退した山行の再挑戦だったこと、赤石岳で耳にした情報の真偽が定かでなかったことなどから、続行しました。
慎重派の私にしては少し「大胆」だったかもしれません。
自身の体力や経験を過信せず、これからも安全な登山を心がけようと思います。
コメントをありがとうございました。
2022/8/19 14:41
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