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Yamareco

記録ID: 5830434
全員に公開
無雪期ピークハント/縦走
槍・穂高・乗鞍

天狗池-南岳-中岳-大喰岳 〜原点への旅〜

2023年08月12日(土) 〜 2023年08月14日(月)
 - 拍手
体力度
8
2〜3泊以上が適当
GPS
21:58
距離
50.7km
登り
3,141m
下り
3,515m
歩くペース
標準
1.01.1
ヤマレコの計画機能「らくルート」の標準コースタイムを「1.0」としたときの倍率です。

コースタイム

1日目
山行
4:04
休憩
1:01
合計
5:05
6:01
6:01
13
6:14
6:14
32
6:46
6:50
5
6:55
6:55
37
7:32
7:32
15
7:47
7:48
43
8:31
9:20
2
9:22
9:22
40
10:02
10:03
10
10:13
10:19
7
10:26
10:26
35
2日目
山行
6:10
休憩
0:48
合計
6:58
4:37
32
5:09
5:09
33
5:42
5:42
53
6:35
6:42
62
7:44
8:14
161
10:55
11:05
23
11:28
11:29
6
11:35
3日目
山行
8:01
休憩
1:45
合計
9:46
4:35
6
4:41
4:41
17
4:58
4:58
66
6:04
6:17
31
6:48
6:48
16
7:04
7:17
53
8:10
8:19
82
9:41
10:19
49
11:08
11:19
1
11:20
11:20
80
12:40
12:46
37
13:23
13:37
29
14:06
14:07
14
天候 8/12 快晴
8/13 快晴〜霧
8/14 霧雨〜晴れ
過去天気図(気象庁) 2023年08月の天気図
アクセス
利用交通機関:
電車 バス
8/11 竹橋発22:30(あるぺん号新穂高行き、14200円)
8/12 上高地バスターミナル着5:20
8/14 新穂高ロープウェイ発14:55(濃尾バス、910円)平湯温泉着15:35(後泊)
8/15 平湯温泉発15:25(あるぺん号東京駅行き、9000円)新宿駅着20:35
コース状況/
危険箇所等
天狗池〜天狗原分岐(稜線上)
グレーディングの情報が無く、今の体力で登りきれるか心配だったけど何とか。ザイテングラートよりも長く険しいと思う。ちなみに1975年刊の「アルパインガイド」で☆2つ(表銀座も☆2つ、大キレット縦走が☆3つ)。
南岳〜中岳
鎖の無い巻きが1箇所。足場しっかりしているけど、雨で濡れているときは要注意。
その他周辺情報 槍沢ロッジ バスクチーズケーキが美味しかった。コーヒーとセットで1000円。
南岳小屋 仕切りやカーテン、換気など、配慮が感じられた。中華主体の夕食は美味しかった。(大満足)
穂高平小屋 かき氷が美味しかった。(生き返った)
ひらゆの森 日帰り利用はあるが宿泊は初めて。(シングルルーム、12800円)宿泊者専用の内風呂は、露天風呂と共に夜通し入れる。夕食は飛騨牛の鉄板焼き、岩魚の塩焼きなど、美味しかった。
予約できる山小屋
槍平小屋
定刻どおり5:20に上高地着。想像を上回る人の数に驚く。6時少し前に出発。
4
定刻どおり5:20に上高地着。想像を上回る人の数に驚く。6時少し前に出発。
河童橋と穂高連峰に感謝!
8
河童橋と穂高連峰に感謝!
振り返って焼岳。
5
振り返って焼岳。
小梨平を抜け、明神を目指す。
上高地を出発する登山は何十年ぶりだろう。
1
小梨平を抜け、明神を目指す。
上高地を出発する登山は何十年ぶりだろう。
早くも明神岳の岩壁に魅了される。
5
早くも明神岳の岩壁に魅了される。
梓川の清流は変わらず美しい。
3
梓川の清流は変わらず美しい。
6:50明神通過。すこぶる体調がいい。
3
6:50明神通過。すこぶる体調がいい。
徳沢園のテント場はいつものように賑やか。
2
徳沢園のテント場はいつものように賑やか。
コーヒーを飲もうか迷ったが、横尾で時間調整することにした。
1
コーヒーを飲もうか迷ったが、横尾で時間調整することにした。
新村橋は架け替え中。、
2
新村橋は架け替え中。、
前穂高岳北尾根。
3
前穂高岳北尾根。
8:30、横尾に到着。 なんだかんだ言って2時間半で着いてしまった。
喫茶は10時から。何しよう。
3
8:30、横尾に到着。 なんだかんだ言って2時間半で着いてしまった。
喫茶は10時から。何しよう。
眺めているうちに横尾橋を渡る衝動に駆られる。
4
眺めているうちに横尾橋を渡る衝動に駆られる。
電波が通じていて助かった。
無事50分の時間調整を終え、槍沢に向かう。
2
電波が通じていて助かった。
無事50分の時間調整を終え、槍沢に向かう。
梓川本流を遡る。
1
梓川本流を遡る。
一の俣通過。
二の俣通過。
11時、槍沢ロッジに到着。
コーヒー飲もうっと。
3
11時、槍沢ロッジに到着。
コーヒー飲もうっと。
コロナ禍で談話室を転じた大部屋。
2
コロナ禍で談話室を転じた大部屋。
バスクチーズケーキセットをいただく。美味しかった。
8
バスクチーズケーキセットをいただく。美味しかった。
明日のコースに悩み、ウトウトしているうちに夕食の時間となった。
5
明日のコースに悩み、ウトウトしているうちに夕食の時間となった。
8/13 4時半、小屋を後にする。天狗原経由で向かうこと、未だに迷っている。
1
8/13 4時半、小屋を後にする。天狗原経由で向かうこと、未だに迷っている。
ババ平野営地を通過。身体重く、息は上がったままだ。
3
ババ平野営地を通過。身体重く、息は上がったままだ。
前衛のやまなみに朝陽が当たる。
4
前衛のやまなみに朝陽が当たる。
乗越沢を渡る。
中岳、大喰岳の稜線が輝く。
6
中岳、大喰岳の稜線が輝く。
中ノ沢を渡る。
運命の天狗原分岐。
どうしても無理そうだったら引き返してロッジに連泊してやるさ。
4
運命の天狗原分岐。
どうしても無理そうだったら引き返してロッジに連泊してやるさ。
そろそろ見えてくるはずだけど。
4
そろそろ見えてくるはずだけど。
7:04、ご対面。
こちらからの貴方は、傾かず美しい。
待っていてください。
11
こちらからの貴方は、傾かず美しい。
待っていてください。
威風堂々。
この道からでしか見られない姿に感動。
10
威風堂々。
この道からでしか見られない姿に感動。
東鎌尾根の全容。
2
東鎌尾根の全容。
常念岳はたおやかに。
3
常念岳はたおやかに。
出発後3時間、天狗池は唐突に現れた。
2
出発後3時間、天狗池は唐突に現れた。
池の反対側へ。
均整の取れた姿に見とれてしまう。
4
均整の取れた姿に見とれてしまう。
逆さ槍に感謝!
天狗池ありがとう。
2
天狗池ありがとう。
あとでまた会いましょう。
2
あとでまた会いましょう。
天狗原をあとにする。
いよいよだ。
1
天狗原をあとにする。
いよいよだ。
先行者と尾根。
東鎌尾根から続く表銀座の山々。
大天井岳も燕岳もはっきり望める。
3
東鎌尾根から続く表銀座の山々。
大天井岳も燕岳もはっきり望める。
北穂高岳、前穂高岳、見ていてください。
このコース、眺望抜群だ。
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北穂高岳、前穂高岳、見ていてください。
このコース、眺望抜群だ。
先が見えない。
無心、細心。
1
先が見えない。
無心、細心。
下は見えるけど。
ここから先の急勾配と痩せ尾根に参った。
3
下は見えるけど。
ここから先の急勾配と痩せ尾根に参った。
鎖場、はしごはまだでしょうか。
3
鎖場、はしごはまだでしょうか。
ようやく2連のはしごが現れた。
疲労困憊だからこの方が助かる。
6
ようやく2連のはしごが現れた。
疲労困憊だからこの方が助かる。
10:57、稜線に到達。
倒れることにしていた。
久しぶりの達成感とともに。
5
10:57、稜線に到達。
倒れることにしていた。
久しぶりの達成感とともに。
たどったルートと続く横尾尾根。
3
たどったルートと続く横尾尾根。
中岳、大喰岳、そして槍様。
明日の3000m稜線歩き、楽しみだ。
6
中岳、大喰岳、そして槍様。
明日の3000m稜線歩き、楽しみだ。
南岳にガスが迫っている。
2
南岳にガスが迫っている。
11:27、今山行最初の山頂、南岳3032.9m、第17位に立つ。
5
11:27、今山行最初の山頂、南岳3032.9m、第17位に立つ。
南岳小屋と獅子鼻展望台を見下ろす。
1
南岳小屋と獅子鼻展望台を見下ろす。
南岳小屋に到着した。
ゴクリとコカ・コーラを続けて飲み干した。
5
南岳小屋に到着した。
ゴクリとコカ・コーラを続けて飲み干した。
この向こうに大キレットがいる。
1
この向こうに大キレットがいる。
ソーラーパネルを乗せた小屋。
2
ソーラーパネルを乗せた小屋。
獅子鼻展望台からの大キレット。
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獅子鼻展望台からの大キレット。
定員3名の部屋。
今日の同宿者は5名だった。
3
定員3名の部屋。
今日の同宿者は5名だった。
雲を眺めているうちに、
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雲を眺めているうちに、
夕食の時間。
とても美味しかった。
6
夕食の時間。
とても美味しかった。
8/14 昨日同様、4時半に小屋を出る。
1
8/14 昨日同様、4時半に小屋を出る。
南岳山頂。
とてもご来光どころでない。
1
南岳山頂。
とてもご来光どころでない。
昨日の天狗原下降点が近づく。
そろそろ夜明けの時間だ。
1
昨日の天狗原下降点が近づく。
そろそろ夜明けの時間だ。
緊張した区間を過ぎて振り返る。
やや高度感あり、だった。
2
緊張した区間を過ぎて振り返る。
やや高度感あり、だった。
中岳の向こうに見えるはずなのに。
3
中岳の向こうに見えるはずなのに。
このあたり晴れていれば気持ち良さそうだ。
1
このあたり晴れていれば気持ち良さそうだ。
鳴き声に立ち止まると、目の前に雷鳥がいた。感謝!
まわりには3羽の子たちがひょこひょこ歩いている。
8
鳴き声に立ち止まると、目の前に雷鳥がいた。感謝!
まわりには3羽の子たちがひょこひょこ歩いている。
眺望が利かないかわりのご褒美かな。
元気が出てきた。
6
眺望が利かないかわりのご褒美かな。
元気が出てきた。
6:09、中岳到達。標高3084m、第12位。
霧雨は本降りに変わりつつあり、風も強くなってきた。
3
6:09、中岳到達。標高3084m、第12位。
霧雨は本降りに変わりつつあり、風も強くなってきた。
山頂直下の2連はしごを下りてから見上げる。
3
山頂直下の2連はしごを下りてから見上げる。
中岳から40分を経て大喰岳に着く。標高3101m、第10位。
3
中岳から40分を経て大喰岳に着く。標高3101m、第10位。
7:04、飛騨乗越に到着。
台風7号は本州上陸目前、とにかく高度を下げるべし。
3
7:04、飛騨乗越に到着。
台風7号は本州上陸目前、とにかく高度を下げるべし。
8時前、標高2700mまで下りてきた。
1
8時前、標高2700mまで下りてきた。
飛騨乗越から1時間、千丈分岐点通過。
2
飛騨乗越から1時間、千丈分岐点通過。
虹出ないかな、と思っていたら眼前に現れた。
8
虹出ないかな、と思っていたら眼前に現れた。
抜戸岳を背景にくっきりと映る。
美しい虹に感謝!
9
抜戸岳を背景にくっきりと映る。
美しい虹に感謝!
奥丸山への分岐通過。
1
奥丸山への分岐通過。
槍平小屋に着いた。
南岳小屋を出発後5時間10分、休憩時間を除けばコースタイムより早いが、このままさらに3時間半を歩けるだろうか。
2
槍平小屋に着いた。
南岳小屋を出発後5時間10分、休憩時間を除けばコースタイムより早いが、このままさらに3時間半を歩けるだろうか。
40分の間に、天気情報を得て、体力・気力と相談し、平湯温泉の宿に電話し、小屋泊りを中止した。
小屋の方々も今日中の下山を勧めてくれた。
2
40分の間に、天気情報を得て、体力・気力と相談し、平湯温泉の宿に電話し、小屋泊りを中止した。
小屋の方々も今日中の下山を勧めてくれた。
先ずは南沢を渡る。
1
先ずは南沢を渡る。
滝谷のライブカメラの台風養生をしている槍平小屋の方。
出発前からメールで相談に応じてくれた方に感謝。
2
滝谷のライブカメラの台風養生をしている槍平小屋の方。
出発前からメールで相談に応じてくれた方に感謝。
計画では、槍平小屋に宿泊後、滝を間近に見て、岩壁を見上げてから下りることにしていた。
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計画では、槍平小屋に宿泊後、滝を間近に見て、岩壁を見上げてから下りることにしていた。
滝谷よ。Sよ。
またいつか会いに来る。
6
滝谷よ。Sよ。
またいつか会いに来る。
しっかりとした橋が架けられている。
ありがたいことだ。
3
しっかりとした橋が架けられている。
ありがたいことだ。
白出沢出合。
このあたり、最も厳しかった。
1
白出沢出合。
このあたり、最も厳しかった。
林道始まり、白出コルへの分岐を通過する。
1
林道始まり、白出コルへの分岐を通過する。
槍平小屋から3時間、穂高平小屋に着いた。
氷の文字に吸い寄せられる。
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槍平小屋から3時間、穂高平小屋に着いた。
氷の文字に吸い寄せられる。
今山行で最も貴重な食べ物になった。
気力を取り戻して最後の50分に臨む。
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今山行で最も貴重な食べ物になった。
気力を取り戻して最後の50分に臨む。
14:22、南岳小屋を出てから9時間50分、新穂高に着いた。
標高差およそ2000mの下り、24kmの歩程、我ながらよく歩いた。
6
14:22、南岳小屋を出てから9時間50分、新穂高に着いた。
標高差およそ2000mの下り、24kmの歩程、我ながらよく歩いた。
後泊の宿「ひらゆの森」の宿泊者用内風呂。
飛騨牛を堪能し、深夜の露天風呂で夜空を見上げる。
登山の醍醐味が凝縮された3日間だった。
10
後泊の宿「ひらゆの森」の宿泊者用内風呂。
飛騨牛を堪能し、深夜の露天風呂で夜空を見上げる。
登山の醍醐味が凝縮された3日間だった。

感想

 槍ヶ岳から南岳に連なる稜線は、以前から歩いてみたいと思っていた。槍ヶ岳に登頂するか、西鎌尾根を経由するか、南岳新道と天狗原どちらを下山コースとするか、幾つかの組み合わせを考え、決められずにいた。
 コロナ禍以降、山小屋は他の宿泊施設同様に予約制(それ自体大歓迎されることなのだが)となったから、その予約の成否により日程やコースが左右される。どうしても複数の計画を立てておく必要があった。そしてそれは、ここ数年、突然現れ脅かされてきた「台風への備え」でもあった。
 台風6号の進路を気にしているうちに、7号の北上が確実となり、直前に計画変更、出発を早めることにした。13日夜行を11日に前倒し、往復のバス、山小屋の予約を取り直す。結局、このことが最終的にコースを決定づけることとなった。あとは自転車なみの速度が自動車なみに変わらぬよう祈るばかりである。

8月12日 上高地から槍沢へ
 早朝の上高地バスターミナル、想像以上に多くの人が出発準備を行っていた。バスは続々と到着している。天候はこの上なく良好。今日は4時間の歩程、のんびり行動すれば良い。東京駅の地下で買ったパンをかじった。
 河童橋の手前から穂高連峰を望む。瞬く間に魅了されてゆく。早くも夢の中にいた。小梨平を経て明神へ。すべてが順調。意識的にゆっくりと歩くことをやめ、マイペースで進むことにした。徳澤園到着後、時間調整を行うかどうか迷ったが、とりあえず横尾まで行くことにした。梓川の美しく変わらぬ姿に見とれながら4日間の無事を願った。
 横尾には8時半に着いた。十字路、多くの登山者がそれぞれの目的地に向かい出発している。まだ電波受信可能、天気や登山道情報について確認を行った。台風のコース、速度に変化は無い。50分後、槍ヶ岳に向かって動きだした。
 強い日差しを木々が遮ってくれている。沢水の冷たさを確認する。体調はすこぶる良く、小屋がもう少し上部にあってほしいなどと思いながらゆっくりと歩いた。
 槍沢ロッジには11時に到着、宿泊の手続きを済ませてからケーキセットを注文した。街中で食べても十分に美味しいと思える逸品だった。寝不足でもなく、疲労も感じていない。横になる気にもなれず、訪れるコースの掲載されている雑誌を読んだり、木々をぼんやりと眺めたりしながら時を過ごした。

8月13日 天狗原から南岳へ
 ご来光の望めない立地であったが、4時半には小屋を出た。今日も天気は良好、道は明瞭だが、肝心の体調が全く優れない。ババ平で夜明けを迎えたのち、二つの沢を横切って進むも、息は上がったままだった。
 天狗原への分岐点には、出発2時間後に着いた。未だに稜線までの急な痩せ尾根を心配している。下ってきた方におそるおそる訊いてみた。「あそこを登る気にはなれないなあ。ザイテングラートよりも厳しいと思いますよ」はっきり言う人だ。まあ無理そうだったら引き返してロッジに連泊すればよい。そう思うことにして先を急いだ。
 急いだ理由はいくつかある。極上の天候は昼過ぎに崩れるだろうこと、急登にできるだけ時間をかけたいこと、そして天狗池でなるべく多くの時間を過ごしたかったからだ。
 分岐からほどなくして振り返ると、槍の穂先が見えた。嬉しい。この方向からの姿は均整が取れていて美しい。堂々とした姿に、初めて見たときの衝撃を思い出す。明日、48年ぶりに登るのだ。叶うだろうか。
 7時45分、天狗池に到着、すぐに逆さ槍と対面した。風は無く、期待どおりに映っている。感謝し、長い間立ち尽くした。
 やがて出発の時間は訪れる。ちょうど下りてきた女性二人に同じ問いを投げかけた。「危険はありません。大岩の間に落ちないよう気を付けていました」途端に気が楽になった。今日の歩程標高差は1200メートル、何とかなるだろう。
 天狗原、別名氷河公園は、氷河が生み出したモレーンであり、いったいどこから来たかと思える大岩が点在している。もう少し若かったら岩の上をぴょんぴょん跳ねながら登れるのに。ストックを駆使して慎重に歩を進める。コルまで体力を温存しなければならなかった。
 表銀座の山々も北穂も前穂も青空によく映えていた。時折、立ち止まり眺望を楽しんでいたが、背に強い日差しを受け、徐々に勾配の大きくなる斜面にそれも叶わなくなっていった。痩せ尾根に取りつく頃には、疲労は極まり、無心で手足を動かすこととなった。
 早くしないと稜線からの眺望が望めなくなってしまう。ようやく現れたはしごに安堵しながら最後の登りを詰めた。そして稜線に達したとき、久しぶりに大きな達成感を得た。しばらく呆然としていた。
 槍ヶ岳に挨拶をしてから稜線を南下する。南岳に着く頃にはすっかりガスに包まれていた。お目当ての穂高連峰は望めそうもない。小屋に向かう。
 11時35分、南岳小屋ではまだ布団干しの時間だった。大キレットの展望台、獅子鼻に向かうことにした。かろうじてその威容を視界に収めることができたが、北穂高岳は霧の中にいた。
 半世紀近く前のその日、槍ヶ岳山頂から初めて穂高を見たときに、私は山の虜になった。いつかここから前穂高岳まで通しで歩いてみたい、そう思っていた。結局、縦走は果たせなかったが、槍穂高連峰は私にとって原点であり、何物にも代えがたい存在なのである。
 17時からの夕食後、はるか彼方の記憶を手繰り寄せ、心地よい眠りについた。

8月14日 縦走、下山
 4時前に目覚め、予報どおり霧に包まれていることを知った。南岳山頂からのご来光は望めそうもないが、場合によっては今日の歩程は長丁場になる。昨日同様、4時半に出発した。3000メートルの稜線を槍ヶ岳目指して北上する。視界は閉ざされ風も強くなった。自然に足取りが速くなる。
 天狗原下降点を通過して間もなく、大岩を巻くトラバース道にかかる。霧雨に濡れた足場に細心の注意を払い、何とか乗り切った。
 雨脚が強くなり、雨具を取り出そうと立ち止まったその先に雷鳥の親子がいた。親鳥はペンキマークの上で動かず、その下をひな鳥3羽がひょこひょこ歩いていた。その可愛さは、天候の悪さを帳消しにしてくれた。
 中岳への登りは、予想よりもはるかに手ごわかったが、7時過ぎには山頂に到達した。10分あまりの休憩の間に、槍ヶ岳への登頂を断念し、早い時間に槍平小屋に向かうことを決めた。台風による天候悪化が明らかな今、迷いは全く無かった。
 山頂直下の2連はしごを下り、大喰岳に進む。今山行の最高点となった場所でここまでの無事を感謝し、下山を開始した。飛騨乗越で西進に転じ、つづら折りに下ってゆく。出発から3時間が経過していたが、疲労は感じていなかった。
 やがて雨は上がり、眼前に虹が現れた。抜戸岳を背景にくっきりと浮かび上がっている。雷鳥、虹との出会いは悪天候によるもの、稜線からの眺望は得られなかったが、それに見合う幸運に恵まれた。
 そこから槍平までの1時間半は短く感じられた。予定どおり槍平小屋に泊まり、翌日ゆっくりと新穂高を目指すのか、このまま一気に下山し、平湯温泉に宿泊、翌日予定どおりのバスで帰るのか、悩んでいたせいかもしれない。
 結局、槍平小屋での40分の休憩後、今日中に下山し、沢の増水による停滞を回避することにした。問題は、すでに5時間あまり歩いていること。さらに3時間半を歩く自信が無かった。気力で歩き続けるしかない。意を決し小屋を出発した。
 計画では、滝谷出合から雄滝近くまで入り、岩壁をより近くで望むことにしていた。今はそれどころではない。友との対話はいずれまた企図すればよい。橋を渡った。
 白出沢分岐からは林道が始まる。疲労困憊の体には、林道歩きの方が助かる。惰性で無心で歩を進めた。穂高平小屋は、残り1時間の位置に建つ。氷の文字に釣られ、かき氷をいただいた。正解だった。ゴールまでの最後の力を得た。
 新穂高温泉駅に着いたとき、標高差2000メートル、歩程24キロメートルに相応しい疲れは感じられなかった。1時間後の楽しみに思いが及んでいたからかもしれない。3泊目は期せずして後泊となったが、山旅の醍醐味が凝縮された4日間になるだろう。原点への旅は、始まりの旅になった。

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コメント

kimichin2さま、久しぶりの大山行お疲れさまでした!天狗原経由のルートは私も長年憧れていて、いまだに実現出来ていないので興味深く拝読させていただきました。逆さ槍がこんなにバッチリ見られるタイミングで登られたのが羨ましいです。槍沢ロッジから早立ちすると雲が湧く前に見れる可能性が高いという点も大変参考になりました。
天気が崩れなければ、お付き合い登山で大喰岳〜南岳をまた近々歩く機会がありそうなのですが、残念ながら天狗原は企画すらありません。kimichin2さんのレコをお気に入りにさせていただいて、いつか実現するその時まで温めておこうと思っております。いつもステキなレコをありがとうございます😊
2023/8/18 7:28
ハルボーさん
こんにちは。
あのエリアでハルボーさんの行ってない場所があるのですね。
雪解けに気をつけてぜひ訪れてみてください。
コース取りに最後まで悩んだ山行でしたが、様々な出会いがあって結果的に良かったと思ってます。
ハルボーさん、これからも気をつけて。楽しいレコを待ってます。
2023/8/18 12:21
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無雪期ピークハント/縦走 槍・穂高・乗鞍 [3日]
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技術レベル
5/5
体力レベル
5/5
無雪期ピークハント/縦走 槍・穂高・乗鞍 [2日]
上高地から横尾経由槍ヶ岳ピストン!
利用交通機関: 車・バイク
技術レベル
2/5
体力レベル
4/5
無雪期ピークハント/縦走 槍・穂高・乗鞍 [2日]
新穂高〜上高地
利用交通機関: 車・バイク、 電車・バス
技術レベル
3/5
体力レベル
5/5

この記録で登った山/行った場所

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