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登山口からついてきちゃったイノシシ(名前:イノキチ)は、我々の作戦によって、下山する人について降りて行ったが、昼ご飯(チーズフォンデュ)を食べようとした時に、後から上がって来た登山者にくっついて、また上がってきてしまった。山頂の登山者達はパニック気味。後からきた登山者は我々を差し、我々のせいにする。さてどうなる!?
〜
前編はこちら
http://www.yamareco.com/modules/diary/36225-detail-113767
中編はこちら
http://www.yamareco.com/modules/diary/36225-detail-113898
自分はインドへ長く一人旅をしたことがあるが、インド人とのお金のやり取りの中で学んだことがある。
インドのお金は少額でもコインでなく紙幣なのだが、なにせああいう国なので、古びたものが多く、中にはほとんどぼろ切れのような穴の空いたお札が存在する。しかしこれは通貨として通用せず支払いの時に受け取ってもらえない。まあ言ってみれば『ババヌキのジョーカー』みたいなもんだ。
じゃあ、そういうお札を受け取っちゃったらどうするのかというと、支払いの時に綺麗なお札の間に挟んで見つからないように祈りながら渡すのである。相手が気づかずに受け取れば大成功。そんなトランプみたいなことをインド人みんなでやっているので、ボロ札は全土を回っているのだが、そこには大切な教訓がある。それは『受け取った方が悪い』ということだ。
そんなインド式モラルのもと、イノキチが他の登山者のごはんに気を取られている間に我々はスタコラサッサと退散することにした。「こいつ連れて帰れー」目玉をひんむいて嫌味をいうジイさんもいたが、無視して下山路を下りてしまった。というか別に自分達が悪い訳でもないし。調理をしている人もいなかったので大きな問題もなかっただろう。たぶん。
しかし『登山をやる人に悪い人はいない』などというが、本当?。イノシシがまとわりつくだけでこうもカッコ悪い本性を晒すものなのか。あ!人のこと言えないか。
しばらく下ると、丁度良い広場があったのでザックを降ろし、ようやくチーズフォンデュにありつけた。もうお腹がペコペコである。あやゆくシャリバテになるところだった。
しかしトンデモない1日であった。動物とのふれあいと言えば聞こえがいいが、まわりをも巻き込んだ大騒動だ。『ムツゴロウさんやナウシカ』はよくやっているものだと思う。
”無事”食事も済んだ頃だった。突然後ろからおばちゃんの鋭い声がかかる「そっち行ったわよ!!」
「えっ!?」
と振り返ると、なんとイノキチが嬉しそうに迫ってきていた。しかも口には見たこともないような『極太のミミズ』をくわえている。ミミズは苦しそうにピチピチ動いているので、そんなんで迫って来られるのはかなり気持ち悪い。
「お前自分で餌探せんじゃねーか!」
というツッコミを入れる間もなく、慌てて片付ける。
どうやらイノキチについてこられた下山者が我々と同じ道を下って来たようだ。その途中『元同胞』である我々を発見し、喜んで駆けてきたのである。かくしてまた2人+1匹のパーティーが最結成されたのであった。
ところで今回の計画は、登山口が笹子だったのに対して下山口は初狩だったのだが、こいつは縄張りの外に出てないのだろうかとちょっと心配になってきた。
ここで私はイノシシの声というのを初めて聞いた。「キュ〜〜」と可愛らしい声で鳴くのだ。初めは鳥の声かと思ったが、イノキチから発せられていることに気づいた時は意外だった。
ただ、降れば降るほど、この「キュ〜〜」の回数が増えていき、後ろからド突いてくる回数も増えてきた。スピードを上げて引き離そうとするも、ジグザグの登山道では、四つ足のイノキチは直線で下りてくるので、すぐに追いつかれてしまう。
試しに前を歩かせたらどうだろうとわざと先行させてみたが、「キュ〜」と言って後ろに回ってしまった。
このままだとかなりまずい。こちらもまずいがひょっとするとこいつも笹子に帰れなくなってこいつも不安なんじゃないか・・・
相棒が『お花摘み』をしている間に、泥浴を気持ちよさそうにするイノキチを見ながら、こいつは中央線に乗り込んできて、東京まで一緒に来てしまうのではないかと心配になってきた。
我が家である杉並区のボロアパートにはネコが何匹もうろちょろし、タヌキ、ハクビシンまで出没することがあるのだが、さすがにイノシシは・・・
そしてついに山道の終点まで来てしまった。本気で大ピンチである。もはやチーズフォンデュどころの騒ぎではない。イノキチに2人で必死で話しかける。
「お前は山に戻らないとダメなんだよ」
「これ以上先はお前の住むところではないのだよ」
モチロン言葉など通じないことはわかっているのだが、これまでも何をしようが頑なについてきたわけなので、訴えかけるくらいしか方法が残っていなかった。だがその甲斐もなく、イノキチは引き返す素振りすら見せなかった。
・・・しかし、別れは突然やってきた。
道はやがて車道にかわろうとしていた。
その道の先は二股に別れそのまま並行して走っていたのだが、左の道は登り、右は下っていた。われわれは左を行ったのだが、イノキチは偶然右に行った。イノキチは2つの道がどんどん上下に離れていくとは知らず、山道の時のようにまたいつでもショートカットして登ってこれると思っていたようだ。
道を進めば進むほどお互いの距離がドンドン離れていく。しばらく進んだところで、イノキチはそのことに気づいた。しかしその時、われわれは既に10m以上高いところにおり、その間には傾斜70度くらいのコンクリートブロックの壁があったのである。
その時とったイノキチの行動は今でも脳裏に焼きつき、決して忘れることはない。
次の瞬間イノキチは壁に向かって全力で走り、勢いで壁を登ってこようとした。もちろん登れるような傾斜ではない。数メートルは登るのだが転げおちてしまう。それでも諦めず、ほかに登れるところがないか左右に全力で走って探し、そしてまた駆け登っては転げおちた。何度も繰り返された。まるで母親に置いて行かれた子供が、死に物狂いに追いかけるようだった。
そんなイノキチの必死な姿を横目で見ながら我々は急いで立ち去った。
突然涙が出てきた。あいつは本当にご飯が欲しくて、ついて来ただけなんだろうか?あの懸命な行動の指し示すところにある、違う何かが、どうしようもなく切ない気持ちにさせたのだった。
「置イテ 行カナイデ・・・」
そんな声が聞こえたような気がした。
走るように車道を歩き、もう追ってこないであろうというところまで来たところで、ちょうど小さな公園があったので休憩した。涙が止まっておらず、相棒から見えないように顔を隠していた・・・
今でも、イノキチがついて来た本当の理由は分からないが、一つ確実に言えるとすれば、あまりに人馴れしていたことがあげられる。明らかにあれは野生のものではない。
ひょっとしたら、ウリ坊の頃に人に可愛がられて、大きくなってから人間の手に負えなくなって、捨てられたのかもしれない。人間が介在した結果、野生から離れてしまったような存在に感じた。
後日、この山行の事も頭の中から離れて来ていた頃、誕生日に相棒からプレゼントをもらった。あの涙を見られたのかどうか分からないが、それは小さな仔イノシシのぬいぐるみだった。なんだか懐かしくも嬉しい気持ちになった。
そのぬいぐるみの名前はもちろん
『イノキチ』
である。
おしまい
写真左:コラ、おイタはダメよ!
写真中央:我々と離れ離れになった事に気づいた。この後イノキチのとった行動は忘れられない。
写真右:ぬいぐるみの『イノキチ』
他のドタバタコメディを読む
www.yamareco.com/modules/diary/36225-category-4
cajaroaさん 初めまして、こんにちは!
イノキチ君のお話、全部拝見させてもらいジーンときました。
犬や猫でなら同じような体験をしたことがあります。ちょっと迷惑だけど可愛いし、かと言って連れて行く訳にはいきませんしね。別れ際が切ない…
teppan2013さん
はじめまして。
動物との出会って別れるというのは切ないですよね。なんだかんだで彼らは気持ちに素直だし、その後をいろいろ想像してしまうだけに、私も揺さぶられてしまいます。
イノキチの場合はまだ自然に帰るという道があるので、割り切りができますが、犬猫は特に難しいですよね。コメントの返事を考えている時偶然『78円の命』という小学生の話題の作文を見つけてしまい、読んだら切なくなってしまいました。
ごめんなさい、寂しくなってきてしまいましたね。でもこの話は私は基本的には喜劇に属するものだと信じています。チャプリンの微笑みと一粒の涙という範疇であってほしい。
最後までお付き合い下ってありがとうございます。
結末はちょっと哀しいね…
涙出ました…。
cajaroaさんと同じくウリ坊だった頃
人に飼われて捨てられた…のかなと思います。
こうやって一緒に山を歩く事もあったのかもしれませんね。
人慣れしてますが、
自分でミミズとか捕る能力はあるようだし、
野生に戻って逞しく生きてほしいと願います。
そしてガイド犬じゃなく、
ガイドイノになるかも…、と期待も込めて。
そうそう、長編日記三部作、お疲れさまでした。
貴重(?)な体験の執筆、ありがとうございました。
heheさん
こんにちわ、毎回コメントありがとうございます。
実は私も後編は涙を流しながら書いていました。普通にかわいそうな感じもするし、連れてきてしまった罪悪感を感じさせるしで複雑な心境です。ほんとうに迷惑なヤツです。
会社の昼休みとかにちょこちょこ推敲していたのですが、毎回涙が出るので、お昼の後の仕事の打ち合わせで、かなり怪しい人でした。
結局、ご飯あげた人はだれもいなかったし、休憩のたんびに地面を掘っくり返しては木の根なのか何か食べていたようなので、自立は出来ていそうな感じでした。間違って猟師についていかない限り大丈夫でしょう。
ホントあの『甘ったれ』が野山で、たくましく生きている事を願ってやみません。
最後までお付き合いいただき、ほんとうにありがとうございました。
続きを心待ちにしていました。
間違いなく餌付けされたイノキチですね。
イノキチ・・・
うちは犬がいるので家の畑には来ませんが
近年、裏山の筍の大半は猪と鹿に食べられます。
それで生計を立てているわけではないので
悔しい思いはあっても
どうしてもクリクリした瞳のヤツラが憎めません。
私は竹林のタケノコを見せびらかして
追い払う工夫をしてないので
私も餌付けした犯人です。
本能的に逃げなくてはいけない人とそうでもない人は
ちゃんと分かる様です。
かつて祖父は山の畑も毎日犬と上がり毎日手入れして
火を焚いていました。
祖父だけでなくほとんどの村人がそうでした。
人や犬の匂いをつけて
野生動物を山奥に押し上げていました。
自分の反省も含めて興味深く読ませて頂きました。
hobbitさん
こんにちは
そうですか、餌付けされていたイノシシでしたか。
私も動物に対するキャパシティが大きく、あの瞳を見たらアウトなタイプです。その辺りを見られていたのかもしれません。
また、はじめに出会った時、こちらが警戒を解いた直後に、アップの写真を撮っていますが(前編の真ん中の写真)、動物の目線の高さまでしゃがみ込んで撮ると、警戒が解けることが多く、そのような撮り方をしてします。そんなところで「本能的に逃げなくてよい人」と印象付けている可能性もあります。
hobbitさんのように普段周りにいないので、野生との付き合いも難しいものだと勉強になりました。
最後までお付き合いいただき、ほんとうにありがとうございました。
いいお話をありがとうございました。
(後編が待ち遠しくて仕方ありませんでした)
最後は想像以上に、せつないお別れでした。
イノキチ君が仲間を見つけ、人と争うこと無く元気に育っていくことを、切に願います。
なんだか、これからイノシシを見る目が変わってしまいそうですけど、そこは自然界の掟をわきまえ、変に感情的な行動を取らぬよう、自分に言い聞かせています。
ぬいぐるみのイノキチ君、大切に可愛がってあげて下さいね。奥さんのやさしさとともに。
sim_nnsさん
こんにちわ
人馴れしてしまう動物ほどかわいそうな運命を辿る事になる可能性があるので、相手の事を考えるなら、馴れ合いも程々にしないとですね。
小鹿物語のラストはかわいそうですし・・・でも黒部の山賊の著者の伊藤さんは著者の中でコッソリクマに餌付けして登山者を驚かせていたなんてのもありましたけど・・・
私の場合は、動物に近づいた事で、その一線をより強く意識するようになったのかもしれません。
いろいろコメントありがとうございました。私も一緒に考えられたと思います。
cajaroaさん、今晩は。
後編とても心待ちにしており、楽しく読ませて頂きました。
仕事で疲れた頭と心が、何だか和んで思わず笑みがこぼれました💕
今年は🐗イノシシに縁が有りそうな予感がします。
猟師さんから干し肉いただいたし(笑)
ふと思いました。「イノキチ物語」と題してエッセイ集を出版して欲しい位です📚
次回の日記を楽しみに待っております。
主人公は誰でしょうか⁉(笑)
ak0211さん
こんばんは
コメントありがとうございます。
おかげさまで、無事書き終えることができました。
イノシシも見方によっては可愛いですよ。
ウリ坊なんかとろけそうです。私も実物は見たことありませんが、
見て良し、食べても良し・・・・
すみません。ついいつもの癖でブラックになってしまいました。
次の日記、
熊と一緒に登山とかはないですけど、まだ全然イメージもありませんが、書いてる方も面白いので何か書くと思います。運良くエッセイ集が出ることになったらご連絡しますね。(笑)
とりあえずは先週、冬の赤岳に3回フラれてようやく晴れて登れた話を
半エッセイのレコとしてアップする予定です。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
cajaroa さん
はじめまして。(^-^)/
イノキチとのやり取りが大変楽しく、
1-2部は笑いながら読ませて頂きましたが
今回は最後に泣けてきました。
・゜・(つД`)・゜・
何かの事情で親御さんと離れてしまい
cajaroa さんと山で出会って心が通じ合う。
犬や猫ならまだしも、野生のイノシシで
こんなことがあるとは。。。
動物モノには特に涙腺弱いんですけど
あーもう、読み返す度に泣けます。
いいお話をありがとうございます! (*^^*)
sionさん
はじめまして!
野生動物とのやりとりは素敵ですよ!
ぜひぜひオススメです!と言いたいところですが、
主たるコミュニケーションが、「キューー」と、泥だらけの鼻でうしろからド突いてくることなので、その時は大変でした。(笑)でも、今思い返すとこんなに楽しかったんだ、楽しんでいたんだというのが、時間を置くことで思えるのが不思議です。
最後にああいう行動をしなかったら、ひょっとしたら私の中の印象も変わっていたかもしれません。何を考えているのか全くわからないので、普通に見ると餌をねだっているようにしか見えないでしょう。実は帰りの電車で「ラッセル泥棒おじさん」にばったり会って少し話したのですが、登山者が残したゴミを狙っているのだろうと言っていました。おそらく、山頂の登山者たちもそう思っていたに違いありません。
でも最後の別れを見てしまうと、そうは思えないんですよね。なんなのかはわかりませんが、違うもうちょっと温かめの何かであることは確かです。
全く迷惑な奴でしたが、sionさんや、みなさんに楽しんでいただけたので許しましょう。
最後まで読んでくださいましてありがとうございました!
はじめまして。
イノキチ君のようなかわいらしい猪さんもいるんですね(^^)結末、その映像を想像したらうるうるきちゃいました(T^T)
私は昨年、猪に遭遇しました。(ヤマレコ日記に載せてます)
数メートル先を数頭に横切られ、内2頭?が登山道と平行して藪の中を私のほうに歩いてきてたんです。その日は一人で山に行ってたし、他に人もいなくてめちゃくちゃ怖く動けませんでした。思いついた防御策を頭に浮かべ、泣きながら「ごめんなさい、来ないでー」と耐えてました。猪=怖い というだけではいけないと思い、しばらく考えましたね。私が猪さんの邪魔をしたのかもしれないし…お互い言い分はあるよなぁ〜、猪さんの言葉が分かれば怖いだけにはならないよなぁって。それは猪さんだけじゃなく、自然界の生き物すべてにおいてですけどね。ちなみにそれ以降、一人で山に行く勇気がなかなか戻らずにいますが(>_<)
tekuteku93さん
はじめまして。こんばんは
一般的には(イノキチみたいな餌付けされたヤツではなく)イノシシは相当繊細で、臆病らしく、人間は相当怖がり、基本的には逃げていくそうです。彼等にしてみれば進撃の巨人(人間を食べちゃう巨人と闘う話)みたいな感じなんじゃないかと思ったりもします。実際イノシシ食べちゃいますもん。
ツキノワグマなんかもそうですが基本的に攻撃に転じるのは向こうが怖くてパニックになった状況での、自己防衛のケースが多いとよく聞きます。あと子供を守るとか。
私は怖がらせなければ大事には至らないと考えるので、そこまで怖がりすぎなくてもいいんじゃないかなあと思います。まあこんな日記を書いている人間なので相当説得力ないですが。(^_^;)
横切ったイノシシさんたちは、人間に見つかりたくないから、ささっと通り過ぎて、繁みの中を隠れて歩いていたんじゃないかな?
きっと“イノレコ“に、『トンガリ山登山★大ピンチ!人間に遭遇』というレコがあがっているはずです。(^_−)−☆
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!!
2016年の記事なのにすみません。
私も泣かされました〜(涙)
イノキチ〜
頑張って生きるんだぞ〜
essanこんにちは!
甘ったれのイノキチは、どうしているのでしょう?
自然の中で走り回ってくれてるといいなぁと思います。
読んでいただいてありがとうございました!
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