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2015年2月に東洋書林という聞きなれない出版社から発刊された「ヒマラヤ探検史」を読み終わりました。副題に「地勢・文化から現代登山まで」とあり、原著は英国で2013年に出版されていてフィリップ・パーカーという歴史家が編者、序文をピーター・ヒラリー(エヴェレスト初登頂のエドマンド・ヒラリーの子息)が担当、全9章はそれ以外の8名(第3章と第4章は同一筆者)で分担執筆しています。
口絵には綺麗なカラー写真も掲載されていて、ハードカバーで354頁あり、読み応え十分です。登山に関する部分ではやはりエヴェレストに関する記載が一番多いですが、それ以外の高峰(K2、ナンガ・パルバッド、カンチェンジェンガ、アンナプルナ、ローツェ、チョー・オユーほか)に関しても十分な紙面を割いています。日本関連では、マナスルについてこそ一文のみですが、エヴェレスト南西壁の試みや、田部井淳子さんの女性初のエヴェレスト登頂(写真入り)、そして、本書出版直前の三浦雄一郎氏の80歳でのエヴェレスト登頂(当時、世界最高齢)、平出和也氏と谷口ケイさんのカメット東壁「サムライ・ダイレクト」など多くの登攀が他国のものと同じようにハイライトされています。
閑話休題的なコラム記事も豊富(39本)で、「ヘリコプターによる救助」というコラムでは、平出和也氏が関与した2010年アマ・ダブラムでのヘリ事故と翌日救助のエピソードも登場しています(私は知りませんでした)。その他で特に私の印象に残った記述は、1986年8月下旬にエヴェレスト北壁をアルパインスタイルで登り切ったスイスのエアハルト・ロレタンとジャン・トロワイエの2人の話。エヴェレスト山頂からほとんどの区間を尻セードで滑降下山し、何と3時間半で麓に降りたそうです。
ちなみに裏表紙にカラーで掲載されている写真には、1924年のエヴェレスト遠征隊の9人のメンバーが写っているのですが、後列で腰に両腕をあて、前列に座っているメンバーの左肩に右足を土足のまま乗せている生意気顔の登山家がジョージ・マロリーでした。私の大好きなヴィットリオ・セラの代表的な写真(写真集「SUMMIT」に収録されているものの一部)も掲載されています。
敢えて難癖をつけるとすると、訳語で一ヶ所。ピーター・ヒラリーの序文の中に「フランスの偉大な登山家リヨネル・テレイは、アルプスの登山家を『無益な征服者』と呼んではいたものの(後略)」という文章があるのですが、テレイ著の訳書(横川文雄/大森久雄訳、二見書房、1966年10月)のタイトルでは『無償の征服者』となっています。“無償”というと“見返りを求めない”といったニュアンスにも受け止められますが、“無益”だと“何の役にも立たない、無駄な”のようなニュアンスになってしまいませんでしょうか… ちょっとね。
【読了日:2017年6月14日】
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