人によりけりかも知れませんが、私はとっても楽しく読ませて頂きました。なんといっても著者自身が楽しんでいることが手に取るようにわかるからです。この本は、江戸時代の画家・谷文晁(1763-1840)が描いた「日本名山圖會」の山88座をひとつひとつ辿り、200年後の姿を絵と同じ構図で写真に撮る、ということを40年かけてやった成果になっているのです。そもそもデフォルメされている構図も多いですし、そもそも山の名前が現代とは違っているものも多数あります。また今時であれば、カシミール3Dなどのソフトでどの地点から描いた絵なのかを探すことも容易でしょうが、著者は地形図と現地調査とから場所を推定し、天気と相談し、時にはビルの屋上に上がるためにオーナさんにお伺いを立て、そして三脚を立てて、シャッターチャンスを狙う、ということを一山一山やってきたということです。その過程では、絵に描かれている街道を調べるために歴史考証をしたり、現地の市町村役場を訪ねたりと、その調査活動そのものがなんとも大変でかつ楽しそうなのです。つまり、200年の時を越えて文晁と二人三脚で名山を巡った楽しい旅をしているのです。200年たっても山の形は変わらないと思いきや、削られてしまっていたり(e.g. 武甲山)、噴火していたり(e.g. 雲仙、桜島)、植生が大きく変わった山も多いですし、なんといっても前景(山麓)の様子は、大きく変わっているのが普通であり、人間の勝手な都合による開発などを嘆くような事例も含まれています。
完全に撮影地点(やそもそもの山自体)を同定できていない山もまだいくつか残っているようなのですが、その余韻を残しているところにもまた味わいがあるような気もしますし、読者が自分で探してやろうか、という気になったりして、良い意味で尾を引いてくれたりもしています。
著者は学生(日本外語大)の時に、教師であった串田孫一氏と出会っていてその後雑誌「アルプ」の編集長を務めていますこともあって、この本の序文は串田氏が執筆していますが、そのタイトルが「完成の日の夢」というものです。この序文の最後に「読者が著者と共に悦ぶ本」といったことが書かれているのですが、まさにそういった本でした。図書館で借りて読みましたが、本当なら手許に置いておきたい一冊ですね。
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