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2024年10月25日 16:23登山道と地形図全体に公開

八ヶ岳白砂新道に関連して(訂正・加筆しました)

先日の八ヶ岳縦走の下山時に白砂新道を歩いていて、一箇所でルートミスをしてちょっと怖い目に合った。これをきっかけとして下山後に調べたことをまとめておく。

1. 白砂新道

白砂新道とは、八ヶ岳中部の根石岳と天狗岳の鞍部から本沢温泉に至る登山道である。鞍部から大月川と湯川の分水尾根を辿り、中間で南東に折れて湯川の谷底に下ると本沢温泉である。距離は1.5km、標高差は440m。白砂新道の名は、鞍部の分岐点付近に白い安山岩の岩屑が分布していて、遠目にも良く目立つことに由来するのだろう。

白砂新道では過去の積雪期に何件か遭難事故があり、現在は冬期通行止めになるが、夏期はある程度の通行量がある。ヤマレコの地図検索で調べると、今年の7月から9月までの3ヵ月で50件ほど、白砂新道を通行した記録が上がっている。

白砂新道はちょっとした難路であると思う。まず、全体としてかなり急傾斜である(平均傾斜16度)。最上部では崩壊地を通過する。私はここでルートミスをした。その下は樹林帯であるが、八ヶ岳(あるいは火山全般)特有のゴロゴロ石が多く、かつ路面がえぐれて段差があったり木の根が露出している(しばしばその両方の)箇所が多い。頻繁に手で身体を支える必要があるが(特に重荷の場合)、タチの悪いことに細い立ち枯れて腐った樹木が多く、うっかり掴むとそれがグラついたり倒れたりして、バランスを崩す。

山行記録を読むと、登りでは単に「疲れるルート」という感想が多いが、「下りには使いたくない」という人もいる。下りでは危険を感じた人がいる。本沢温泉でも「白砂新道は下りには使わない方がいい」というアドバイスをすることがあるらしい。私自身も、ルートミスがないとしても、もう一度下りたいとは思わない、

本沢温泉には、根石岳の南の夏沢峠からも登山道がある。本沢温泉のウェブサイトによると、こちらは元々は明治7年(1874年)に開通した佐久と諏訪を結ぶ生活道路であり、本沢温泉は明治15年(1882年)にこの峠を越える旅人のために建てられたとのことである。

では、白砂新道はいつできたのかという点について、(本沢温泉に問い合わせれば分かることと思うが)国土地理院の地形図で調べてみた。昭和49年(1974年)に初めて発行された2万5千分の1地形図「蓼科」には既に、現在の白砂新道に近い位置に破線道が記入されている。その前となると5万分の1地形図「蓼科山」になるが、昭和44年(1969年)の版まで、何も記入されていない。地図に記入されていないから登山道が存在しなかった、ということにはならないので、少なくとも50年前から存在していたとしか言えない。

なお、2万5千分の1地形図の白砂新道の位置は、平成26年(2014年)の版までは初版と同じだが、平成30年(2018年)の版ではかなり変更されている(図1)。これは例の「ビッグデータを活用した登山道修正」の最初の成果の一部であり、かなり正確である可能性が高い。私はこれを忘れて、肝心の所で地形図を良く見ず、ルートミスをしてしまった。なお、「ビッグデータを活用した登山道修正」の現状についてヤマノートにまとめたので、興味のある方はご覧下さい。
https://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=3608

2. 白砂新道上端部付近の地形と地形図

白砂新道に関連して気になることは、その上端部付近で地形図と実際の地形が乖離していることである。地形図では、東天狗岳の東縁に沿って南北1kmに渡って岩崖記号と岩記号が連続しているが、白砂新道のすぐ北で消滅する。これに代わって幅20mの間に4本の等高線が描かれているので、約60度の急斜面があることになる。白砂新道の分岐点からこの急斜面の上縁までは約40mの距離があり、ほぼ平坦とされている(間に等高線がない)。しかし、実際に歩いた感じでは、斜面は分岐点からすぐに始まり、かつ60度というほどの急傾斜の箇所はない。

この地域のDEM5A(平成25年(2013年)のレーダー測量で作成された標高データ)を使用してQGISで等高線を作成してみると、かなり様子が違っていて、分岐点のすぐ東から傾斜35度前後の斜面が続いている(図2)。明らかにこちらの方が現在の地形に近い。2万5千分の1地形図の等高線は、初版の時から変わっていないようである。したがって、昭和49年(1974年)の時点ではこの通りの地形であって、その後平成25年(2013年)までの間に稜線の崩壊が進行して、現在のような地形になったということ「かもしれない」。

この崩壊地を国土地理院の空中写真で見ると、最新の平成25年(2013年)撮影のカラー写真では、緑色の樹林の中の灰白色の裸地として明瞭に認識でき、東西30m、南北40mの規模である(図3)。平成13年(2001年)撮影の写真でも(やや不鮮明だが)、同様の規模で存在するようである。初版の2万5千分の1地形図は、昭和48年(1973年)撮影の空中写真を使用して作成されており、この写真ではこのような裸地は認められない。したがって、崩壊は昭和48年(1973年)から平成13年(2001年)の間に発生した可能性が高い。

ただし、地形図の等高線とDEM5Aによる等高線が大幅に乖離しているのは、この崩壊地の範囲に限らず、それより南の根石岳東縁まで延びている。したがって、地形図の等高線が初めからあまり妥当ではなかった可能性もある。

経緯はどうであれ、現状として地形図が実際の地形を反映していないのであれば、なるべく早く修正して欲しいものである。上で「肝心の所で地形図を良く見ず、ルートミスをしてしまった。」と書いたが、その時点で本当に詳しく地形図を見たならば、却って地形図を信用しなかったかもしれない。たとえ登山道の水平位置が正確なのだと言われても、地形が明らかに合わないのであれば信用する気にならないからだ。

3. 地形図の標高データに関する問題

国土地理院は空中写真に基づいて作成されている地形図の等高線よりも、航空レーザー測量から作成されるDEM5Aの方が標高の精度は高いと言っている。しかも、国土地理院がいう標高の精度というのは、おそらく理想的な条件下のものである。実際の写真測量においては、雲、絶壁、深い谷等が生じる陰が原因となって、基となる空中写真から十分な情報が得られない場合、精度はもっと落ちるだろう。レーザー測量はこれらの影響を受けにくいと考えられる。

また、樹林帯では、空中写真から直接得られるのは樹冠の標高であって、地表面の標高を得るには樹高を推定して差し引かねばならない。これに対して、レーザー測量では、樹冠からの反射と樹冠を透過した地表面からの反射の両方を得ることができ、樹高を推定することなく地表面の標高が得られる。

そうであれば、地形図の等高線をDEM5Aの等高線に置き換えればいいのにと思うし、そういう検討が行われている節はある。しかし、そう簡単には行かないらしい。

一つには、そもそも国土地理院の航空レーザー測量は、全国的にみればまだ進行中である。小縮尺の地図で見ると7割ぐらいの進捗率に見えるが、一見終了した地域でも拡大して見ると空白箇所が結構多数ある。例えば八ヶ岳についてはほぼ終了しているように見えるが、本沢温泉を含む南牧村西部の25km2ほどの範囲でデータの空白がある。

もう一つは、標高以外のデータは空中写真から取得せざるを得ないので、これとレーザー測量結果との間で水平位置の整合性を確保する必要がある。が、現状ではこれが十分ではないようで、私が奥多摩等で検討した結果、地形図の等高線とDEM5Aによる等高線との間で、水平位置が系統的に数10mずれていると思われる例が多数見られた。

標高値が違うということは、単に山の高さが違うというような1次元の問題ではなく、尾根や谷の形が違うという3次元の問題である。私はもう一般登山道しか歩かないが、かつて沢登りや山スキーをやっていた者として見ると、地形図の等高線とDEM5Aの等高線の違いは結構衝撃的な場合がある。

「どうも地形図の等高線がおかしいのではないか?」と思った経験のある方は、とりあえず下記のウェブサイトで、興味のある地域のDEM5Aによる等高線と地形図の等高線とを比較して見ていただきたいと思う。

全国Q地図MapLibre版 https://maps.qchizu.xyz/maplibre/
Web等高線メーカー https://ktgis.net/service/webcontour/index.html
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