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当時、自分も報道を見て「ガイドがついていながら何故」と思っていた。
詳細な取材と検証によって”何が起きたのか”が浮かび上がる。
インタビューをもとにした前半のドキュメンタリーは、ささいな選択の積み重ねで徐々に追い詰められていく様が恐ろしかった。
極限状態で各々が必死で対処しようとする姿には泣きそうになった。
自分があの場にいたなら間違いなく遭難死した側であったろうとも思った。
後半の「気象遭難」「低体温症」「運動生理学」の各章は、まさにこの本に出会えて良かったと思える、自分が読むべき章だった。
特に低体温症については、それまで漠然とした知識でしかなかったものを、必要な情報として整理することができた。
以下、自分のメモとして。
▼低体温症について
◎まず ”低体温症の最も恐ろしい点は、意識レベルが下がるので自分の意志で防御する動作さえできなくなることにある”点。
防寒具を着る、ツェルトを出す、といった判断が出来なくなるのは致命的だ。
◎また ”最初の疲労症状と低体温症の初期症状との区別が、山中ではできにくい”こと。
症状が出てからでは、たぶん遅いのだ。
◎”低体温症とは体温が35℃以下に下がった状態”で、
”気温がかなり高くても起こる”。
たとえば“水難事故の場合、水温が20℃以下の水に長時間浸かっていれば、低体温症が起こり得る”。
寒さ、強風、濡れ、といった条件が揃えば、体力や体熱を急速に失ってしまい、2時間くらいで死に至る場合もありえるそうで、これは山行中であればほとんど時間的な猶予がないということになる。
◎”風にについては、体温を低下させるだけではない”。
”強風に逆らって歩く場合には莫大なエネルギーや体力を使い、疲労を早める”。
”風速20メートルの時には消費エネルギーが二倍以上になることも予測できる”。
このケースのような暴風の中を歩く場合、標準コースタイムが20分であったとしても、倍か、それ以上かかってしまうことはあり得るということだろう。自分はそんな暴風の中を歩いたことがないけれども…。
◎動いて体を温めるというのも、
”気象条件がそれほど悪くなく、体力に余裕があるとき”
なら可能だが、
”極度の悪天時の場合、体力を急速に奪われることや、体熱を失う速さも急激であることを考えると、体を動かし続けていれば急速に消耗してしまう危険性が高い”。
水難事故においては”できるだけ着衣を多くした上で、じっとしていること”が正しい対処法なのだそう。
休憩後に歩き始めた時、体の末端で冷えた血液が心臓側へと送られ、内部から冷えて一気に症状が悪化するのも恐ろしいと思った。
これらの各章は、事故調査報告書と重なる内容が書かれているので、そちらを読んでも良かったかもしれない。
私はこの本を読んだ後に興味を持って調べるうちに辿り着いた。事故に興味を持って追っていた方ならご存知だと思う。
■トムラウシ山遭難事故調査報告書 http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf
低体温症は、確かに昔は「疲労凍死」と言っていた。
自分の学生時代はゴアテックスの雨具が広く普及した頃に当たるのだと思う。
身の回りではゴアテックスを持つ人はまだ半分以下だった。
着ると内側が蒸れてビショビショになってしまうような安物の、けれど入門者向けとしては当時ごく一般的な雨具を使っていたので、一度ゴアテックスを借りて山へ行った時「うひゃぁ〜全然濡れない!すごいすごすぎる!」と大感動したのを覚えている。
その頃、疲労凍死は案外、雪のない秋山、夏の高山でも多いのだと教わった。
紅葉を見に行ったらうっかり雨に打たれてしまい、気温も氷点下に下がる…そんな状況を想像して「嫌だ!お盆を過ぎたらもう北アルプスなんか行かないぞ」と決心したのだった。
濡れたら寒いのは春秋の低山でも味わったし、晩秋の山で雨に打たれて道迷いをした時には、こうして疲労凍死するのかもしれないと思ったこともあった。私は寒さに弱いので、そういうのは身にしみて覚えている。
冬期合宿で雨に打たれた同期が「寒い寒い!」と叫びながら服を脱ぎだした話を、半分笑い話にしていたけども、実はかなり深刻な状況だったのだなと改めてゾッとした。
kerokero3さん はじめまして。こんばんは。
2010年の「山と渓谷8月号」にこの遭難事故について、助かったガイドのインタビューを中心に特集が組まれていたのをたまたま北海道の息子の家で読みました。本格的に山を初めて間もなかったので、いろいろな事故の検証記録やドキュメントなども手に取りました。5年ほど前にこのヤマケイ文庫が発売され、それを読んでから、さらにむさぼるように記録やドキュメントを読みあさりました。山の怖さや、装備の大切さを私に教えてくれた最初の本でもあります。トムラウシの事故は当時衝撃が大きく、今でも忘れられません。そして、「夏でも低体温症はおこる」という事実を教えてくれた事故でもありました。
todora5502さん コメントありがとうございます。
「山と渓谷」で特集されたのですね。ちょっと探してみましたが2010年のバックナンバーは最寄りの図書館にはありませんでした。
当時私は山から離れていたので、テレビでしか見ていなかったのですが、「初心者が軽装で」といった報道がされていたように記憶しています。実際とはだいぶ違っていたようです。
大量遭難というショッキングな事故であることも忘れがたいのですが、このように事故後の検証が行われ、低体温症について広く知られるようになったことは重要だと思います。事故調査に当たった方々、出版に関わった方々、関係者の皆様のご尽力に感謝したいと思います。
かなり前にこの書籍を簡単に立ち読みし、「トムラウシ山遭難事故調査報告書」もチェックしたのですが、知りたい情報がほとんど記載されておらず、がっかりしたことを思い出します。
強風下の降雨、低温の状況では雨着の下にアクリルや羊毛のセーターを肌に直接に着用する、というのは昔から言われてきたことです。それ以外の衣類はザックに濡れないような着意をして運ぶ、です。
生還者と死者を分けたものはそれに違いないのではと探しましたがほとんど記載がなく、ガイド登山の組織論ばかりが目立ちました。
結局、亡くなった人たちは、強風+低気温で死んだのか、強風+低気温+濡れで亡くなったのかはわからずじまいでした。低低温、低体温と何度もくりかえしておるけれど、基本的なエレメントの分析も、おそらくはその前提の情報もない報告書って、なんだろうと疑問に思ったことを思い出します。
3pinner さん はじめまして。
低体温症を発症して救助されたガイドの方については、ご本人のインタビューの中で、発症した直接的な原因は渡渉地点で転んで濡れてしまったことだと言及されていました。
衣類については一般的な夏山登山の装備を全員が持っていたようですが、着るタイミングを失したのか、先に低体温症を発症してしまったためか…せっかく持っていた防寒着を着ることなく亡くなった例もあったようです。
私自身、体力がないほうなので、あの場にいたら防寒着を着用していても強風と疲労の蓄積とで、急速にエネルギーを消耗しきって倒れていたのではないかと思いました。
いくつもの複合的な要因が重なってそれぞれの方の明暗を分けたのでしょうけれど、衣類についての正解は3pinnerさんのおっしゃる通りだと思います。私も学生時代そのように教わりました。
こんにちは。私が読んだ記憶では、
充分な防寒装備を持っていたが、荒天の屋外だったので着替えられなかったのではとあった気がします。雨具のメンテも個人差あり明暗分けたとも。
最初の1人が動けなくなった時、
全員その場で吹きさらしで長時間待機させられたのが致命的だった様ですが、自分が参加者だったらどうしただろうと考えます。ツアーを離脱?持参のツェルトにくるまるくらいしか出来ないかな…
sikakaiさん、こんばんわ。
天候が荒れてから雨具の下に防寒着を着込むというのは、もろもろ難しいことなのかもしれないと思いました。(状況やタイミングの判断を含め)
白馬岳のケースでも防寒着を持っていながら使われなかったのだと記憶しています。
ツェルトを持ってれば確かに心強いかもしれませんね。
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